第113話 共同戦線
森から一斉に飛び出てきたA級ドラゴン軍は、火球の一斉射撃をS級ドラゴンどもにお見舞いする。
それが決戦の合図となり、俺たちの前でドラゴン同士の対決が始まった。
ディザスタードラゴンが吼えて、S級ドラゴンたちがそれに応えるように応戦を開始する。
ブルードラゴンが白銀のブレスを放ち、リザードマンも火球を乱射する。
その弾雨に何匹ものA級ドラゴンが吹き飛び、絶命していく。
しかしその中で一匹だけ驚異的な速度で突撃するドラゴンがいた。
そいつは見覚えがあった。
眉間に傷があるA級ドラゴンのリーダー。
傷痕のドラゴンだ。
ブレスと火球の弾幕を抜けたそいつは、肉薄したリザードマンの両目を爪で潰した。
自分の何倍もある大きなドラゴンに臆することなく、あっさり視力を奪って無力化した。
まさに一陣の風の如く。
なんだあいつ!?
ただのA級ドラゴンじゃない!
他を従えるだけあって実力は本物だ!
頭も良い。
S級ドラゴンの竜鱗は堅い。
貫けないなら視力を奪って無力化していく。
小柄な身体を活かして敵を翻弄し、次々とS級ドラゴンを無力化していってる。
また敵を翻弄できるほどの脚力をあの傷痕のドラゴンは持っているようだ。
目を潰すだけでなく、敵の同士討ちも誘発させている。
同じA級ドラゴンでも、他のドラゴンとは桁が違うらしい。
その傷痕のドラゴンがディザスタードラゴンに殺気のこもった咆哮を発した。
対するディザスタードラゴンは……意外にも一瞬だけ怯んでみせた。
──あのディザスタードラゴンが、あんなA級ドラゴンごときに怯んだ?
しかしディザスタードラゴンはすぐに気を持ち直したのか傷痕のドラゴンに吼え返した。
やはり雷や嵐を使う気配はない。
周囲の森がリザードマンの火球で燃え上がり始める。
「一匹、骨のある奴がいるな」
この事態の中でもカティアは感心した声を上げた。
「やっぱりディザスタードラゴンは雷や嵐を使いませんわ」
「ローエさんの説が当たったね!」
フランベールが大弓を展開しながら言う。
俺は頷き、ロングブレードを握り直した。
「俺はあのA級ドラゴンどもを利用してS級ドラゴンを全滅させる。みんなはディザスタードラゴンを討て!」
「了解!」
女騎士たちの声が弾けた。
一足の踏み込みで爆発的に加速し、それぞれが戦闘へ突入していく。
俺は愛剣『ハーズヴァンドオブリージュ』を構え、二年間研ぎ澄ました『気』を纏わせる。
そしてA級ドラゴンがいない方角を探し、S級ドラゴンの大群に狙いを定めた。
「【最大風速・真・竜めくり】!」
全身の回転を乗せた大振りの一撃。
それは大地に竜巻を咲かせ、斬撃を含んだ風は花びらを舞わせる。
咲き乱れる花を刈り、その上に立つS級ドラゴンを何十体も巻き込んだ。
巻き込まれたブルードラゴンやリザードマンどもは一瞬の内に肉片と化し、舞う花びらを赤く染めた。
俺の横槍に気づいたS級ドラゴンどもは何匹かこちらに向かって飛びかかってきた。
二十メートルもあるリザードマンが数匹。
太陽が隠れるほどの密度で迫る。
俺も飛翔し、肉薄するリザードマンどもにロングブレードを構えた。
「【真・竜斬り・竜獄斬(りゅうごくざん)】!」
一瞬百連の銀色の斬撃が縦と横とで繰り出される。
それは銀の牢獄と呼ぶに相応しく、通過したS級ドラゴンどもを一匹も逃がさず微塵斬りにした。
飛びかかってきた雑魚を全滅させ、俺はそのまま降下。
しかし空中に躍り出た俺を下にいるS級ドラゴンどもが見逃すはずもなく、揃って白銀のブレスを撃ち放ってきた。
「【ブラックホール】!」
得意の闇魔法を使い、片手に黒い球体を生み出す。
それは白銀のブレスを全て吸収した。
「返すぜ! 【リバース】!」
吸収された白銀のブレスは黒い球体から逆噴射し、下で群れるS級ドラゴンどもに降り注いだ。
【ブラックホール・リバース】はブレスなどをカウンターする。
二年の間に発見した【ブラックホール】の新しい使い方だ。
自分たちのブレスが返ってきて、その威力にS級ドラゴンたちが爆砕して吹き飛んでいく。
カウンターを果たした俺は、そのまま地面に着地しようとした。
だが今度はブルードラゴンどもがそこを白銀のブレスで狙ってくる。
着地の瞬間を狙われるのは分かっていた。
来ると分かっている攻撃を見切るのは容易い。
合わせて打ち勝つまで!
「【ダークセイバー】!」
唱えた矢先にロングブレードの刃が漆黒に染まる。
一瞬で逆手持ちに変えた俺は着地と同時に剣を振り抜く。
『気』を纏った三日月状の【闇の斬撃】が飛ぶ。
それは過去に城壁のゲートを一撃で破壊してみせた白銀のブレスを相殺──どころか斬り裂いて発射元のブルードラゴンを真っ二つにしてみせた。
その【闇の斬撃】は止まることを知らず、そのまま何匹ものS級ドラゴンを貫通していく。
おかげで俺は無事に着地することができた。
周りではA級ドラゴンとS級ドラゴンの戦闘が繰り広げられており、戦況の確認をする。
リザードマンに掴まれ爆砕されるA級ドラゴン。
ブルードラゴンの氷塊に潰されるA級ドラゴン。
あげくの果てには成す術もなく食われる奴や、踏み潰されているA級ドラゴンども。
所詮はA級ドラゴン。
まともに戦えているのはあの傷痕のドラゴンだけだ。
だが奴は味方の被害など気にも留めていない。
真っ直ぐに突き進んでディザスタードラゴンの元へ走っている。
まるで特攻だ。
ディザスタードラゴンさえ殺せればそれでいいような、そんな捨て身の気配さえ感じる。
奴にとって他のA級ドラゴンは囮に過ぎないということか。
それが分かると途端に、S級ドラゴンに蹂躙されているA級ドラゴンどもが哀れに見えてきた。
だが悪いが、俺もお前らを囮に使わせてもらう。
一匹のリザードマンがA級ドラゴンを掴むのが見えた。
俺は即座に地を蹴り、ロングブレードを振りかざす。
「【真・竜斬り】!」
迷い無き銀の斬撃がリザードマンを真っ二つにした。
掴まれていたA級ドラゴンは爆砕の難を逃れ生存。
それを確認した俺はまた別のドラゴンへ疾走した。
このようにしてほどほどにA級ドラゴンを助けながらS級ドラゴンを全滅させよう。
ローエたちの退路は確保しておかねばならないからな。
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