第2話 クールなS級女騎士カティア・ルージ
俺の両親は、俺が五歳の時に亡くなった。
父は戦死。母は病死。
そんな寒い幼少期を過ごしていた俺は、父の言葉だけを信じて生きてきた。
『いいかゼクード。女にモテたければとにかく強くなれ。男はな、弱くてダサいと言われることは多々あるが、強くてダサいと言われることはまずない!』
俺はこの言葉を信じて、女性にモテるために鍛錬にも精を出した。
その甲斐あって今ではS級騎士にまで上り詰めることができた。親父様々である。
これからこの強さで素晴らしい女性を射止めていくつもりだ。
ずっと家では一人だったから、俺は大家族に憧れている。
俺の住むエルガンディ王国は一夫多妻の家系がかなりある国だ。それに何度と見せつけられたことか。
だから手に入れてみたいのだ。
自分だけの大家族を。
自分を中心に大きくなる【フォルス家】を。
もう一人で寂しく暮らすのは嫌だから。
「──ということが朝からあってな。放課後にローエさんとドラゴン狩りデートすることになった」
「デートとか言うな。狩りは遊びじゃねーんだよ」
そんなやりとりを友人グリータと騎士学校でやっていた。
ここは『騎士=ドラゴンを狩る人』を育成する野郎だらけの学校だ。
もちろんローエ・マクシアみたいな女騎士もいるが極めて少数派である。
ちなみにここは騎士学校だからみんな服は鎧だ。
俺も王国から支給されたミスリル製の漆黒の鎧を着て登校している。
それに比べてグリータや他のクラスメイトたちは革の鎧ばかりである。いやダサい。実にダサいぞお前ら。
まぁ俺と同じ鎧を着ても重くて動けなくなるだろうが。
あと武装もしている。
俺の得物は大剣をスリムにした長剣ロングブレードだ。
父の形見でもある愛剣だ。
ローエ・マクシアが持っていたような特殊な武器ではないが、これもミスリル製の素晴らしいS級武器である。
こんな装備をしていても校内抜刀は禁止されている。
このフル装備状態なのはいつでもドラゴン狩りに出撃できるようにするためという理由であり、校内ではただの制服扱いである。
万が一にでもドラゴンが街中に侵入してきたら即座に対応するためのフル装備なのだが、授業がやりにくいことこの上ない。
というか、侵入されたら王国の騎士さんがなんとかしてくれるでしょうに。
学生騎士に出番なんかないと思うのだがどうだろう?
とりあえず担任のフランベール先生が来るまで俺はクラスメイトたちと雑談を楽しむことにした。
「いやでもあんなに美人だから彼氏の一人や二人はいるかもと思ったがフリーだったよ。良かった良かった」
「ゼクード。お前って本当にそんなことばっかりだよな? 騎士として恥ずかしくない?」
「俺の騎士道は金・筋肉・女だからな」
「騎士道に謝れ」
クラスメイト全員からクレームが来た。
「いや今は亡き俺の父だって騎士道は酒・金・女って言ってたよ?」
「親子揃って地獄に落ちて」
またクレームが来た。
しかもお願い系!?
ピッタリ揃った声でのクレームだ。
今日も野郎どもは仲がよろしいようで。
「ローエ・マクシアって言ったら騎士学校の三年生だったよな?」
グリータが言うとクラスメイト達がうんうんと話し始めた。
「そう。まだ学生騎士なのに【S級騎士】に認められるほどの実力者で【緑騎士】の称号を持ってるんだ。王国の正規騎士より遥かに強いって話だよ」
それ、俺もだからね?
誰か誉めてよ俺のこと。
昨日やっと【S級騎士】になったんだよ俺も。
お前らみんなまだ【C級騎士】だろう?
だっせぇ~。
男のくせにだっせぇ~。
ゴン!
「いて!」
なんかグリータにいきなり殴られたんだが。
「な、なぜに?」
「すまん。なんかムカついた」
「うん」とクラスメイト達もグリータに頷く。
酷い。口に出してないのに。
誉れ高い【S級騎士】の威厳もあったものではない。
見下しオーラが出ていたのだろうか?
痛む頭部を撫でてると、教室の扉がガラリと開けられた。
フランベール先生かと思いきや。
「失礼するぞ。ここにゼクード・フォルスはいるか?」
フランベール先生ではなかった。
あの先生はこんな男っぽい喋り方しない。
しかし男っぽい喋り方だが声そのものは女性のものだ。
俺は即座に手を上げて彼女の呼び掛けに答えた。
「はい! 俺ですよ!」
俺はその女性を見た。
黒いリボンで赤い髪をポニーテールにしているその女性は真紅の鎧を纏っていた。
剣のような鋭さを持ったライトブルーの瞳が俺を見据えてくる。
う、美しい。棘のある美しさだ。
「ほう? お前が【黒騎士ゼクード】か?」
【S級騎士】になったと同時にもらった【黒騎士】という称号。
名前とセットで呼ばれると凄く悪役っぽい。
「ええ、あなたは?」
「カティア・ルージだ。【ドラゴンキラー隊】の一員になる者だ」
やっぱりか。
名前で気づいたが。
たしかこの人【紅騎士】って部隊名簿に書いてあったはず。
「キサマが私の隊長に相応しい実力なのかどうなのかを見たい。今日の放課後は空けておけ。キサマとドラゴン狩りの勝負をする」
「あ、はい」
一方的に言い放ってカティア・ルージは去っていく。
なかなか強引な女騎士さまだ。
俺は彼女の背に担がれた【バスターランサー】と片手に持たれた【タワーシールド】を見た。
彼女もまたトリガーウェポン使いなのか。
【バスターランサー】は突き刺した先で爆発を起こしてダメージを重ねる武器だ。
扱いが難しいと評判で、使っている者を見たのはカティアが初めてである。
「あのカティアさん!」
「なんだ?」
「彼氏います?」
「このタイミングで聞く!?」とクラスメイトたち。
当のカティアは眉をひそめ、腕を組んできた。
「いるように見えるか?」
「見えます。とても綺麗ですから」
「……」
カティアはどこか呆れたように溜め息を吐く。
踵を返して「女を見る目がないな」とだけ残して去って行った。
見る目がない?
さすがにそんなことないと思うけどなぁ。
「や、やばいなこれ。ローエ・マクシアと同じ三年生の【S級騎士】カティア・ルージだ。ゼクードお前、本当に大丈夫かよ?」
グリータが震える声で俺に聞いてくる。
俺は親指を立てて答える。
「大丈夫だ。こう見えて俺は理性は強いからな」
「は? 理性?」
「カティアさんのスタイル見たろう? ローエさんに負けず劣らずのボン・キュ・ボンだった」
「どこ見てんだ!」
クラスメイト全員からつっこまれた。
「ローエ・マクシアとカティア・ルージに挑戦状を叩 きつけられてんだぞ? ゼクードお前、もう少し緊張感ってものをだな」
「ゴリータ。言いたいことは分かるが、勝てばいいだけの話じゃないか」
「おれはグリータな? いやその勝つのが難しそうって話であって」
「別に負けても殺されるわけじゃないし、そこまで深刻にならんでも良いだろうロリータ?」
「グリータな? 次その間違え方したらぶっ飛ばすぞテメェ。……まぁお前がそうなら別にいいけどさ、つかその【ドラゴンキラー隊】ってなんのための部隊なわけ?」
グリッシュだけでなくクラスメイト達もみんなそれが気になってたようで、視線を俺に集中させてきた。
なんだ。
まだ情報は回ってないのか。
まぁ昨日の今日だし仕方ないか。
「ふむ。なんでも最近『危険度S級』らしいドラゴンが各地で目撃されているらしくてな。そいつらを討伐するための部隊らしい」
「『危険度S級』!?」
クラスメイトのみんなが驚愕した。
それもそのはず。
『危険度S級』のドラゴンは一匹で街を壊滅させるほどの化け物なのだ。
『危険度A級』のドラゴンなど可愛く見えるほどにレベルの差がある。
10年前にも忌々しい一匹の『危険度S級』ドラゴンが現れたことがある。
そいつには多くの街や村が壊滅させられ、おぞましい数の人間が犠牲になった。
たった一匹でだ。
そんなヤバい『危険度S級』ドラゴンが複数も目撃されたのだ。
クラスメイトたちが驚愕するのも無理はない。
「か、各地で『危険度S級』ドラゴンが!?」
「マジかよ……」
「複数も現れたとか、勝てんのかよ」
「そう! これが本当なら金とか女とか言ってる場合じゃないぞお前ら!」
「お前だよ!」
またクラスメイト達に全方位から集中放火された。
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