第12話 ゼクードの剣技
早朝の草原でのドラゴン掃討が終わった。
味方に被害はなく、今回の狩りは完璧だったと言えるだろう。
少なくともカティアはそう思っている。
問題があったとすれば【ドラゴンキラー隊】の役割分担がまるで出来てないところか。
ローエとの連携など数をこなしてるのでやりやすいが、フランベール先生とゼクード隊長はそうもいかない。
いや、フランベール先生は途中から自分とローエの戦い方を把握したらしく、的確な援護をしてくれるようになってた。
前線で動き回る自分とローエに当てないようギリギリを狙って鋭い援護射撃を放っていたのには正直驚かされたほどだ。
「お疲れ様ローエさんカティアさん。二人ともさすがだわ」
展開していた大弓を背に納めてフランベール先生が言ってきた。
するとローエが自慢らしい金髪を撫でて揺らす。
「ふふん、あれくらい当然ですわ。フランベール先生こそ素晴らしい支援でしたわ。カティアさんにも見習ってほしいくらいですもの」
こいつに言われたくないな。
このハンマー女め。
「バカ者が。この程度で調子に乗るな。ゼクード隊長の動きを見てなかったのか? あいつに比べれば我々などまだまだ鍛練不足だ」
カティアはゼクードが倒したドラゴンの亡骸を指して言う。
その亡骸は胴体を真っ二つにされて息絶えている。
「どうやったらこんな簡単に竜鱗と竜骨を断ち切れるんだ……」
カティアは切り口を眺めながら呟く。
ローエと二人掛かりでやっても彼の狩猟速度には敵(かな)わなかった。
こんな簡単に竜をぶった斬る能力が自分とローエにはないからだ。
「あ、ゼクードくんのあれは【竜(ドラゴン)斬り】っていう剣技なの」
フランベール先生が突然そんな思い出しを口にしてきた。
「【竜斬り】!?」
カティアとローエは揃って驚愕してしまった。
「それって10年前の!」
ローエが言うとフランベール先生がニコリと頷く。
「うん。【S級ドラゴン】を撃退したこの国の『英雄フォレッド』の剣技よ。ゼクードくんはあの剣技を使ってるの。ただ斬ってるわけじゃないのよ?」
なんであいつがそんな凄い剣技を会得しているんだ?
いや、待てよ。
英雄フォレッドのフルネームは確か『フォレッド・フォルス』だったはず。
「まさかゼクード隊長は英雄フォレッドの息子!」
今さらながら気づいてカティアはゼクードの姿を探した。
当のゼクードは王国騎士たちと何やら雑談している。
「やっぱ強いな君は。さすが英雄の息子さんだね」
「ありがとうございます」
「なぁなぁ、今度オレにも【竜斬り】伝授してくれよ」
「いや、俺もまだ未完成なとこあるんですよ」
「えーホントかよ。あれでかい?」
重装備の屈強な王国騎士たちに囲まれ絶賛されている我が隊長。
意外と嬉しそうである。
「そう言われると名字が同じですわね。気づきませんでしたわ」
「そうだな。道理で強いわけだ。英雄である父親に剣を習ったのならあの強さにも納得がいく」
「……でもカティアさん。今から10年前ならゼクード隊長はまだ5歳ですわよ?」
「!」
そうだった。
確か『英雄フォレッド』はその【S級ドラゴン】と相討ちになり帰還しなかったはず。
ゼクードをまともに鍛えていたとは考えにくい。
だとすれば、あいつはどうやってあんなに強く?
あの剣技を記された秘伝書か何かがあるのだろうか?
「あと、ゼクード隊長には母親もいないのかしら?」
「なに?」
「母親ですわ母親。わたくし二度ゼクード隊長の家に訪問してますが、一度も母親が出てませんもの。あんな早朝なのに」
たしかに、自分が訪問したときも出てきたのはゼクード本人だった。
小さな一軒家だが、母親と二人暮らしならできるほどの大きさだしおかしくはないのだが。
カティアとローエは答えを聞くようにフランベール先生の方へ視線を向けた。
するとフランベール先生は困った様な顔をする。
「そこは深入りしない方がいいわ二人とも。あの子にも聞かれなくない事だってあるでしょうし」
「そうですわね」
「そうですね」
フランベール先生の言うとおりか。
不用意に首を突っ込むところではないな。
「二人ともできるだけで良いからゼクードくんには優しくしてあげてね」
両親がいないゼクードを思っての言葉だったのだろう。
フランベール先生はそう言った。
優しく、か。
あの歳で両親がいないのならば、多少の配慮はしてやるべきか。
しかし、どうしてやればいいのだろう?
両親の事には踏み込まないとして、どうやってあんなに強くなったのかを聞いてみたい。
優しくしながら強さの秘訣を聞き出すにはどうすれば。
※
コンコン……
それは本日二度目の自宅の玄関が叩かれる音だった。
もう陽が沈みかけている時刻に誰だろう?
かなり優しいノックだったしフランベール先生だろうか?
「はい? どちら様ですか?」
俺が聞くと、家の外から声が。
「カティア・ルージだ」
まさかのカティアさんだった。
どうしたんだろうこんな時間に。
晩御飯を作ろうと思っていたんだが。
あ、せっかくだしカティアさんも誘おうかな?
そんな下心を沸き立たせながら俺は玄関を開く。
すると未だに鎧を装備したまんまのカティアがそこにいた。
これには俺もびっくりである。
「こんばんはカティアさん。どうしたんですかこんな時間に?」
するとカティアは片手に持った紙袋を前に差し出してきた。
「【ドラゴンステーキ】を買ったんだが量が思ったより多くてな。良ければなんだが、一緒に食べてくれないか?」
え!?
嘘!?
まさかカティアさんから夜のディナーの誘いが来た!
何これ今日は俺の命日か?
カティアさんもこんなこと慣れてないみたいでほんの少し頬を赤くしながら【ドラゴンステーキ】を差し出している。
普段の凛々しさのギャップのせいか、やたら破壊力のある可愛さなんですが!?
「ももももちろん! ぉ、俺で良ければ!」
「なら、邪魔するぞ」
「どうぞどうぞ!」
こうして俺は生まれて初めて自分の家に女性を入れた。
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