第231話 地下の秘密

 翌日の朝になり、俺たちはオルブレイブの調査を開始した。

 メンバーは俺・レグナ・リイド・ローグの四人。

 男性メンバーだが……まぁ仕方ない。


 オフィーリアがまだフラフラなのだ。

 キャンプで休ませて、その護衛にレィナ・グロリア・レミーベールを付かせている。

 だからこの男性メンバーになった。


 どのみちオフィーリアが動けても、調査には同行させるつもりはなかった。

 彼女が操られた理由がまだハッキリと分かっていない。

 また操られる可能性も無くはない。


 あの血の怪物に操られていたのなら、なぜ彼女だけ?

 それだけが本当にわからない。

 何も分かっていないからこそ、オフィーリアはどのみちキャンプで待機になっていただろう。


「こ、この階段を下りるんスか?」


 オルブレイブの街中にて、レグナがげんなりした顔で聞いてきた。

 隣の俺は「そうだ」と答えて、松明を点火して先行する。

 あの例の血のバスタブがある地下への階段だ。

 血の怪物亡き後も、まだここは血生臭いままだ。

 

「こんなところ……よく一人で下りましたね~」


 後ろのリイドが鼻を摘まみながら鼻声で言ってきた。


「状況が状況だったからな。迷ってる暇はなかったし、ここが一番怪しかったんだ」


「なるほど」っとローグ。


 会話してるうちに地下へ着き、四人で松明を掲げながら辺りを照らした。

 あの時はよく見てられなかったが、やはりこの地下室は広い。

 そしてやはり部屋の真ん中にバスタブが残っていた。


「おいおい……マジであんなところにバスタブがあるぜ」


「ゼクードさん。ここからあの血の怪物が出てきたんですか?」


 リイドに聞かれて俺は頷く。


「ああ。でもあの時はまだ人の姿だった。血塗(ちまみ)れだったけどね」


「うわ……エグ……」


 レグナが言ってローグが続いた。


「これは……お子さんには見せられないな」


 そんな会話を節目に俺は指示を出す。


「みんな。手分けしてこの地下室を調べよう。もう危険がないと判断したら外に出る」


「了解っす」

「了解です~」

「了解!」


 返事をしたレグナたちは散開した。

 俺はまっすぐに進んでバスタブの方へ向かった。

 するとリイドも気になってたのかこっちについてきた。


「僕もバスタブが気になるんで御一緒していいですか?」


「ああ。なら一緒に来てくれ」


「はい」


 俺はリイドを連れてバスタブの元へ。

 ゆっくりと、ゆっくりと、また血塗れの女性が出てこない事を祈りながら中を覗き込んだ。


 バスタブの中にはまだ血が溜まっている。

 この血はいったいなんなのだろう?

 人間の血か?

 それとも……ドラゴンの?


「うわ……本当に血が溜まってますね……」


「悪趣味だよな。なんの血だと思う?」


「ん~、臭い的にドラゴンのような気がします」


「ドラゴンか……」


 リイドの答えに俺は心のどこかで(やっぱりな)と思っていた。

 人間の血で人間があんな化け物に変異するはずがない。

 だいたい人間の血は腐るはず。

 いや、ドラゴンもか?

 んー、わからん。


「なんにせよ城の研究班に見てもらった方がいいかもしれませんね~。人間をあんな化け物に変えてしまうような血ですから」

 

 言ってリイドは腰のポーチから小瓶を取り出し、バスタブの血を回収して蓋をした。

 血で汚れた小瓶を自前の水で洗ってから、リイドはガラス越しに揺れる血を眺め始めた。


「……人間がドラゴンの血に漬かると化け物になる。それが本当なら、これはとんでもない発見ですよ」


「そうだな……俺は絶対やりたくないけど」


「僕もです」


「ゼクードさん! こっち!」


 ローグの声が地下室に響いた。

 いきなりでちょっとビビってしまったが、俺はリイドとローグの元へ歩いた。

 そこは地下室の隅で、ローグはそこで顔を青ざめさせていた。


「どうしたんだ?」


「これを見てください……」


 ローグが松明で隅を照らした。


「!?」


 俺とリイドは思わず息を呑んだ。

 そこには白骨化した人間の遺体が集められていた。

 まるで邪魔だから隅に掃除して集めたような感じである。


「骨……」


 俺はそれだけ言葉を絞り出した。

 どう見ても人間の遺骨だ。

 かなりたくさんある。死臭なんてなかったのに。

 いや、この場合は腐臭か。

 それさえもなかったのに。

 時間のせいか?


 でも、なんで……なんでこんなところに。

 まさかあのバスタブの血は、この白骨化した彼らの!?


「なんで、こんな……」


 なんと言えばいいのか分からない俺は、そんなことしか言えなかった。

 頭がおかしくなりそうだ。

 こんがらがる。


「おい……みんな」


 現れたのはレグナだった。

 松明を片手に、もう片手には古ぼけた本を持っている。


「レグナくん……それは?」


「ゼクードさん。この部屋……暗くて広いから分からなかったが、隅っこは死体だらけだぜ。あっちもこっちも」


「!」


「んでこんな日記も見つけた。……なんでオフィーリアだけ操られたのか分かったぜ」 

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