S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった

ミズノみすぎ

第1話 お嬢様なS級女騎士ローエ・マクシア

 ドンドンドンドンドンドン!


 早朝から玄関を連打してくる。


 やかましい。


 誰だ?


「開けなさいゼクード・フォルス! あなたがここにいるのは分かってますのよ! 大人しく出てきなさい!」


 いや、俺が何をしたって言うんだ。

 そんな兵隊さんの御用になるような真似はしてない、はず。

 いや、それよりもこれは麗(うるわ)しい女性の声だ。


「はーい! いま開けますよー!」


 訪(たず)ねて来たのが男だったならば、俺は間違いなく寝留守(ねるす)を決め込んでいただろう。

 しかし女性ならば話はべつだ。


 騎士たるもの女性を無下にはできない。


 俺は意気揚々と玄関を開けた。

 開けた先に立っていたのは長い金髪の女性だった。

 それはもう眼が覚めるほど美しく、高貴なオーラを出した方(かた)だった。


 緑を主とした鎧に身を包み、少しつり上がった鋭いエメラルドグリーンの瞳が輝く。

 髪に留めた羽飾りがとてもよく似合っている。


 鎧の上からでも分かるほど起伏(きふく)に富(と)んだ非凡なスタイルが目を引くうえ、腰に手を当てた姿がやたら様になっている。


「……あら? あなたが【黒騎士(ダークナイト)ゼクード】なの?」


 心底意外そうにその女性は言った。

 

 まぁ、俺は初対面にはだいたいこんな反応をされる。

 どうにも顔と名前が釣り合ってないらしい。

 これでも身なりには気をつけているのだが。

 そもそも名前が悪者っぽ過ぎる。


「ええそうですよ。あなたは?」


 失礼のないように聞くと、女性は丸くしていた眼を鋭く戻した。

 美人アピールなのか、美しい金髪をふわりと手で撫でて揺らす仕草をした。


 うん。

 普通に綺麗だ。

 あざとくても美しいものは美しい。


「早朝に失礼。わたくし【緑騎士(エメラルドナイト)】のローエ・マクシアと申しますの。今後編成される【ドラゴンキラー隊】の隊長に一目会いたくて参りましたわ」


【ドラゴンキラー隊】と言えば先日俺が国王に任された部隊の名前。

 隊長はもちろん俺。


 そんな俺に会いたくて参りましたとは、素敵な誘い文句である。


「ああ、ということはあなたは部隊の一人ですね。俺はゼクード・フォルスと申します。若輩者(じゃくはいもの)ですがよろしくお願い致します」


 握手を求めて手を差し出すと、ローエはその手をパシンと弾(はじ)いて睨(にら)んできた。


「勘違いしないでくださる? わたしくはまだあなたを隊長とは認めてませんの」


 やっぱりかぁ。

 まぁ、そうだろうなと、部隊を任された時から不安は感じていた。


 何故なら国王から頂いた部隊名簿に【ローエ・マクシア】の名はあり、彼女の年齢が17歳とあったのだ。

 隊長となる俺は15歳。

 つまり年下だ。

 2つも下の隊長なんてさすがに嫌なのだろう。


「やっぱり年下の隊長は嫌ですか?」


「当たり前ですわ。自分より場数を踏んでない人間に上を立たれるなんて納得できませんもの」


「気持ちは分かります。俺も自分の隊長が男だったら本気で嫌ですもの」


「……は? ちょっと何を言っているのか分かりませんが、わたくしの上に立つ者ならそれ相応の実力を持っていないと困りますわ」


 言って、ローエはまた自慢らしい金髪を手で揺らした。

 ふわりと良い香りが漂う。素晴らしい。


「ご存知かと思いますが、わたくしはこの国で三人しかいない【S級騎士】ですの。だから──」


「あ、ローエさん。【S級騎士】はいま四人ですよ。つい昨日俺も【S級騎士】に認められたので」


「──あぁ、そうでしたわね。ではその【S級騎士】に成り立てのあなたが何故わたくしより上の隊長として選ばれたのか、教えてくださる?」


 俺が隊長に選ばれた理由か。

『部隊の中で君だけが男だからだよ』

 正直これだけなんだよなぁ国王が言ってた理由は。


 これをいま正直にローエに告げたら激昂(げきこう)するのは間違いないだろう。

 プライド高そうだし、現に高いから今こうして文句を言いに来てるのだろうし、さてどうしたものか。


「たぶん、部隊の中で俺が一番強いからじゃないですか?」


 言ってから後悔した。

 これさっきの国王の理由よりケンカ売ってるよ。

 でもまぁ俺はドラゴン狩りには自信がある。


「あら?」


 冷めた声音を発し、ローエは眼をスゥッと細める。

 

「それはわたくしに対する宣戦布告と受け取ってよろしいのかしら?」


 ヤバい。

 このひと目が本気(マジ)になってる。

 

「泣いて謝るのなら今のうちですわよ?」


 いや、それはさすがに男として情けなさ過ぎるだろう。


「ご冗談を。ならば今日の放課後、俺と一緒にドラゴン狩りへ行きませんか?」


 自信満々に言ってみた。

 実力を披露できるし、こんな美女と一緒にドラゴン狩りデートができるというのは悪くない。

 むしろ素晴らしい。


 当のローエは俺の言葉に驚いていたようで、またも目を丸くしていた。


「……どうやら自信はあるみたいですわね?」


「もちろん。ガッカリはさせませんよ?」


「ふふ、面白い人ですわ。ま、今日はそのつもりで来ましたから良いですわよ? 放課後にゲートで合流しましょう」


「了解です」


 俺が返事をするとローエは踵を返した。

 ドレス状の鎧をカシャカシャさせて去っていく。

 その彼女の背を見やると、ローエの得物らしい巨大なハンマーが担がれていた。


 あれはトリガーウェポンと呼ばれる特殊武器の『マグナムハンマー』だ。

 殴ると爆発して追加ダメージを与える超火力武器である。


 女性でありながら超重量の武器を扱える。

 さすがは【S級騎士】である。


「あのローエさん!」


「はい?」


 俺の呼び止めにローエが応じて振り向いてくれた。

 どうしても聞きたいことがある。

 今聞くべきか迷ったが、聞いてしまおう。


「彼氏とかいます?」


 聞くとローエが止まった。

 何を聞かれたのか分かってない様子。

 今きっと脳内で整理されてるはずだが。


「いるわけないでしょ! なんなんですのいきなり!」


 顔を真っ赤にして怒るローエは可愛かった。

 年上なのに可愛い。


 というか、いるわけない?

 そんなバカな。

 こんな美人なのに。


 あ、美人特有のとっつきにくさのせいか?

 たしかにローエはスキが無さすぎて近づき難い雰囲気があるが、こういう女性はそれがいいと思うのだ。


「いやすみません。もし彼氏持ちとかだったらやる気でなくて俺」


「意味が分かりませんわ! バカですの!?」


「バカじゃありません。これでもけっこう真面目です」


「嘘を仰(おっしゃ)い! まったく! 失礼ですわ!」


 いやぁ~こんな早朝からわざわざ文句言いに来るあなたも大概失礼ですよ~とは言わない。

 S級美人さんなので許す。

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