第38話 先生と……
「はぁ~疲れた」
救助活動も終わり、日も沈んで来た。
今日はこれで休みとなった俺は自宅へと戻る。
「お疲れ様。ゼクードくん」
すると自宅の前で待っていてくれたらしいフランベール先生が俺を出迎えてくれた。
「先生! もう準備はできたんですか?」
「うんバッチリ。あと、はいこれ。カティアさんからだよ」
手渡されたのは温かい紙袋だった。
これはいつもカティアさんが持ってきてくれる晩のドラゴンステーキだ。
「え、なんで先生が?」
「カティアさんに頼まれたの。渡しといてほしいって」
「こんな大変な時にまで」
疲れてるからドラゴンステーキは本当に嬉しいが、カティアさんも疲れてるだろうに。
本当に申し訳ない気分だ。
「カティアさんはそのへんしっかりしてるからね」
「そうですね。でも先生に頼むなんて、何か用事でもあったんでしょうか?」
「ううん。きっと今は精神的に疲れちゃってるだけだよ」
「え!? あのカティアさんが?」
「うん。ゼクードくんの強さに相当まいってたみたいだから」
「俺の強さ、ですか?」
「あ、ゼクードくんが悪いわけじゃないのよ? 今日カティアさんの話を聞く機会があったから聞いてみたんだけど、ゼクードくんに追い付ける自信がないって。それで落ち込んでたの」
「そ、そうですか」
でも、そうか。
確かにカティアさんは俺に強さの秘訣とかいろいろ聞いてくるもんな。
強さにこだわっているのは分かってたけど、まさか俺の実力でショックを受けていたなんて。
なんかS級ドラゴン戦後から妙に暗いなぁとは思ってたけど。
「もし、カティアさんが何か言ってきたら、しっかり聞いてあげてほしいの」
「え?」
「カティアさんはやっぱり妹さんしかいないし、両親とも仲が悪いみたいだから、何も吐口(はけぐち)がないのよ。だからゼクードくんはカティアさんを受け止めてあげてほしい」
妹さんがたくさんいるのは知ってたが、両親と仲が悪いのか。
それは知らなかった。
「受け止めるだけでいいんですか?」
「うん。カティアさんに必要なのは自分の弱みを受け止めてくれる人だから。部下のケアも隊長の仕事よ?」
「そのとおりですね。了解です」
「それから、あの時はありがとうゼクードくん」
「え、あの時とは?」
「S級ドラゴン戦の時よ。あの時はもうダメだって思ったけど、ゼクードくんのおかげで助かったわ」
「ああ! あんなの当然じゃないですか。あの時はホンット間に合って良かったですよ」
「ふふ、あの時のゼクードくん本当にカッコ良かったよ?」
「えへへ、惚れました?」
「うん。とっても」
やったぜ!
俺は心でガッツポーズした。
「それで今日は何かお礼をしたくて、それも兼ねて会いに来たの」
会いに来てくれたってのがもうすでに嬉しいのだが。
「お礼ですか。なら是非ともキスでお願いします!」
調子に乗って言ってしまった。
さすがに怒るかなと、恐る恐るフランベール先生を見る。
そこには頬を赤くし、少し悩んでる先生がいた。
モジモジしてて可愛い。
「……そうね。しばらく会えなくなるし、そ、それくらいなら別に」
「え!?」
まさか、本当にしてくれるの!?
そう思ったのも束の間。
フランベール先生は俺の目の前まで寄ってきて、これからする行為に恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
上目遣いのフランベール先生はあまりに可愛くて、思わず抱きしめたくなる衝動に駆られた。
見つめ合う形になり、お互いの心臓の高鳴りが聞こえる。
「ぁ、あの先生、無理しなくても……」
「ううん。無理なんて、してないよ? また命を救ってくれたんだもん。それにわたし……ゼクードくんのこと……──」
「え……?」
最後まで言わず、フランベール先生は俺に優しくキスしてくれた。
「……!」
それは口と口の、恋人がするような、熱い口づけだった。
柔らかい先生の唇が気持ち良くて、また先生の女の香りがとても良くて、思わず目を閉じて今のこの感覚を堪能してしまう。
抱きしめたい衝動が加速し、ついに俺は先生をそのまま抱きしめた。
すると先生も抱きしめ返してくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます