第112話 その竜は異端だった
私は他とは違った。
生まれた時から白かった。
仲間からは気味悪がられ、友達などできなかった。
父には娘と認めてもらえず。
それでも母だけは私を愛してくれた。
異端である私を殺そうとした父に、母は大爪を振りかざし、父の眉間に傷を残した。
母は私を守ってくれたのだ。
父ではなく、私を選んでくれた。
どんな時でもずっと側にいて、愛してくれた。
どれだけ身体が大きくなっても。
幸せだった。
母さえ側にいてくれればそれでいい。
本気でそう思っていた。
なのに──
私は自分のわけの分からない力によって、母を殺してしまった。
人間から助けようとしただけだった。
気がつけば母も、人間も、私の放った【雷】によって黒い亡骸と化して絶命していた。
この力は……何なのだ!?
どうして、母に!?
『セレイン! お前がやったのか!?』
目撃された父からの怒声。
違う!
私じゃない!
こんなの、知らない!
『許さん! いつか、いつか必ず殺してやる! この…………化け物が!』
それが父の、最後の言葉だった。
それっきり父は私の前に姿を現さなくなった。
私は、一人になった。
……孤独だった。
最愛の母を失い、居場所を無くした私はたださまよう。
母の死に涙しながらも、私はひたすら生きた。
そして人間に襲われている仲間を【雷】でたくさん救った。
この【雷】は、使えば使うほど疲れる。
強いけど【嵐】もそうだ。
使っていると本当に疲れる。
孤独感を拭うため、ひたすら仲間を救い続けた私。
すると次第に仲間たちは私の力を畏怖するのではなく、讃えるようになってきた。
私がいれば、人間に勝てるのではないかと。
しかしそれは甘い考えだった。
私の前に現れた一人の黒い奴が、他のどんな人間よりも強かったのだ。
なんとか雷を当てて倒せたが、私も片眼を失い、瀕死の重傷となった。
結局、人間には勝てなかった。
負けた私を、仲間は誰も助けてくれなかった。
悔しかった。
利用するだけ利用して、ダメだと分かったら切り捨てる。
私はこんな奴等のために、戦ったのかと。
涙が枯れるほど泣いた。
仲間が欲しい。
助けてくれる仲間が欲しい。
絶対に裏切らない母のような存在が、欲しい。
そう願い続け、傷が癒えた後。
私は、自分の腹部に妙な違和感を覚えた。
その違和感は次第に大きくなり、ついには私の中から出てきた。
卵ではない。
青い竜だ。
私の……子供?
雄と交尾をした覚えはない。
なぜ、どうやって生まれてきたのだろう?
私の身体は、本当にどうなっている?
他の竜とは明らかに違う。なにもかも。
出産方法まで違うなんて。
どうなっているんだ私の身体は?
疑問は晴れない。
しかし現に子供は生まれてきた。
お母さん、お母さんと、その子はすぐに大きくなっていった。
可愛い。
自分の子供がこんなにも愛しいものだとは思わなかった。
今なら母が最後まで私を愛してくれていた理由が分かる。
愛しいんだ。
どうしようもなく。
それから私は何度も何度も子供を生んだ。
どうして一人で子供を成せるのかは分からない。
化け物はどこまでいっても化け物と言うことらしい。
だが、それでもいい。
たくさんの子供たちに囲まれて、今の私は一人じゃない。
それに、この子たちは強い。
青い子は氷の力を持っている。
赤い子は炎の力を持っている。
黒い子は飛べるし、風の力を持っている。
だけどあまりにヤンチャで手に負えない子だったから、産むのは一匹だけにした。
大きい子は回復する力を持っている。
この子は優しい子だったが、産む時お腹が張り裂けそうで死ぬかと思ったから一匹だけにした。
たくさん生んだのは赤い子と青い子たち。
すると、またしても竜どもが私たちの力に目をつけてきた。
良いだろう。
今度は私がお前たちを利用してやる。
私の片眼を奪った憎き人間への復讐。
私を利用した憎き竜どもへの復讐。
それらは全て上手くいった。
人間を根絶やしにしてやった。
竜どもも背後から裏切ってやった。
目障りな奴らはみんな消してやった。
お前らなんかいらない。
私には、私の子供たちがいる。
さぁ行こう。
私たちだけの世界へ。
それから時は経ち、滅ぼしたと思っていた人間がまだ地下に潜んで生きているという情報を得た。
……まだ土の中に人間がいる。
そしてあの竜どもの生き残りも、まだいる。
みんな土の中に隠れている。
愛しい子供たちがそう言っている。
ならば小さくて、人間のような動きができる子にしよう。
とっても強い子になってほしい。
私やみんなを守ってくれるほど、強い子に。
──あぁ、やっぱり出来た。
私の身体……その能力が、ようやく分かってきた。
望んだ子を産めるんだ。
私は。
さぁ……出ておいで。
愛しい我が子。
名前は【ナイト】にしよう。
あなたが土の中にいる人間や竜を絶滅させれば、私たちだけの世界が出来上がる。
もう少し。
もう少しで…
『セレイン!』
いつか聞いた、懐かしい声が聴こえた。
この声……お父さん?
それだけじゃない。
むかし嗅いだことのある匂いが風に混じっていた。
この匂いは、自分の片眼を奪った人間の匂い!
『敵だ! 母さんを守れ!』
子供たちが外敵の襲撃に一斉に吼えた。
見れば、人間どもと竜どもが揃ってこちらに攻めてきていた。
お父さん──シュラム……
そして人間の黒い奴……
生きていたのか……どっちも!
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