第37話 メンバー選択
戻って来たのは人気の少ない中央広場。
そこでドラゴンの集まる場所について話すつもりだった。
だがその前に、俺はローエさんに伝える。
「お金はいらない?」
「そう言ってましたよ。代わりに身の安全を保証してくれって」
「……そうですの」
ローエさんはなんとも複雑そうな顔をした。
理由は分からない。
ただ俺も俺で、隊長と信じてもらえなかったことは非情に複雑である。
みんなに聞いてもらいたいけど、そんな空気じゃないから言わない。
「ま、それはともかく。ドラゴンがやたら集まる場所を探さなきゃなりませんね。誰か心当たりがある人はいますか?」
俺が言うと、やはりフランベール先生が手を上げてくれた。
さすが先生。
博識である。
「ちょっと遠いんだけど、確実にありそうなところなら一つだけ心当たりがあるわ」
「本当ですの先生!」
「うん。【竜軍の谷】って言うんだけど【エルガンディ王国】からひたすら南へ進むとあるの。名前の通りドラゴンが集まる場所で、なぜかそこのドラゴンたちはやたら好戦的なの。ドラゴン同士がケンカしていることもかなりあるそうよ」
そんな場所があったとは知らなかった。
基本的に群れを成さないドラゴンが集まる場所なら【アンブロシア】がある可能性は高いだろう。
何より好戦的なドラゴンばかりなのはきっと【アンブロシア】をめぐってケンカしているとも説明できる。
これは本当に確実そうな場所だ。
「そんな場所があったんですね」
カティアの言葉に頷いたフランベールは続ける。
「うん。馬なら往復で2日掛かるわ。急いで準備して、早めに向かった方がいいわね」
あ、思ったより遠かった。
「わかりましたわ先生。情報をありがとうございます。【竜軍の谷】へはわたくし一人で向かいますわ」
「いやいや何言ってんですかローエさん! みんなで行きますよ!」
俺は思わずそう言った。
しかしローエさんは首を振る。
「いいえ! いつS級が襲ってくるか分からないこの状況で【ドラゴンキラー隊】が全員王国を離れるのはダメですわ!」
「それは、そうですけど……」
どうしよう、正論過ぎて言い返せない。
「隊長。お前は残った方が良い」
「え?」
カティアさんの発言に俺はそんな間の抜けた声を発してしまった。
「私とフランベール先生がローエに同行する」
「な、何を言ってますのカティアさん!? わたくし一人で十分ですわ!」
「ダメだ。今のお前はまるで冷静さを欠いている。それにドラゴンの大群と戦うことになるかもしれないんだ。一人で行かせられるか」
カティアさんがそう言って、フランベール先生が続けた。
「カティアさんの言うとおりよローエさん。ローエさんはいま妹さんの事で頭がいっぱいになってる。でもそれは仕方のないことだから、せめてわたしたちにフォローさせて?」
……なんだろう。
勝手に話が進んでいくが、カティアさんもフランベール先生も当たり前のようにローエさんに力を貸そうとしている。
この空気はとても素晴らしいことだと思う。
優しい人間が集まっているからこそだ。
「で、ですが……4人中3人も国を離れるのは陛下が御許しくださるか……」
ローエさんの言うことは最もだった。
言われたカティアさんとフランベール先生もグッと口を閉じてしまう。
この国の非常時にS級騎士が三人も国を離れるのはまず間違いなく許されないはずだ。
人命が掛かってるとはいえ、それがお互い様な今の状況ではフルメンバーでの出撃はまず許可が下りないだろう。
3人でも難しい。
でもとりあえず。
「ちょっとみなさん待っててください。俺、国王さまに聞いてみます」
「ぁ、お願いしますわ隊長!」
隊長として、部下の問題もなんとか解決せねば。
そんな意思を胸に、俺は城へと向かった。
※
国王さまとの謁見は案外とすぐに叶った。
そこでローエさんの妹さんが余命1週間なことを告げる。
彼女を救うには【アンブロシア】というキノコが必要だと説明し、そしてそれは【竜軍の谷】という危険な場所にあることも説明した。
すると。
「【竜軍の谷】へ向かうことはなんとか許可を頂きました」
「ああ! ありがとうございますわ隊長!」
中央広場にてローエさんが心底嬉しそうな表情を浮かべた。
あまりに可愛く、あまりに綺麗な笑顔だった。
おかげでこれから伝える情報が苦しくなった。
でも言わねば。
「ただ、やはり向かっていいのは二人まででした。俺は絶対に残ることを条件にされましたのであと一人。誰かに残ってもらいます」
「なら、私がローエと行く。フランベール先生隊長と残ってください」
即答したのはカティアさんだった。
なんとなく予想はしていたが、速かった。
確かにカティアさんとローエさんのコンビなら連携も卓越しているし、安定感はある。
でもそれはローエさんが普通の状態ならばの話。
今のローエさんはどうにも焦っている。
連携が乱れないとも限らないし、ここはしっかりとしたストッパーの役割を担える人間にするべきだろう。
「いや、待ってくださいカティアさん。ここはフランベール先生にローエさんの同行をお願いします」
「なに?」
「カティアさんとローエさんじゃ無茶しそうだし、なんか途中でケンカに発展したら大変ですしね」
「な!」っとカティア。
「確かに……」っとフランベール。
「先生!?」っとローエ&カティア。
「それじゃフランベール先生。ローエさんと一緒に【竜軍の谷】へ同行お願いします」
「了解よ。それじゃローエさん。さっそく準備しましょう。明日の朝には出発するからね」
「わかりましたわ。よろしくお願い致します先生」
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