第147話 逆ハーレム?

 女王がゼクードと密談している間、レイゼはフランベール達と城の中央ホールにて休んでいた。


 四人分のエールがテーブルに置かれ、四人分の椅子も置かれている。

 備え付きの大きな暖炉は広間を適温にし、快適な空間を生み出していた。


「……オレたちの世代は、過去の惨劇を母親たちから聞かされて育ってる。そりゃあ酷いもんだったらしいぜ」


 椅子に座り、エールをイッキ飲みしたレイゼが言った。

 三方向に座るフランベール達は彼女に視線を集中させる。


「それをなんとかしようと立ち上がったのが、あの女王だ。助けは来ないと割り切って、行動を起こしたらしい」


 飲み干した木製コップをテーブルに置き、レイゼは脚を組む。


「酒・暴力・女。それしか頭に無い男どもの攻略は案外と楽だったって言ってた。酒でフラフラにしてそこを襲う。それだけで面白いほど反逆が上手くいったらしい。バカばっかだったって事だな」


 言って、レイゼはフランベールたちがエールを口にしてないことに気がつき「遠慮せず飲んでいいからな?」とだけ促した。

 フランベールたちが頷き「頂きます」「頂きますわ」とコップをそれぞれ手にして飲み出す。


 それを確認したレイゼは続けた。


「何故か女王は都合よく剣の覚えもあったらしくてな。みんなの先頭に立って、男どもを叩いた。そしたら英雄扱いさ」


「それでそのまま女王様になったんだね」


 フランベールの言葉にレイゼは頷く。


「ああ。他に適任者もいなかったらしい。実際、人選は間違ってなかったんだろ。少しずつだけど、この国は良くなってきてる。……だが、そう思ってた矢先にこの雪だよ。最悪だ」


「大丈夫。みんなで協力すれば必ず解決できるよ。どんな強いドラゴンが出てきたって、ゼクードくんがやっつけてくれるから」


 ニコリと微笑むフランベールに、レイゼは溜め息を吐いて天井を見上げた。


「……そういう他力本願、あんまり好きじゃねぇんだよなぁ……情けなくってさ」


「そうだね……レイゼさんのその気持ちはすごく正しいよ」


 まるで人を包み込むような、そんな優しい声音だった。

 とても自分にビンタしてきた女とは思えないほどに。


「でも人は……実力以上のことはできないから……」


 そしてこの、急激に紡ぐ重い言葉だった。

 当たり前の事を言ってるだけなのに、このフランベールという女が言うと妙に重く、変な説得力がある。


 だがレイゼの中ではこのフランベールという女は特別で、決して怒らせてはいけない人間だと思っている。

 あの怒りを孕ませた笑顔は今でも脳裏に焼き付いており、思い出せば血が凍る。


 そんな畏怖すべき対象であるからか、今の言葉に説得力を感じているのかも──


「我々も努力はしたつもりだが、結局はゼクードに及ばないでいる」


 ──不意に口を割ったカティアの言葉に、レイゼの持つそれらの懸念は消えた。


「わたくし達には、彼の後ろを付いていくのが精一杯ですわ」


 ローエも重い口を開き、そう言った。

 挫折を経験したらしい女達の言葉はレイゼの胸に重く響く。

 この妙な説得力。

 やはり彼女たちは人を納得させるだけの経験をしてきたのだろう。

 

 あんなに強いローエ達でも、こんな顔をさせるゼクード。

 確かにあのゼクードというガキの強さは桁が違った。

 なに食ったらあんなに強くなれるんだ?


 あいつが動いた時、オレは一歩も動けなかった。

 うちの女王より普通に強い。

 あいつを見ていると、女王にすら勝てない自分がちっぽけな存在に感じる。


 いや……現にちっぽけなんだ。オレは……

 次期女王としての覚悟も持てない。

 ただただ母が嫌いで、反抗的で、いつまでも子供みたいな自分。


 こんな女が、強くなれるわけがない。

  

「……頼もしいねぇ。そんな化け物が味方になってくれるなんてよ。オレからすればアンタたちでも十分強いんだけどな」


「ふふ、ありがとう。でもまだまだ。どんなドラゴンが出てきても大丈夫なようにもっともっと強くならなきゃね」


 フランベールが言うと、エールを飲み切ったローエが同意する。


「そうですわね。わたくし達の子供のためにも。もっと強くなりませんと」


「へぇ? ローエさん。あんたも子供がいるのかい?」


 カティアだけじゃなかったのか。

 この人も子供がいる既婚者だったか。

 まぁ、美人だし当然か?


「ええ、三人いますわ」


 カティアと同じだ!


「あんたも三人!? ちょ、ちょっと子供作るの早くないかみんな。【エルガンディ】ってそれが普通なのか?」


「え? あ、違いますわよ? わたくしが生んだのは娘一人ですわ」


「いや今さっき三人って言ってただろ!?」


「子供が三人いるって意味ですわ。そこのカティアが息子を一人。そっちのフランベールが娘を一人。計三人の子供がいるって意味ですの」


「紛らわしいな! なんで一括りにしたんだよ?」


「わたくし達は三人ともゼクードの妻ですもの」


 ────…………は?

 え? 妻? 

 え、だって……ゼクードの妻って、カティアなんじゃ……


「カティアの子供はわたくしの子供。フランベールの子供もわたくしの子供ですわ。家族ですもの」


「は? ぇ、いや……え? 妻? カティアさんだけなんじゃ……?」


「そう言えば説明してなかったな。すまん。ローエとフランもゼクードの妻だ」


 エール片手にカティアが謝ってきた。

 

「マ、マジなのか!? それって、逆ハーレムじゃねぇか!」


 どうやらシエルグリスではフォルス家は逆ハーレムになるらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る