第234話 まさかの!?
レィナに相談したことによって、俺の胸の内は軽くなった。
正直……日記に関しては本気で迷っていた。
見せなくていいと、知らなくていいと限りなく思いながらも……心のどこかで見せた方がいい、知らせた方がいいと思う場面もあった。
この日記には何も悪いことばかり書かれているわけじゃない。
母親のオフィーリアに対する愛がわずかだがしっかり綴られている。
あんな非道な父親の娘であるオフィーリアを、この日記の著者はちゃんと愛していたのだから。
その母の愛を知ることがオフィーリアにとってマイナスになるとはどうしても思えない。
この母の愛だけでも教えてやるべきではないだろうか?
でも……どうやって?
『オフィーリアが一歳になった。おめでとう。愛してる』
16ページ目のこの文だけ破って見せるべきか?
でもそれでは薄っぺらい一文になってしまうだろう。
あの文は、あの日記全てを見たからこそ分かる母の愛だ。
良いところだけを見せても、なんの価値もない。
でも全てを見せたら……オフィーリアは自分の姉と母の末路を知ることになる。
……そんなところで引っかかって、俺はグルグルと迷っていた。
答えが出ずに困っていたから、レィナに相談し、見せないという答えをもらってやっと落ち着いたところだ。
グロリアとレミーベールにも日記の事を説明し、オフィーリアには黙っているよう告げた。
そしてまだオフィーリアが起きる前に……みんなの前で例の日記を燃やした。
パチパチと弾ける焚き火の中で、日記は炎に包まれていく。
まるでエリザの最後のように。
※
見張りは仲間に任せ、俺はテントで先に休ませてもらった。
ありがたいが、よりによってオフィーリアの寝ているテントだった。
日記を燃やした後でオフィーリアの顔を見るのは少し胸が傷んだ。
こちらの解釈で勝手に家族の遺産を燃やしたようなものだから、少し……いやかなり負い目は感じている。
我ながら女々しいったらありゃしない。
俺は頬を掻いてから一息ついて、オフィーリアの隣で横になった。
彼女は寝ているのかすら分からない顔でスースーと寝息を立てていたが、いきなりニヘヘと顔を笑わせてきた。
「カ~ティスさ~ん……」
……寝言だ。
どうやらカーティスとの夢を見ているらしい。
幸せそうで何よりだ。
おかげでさっきまで感じていた負い目もかなり薄まった。
安堵していると、オフィーリアは俺の方を向いてきた。
「おはようございますカーティスさん……」
あれ?
オフィーリアちゃんもしかして起きてる?
俺カーティスじゃないけど。
「目覚ましの熱いチューを~」
オフィーリアが俺に向かって唇を突き出して迫ってくる!
待て待て待て待て待て!
完全に寝ボケてる!
いやまだ夢の中なのか!?
どっちにしろマズイ!
起きて避けねば!
っと思ったがガシッと肩を掴まれた!
「ま、待てオフィーリアちゃん! 止まれ! それはカーティスのためにとっとけ!」
焦りのあまり叫んでオフィーリアの顔を手で押し返した。
「むぐっ!? ──うぇ?」
ようやくオフィーリアの動きが止まった。
どうやら今ので目覚めたらしい。やっぱり夢の中だったのか。
オフィーリアはムクリと起き上がり辺りを見渡す。
「ぁれ……? カーティスさんは?」
「カーティスはここには居ないよ」
「え? ……あ、お父様」
「おはよう。身体は大丈夫かい?」
「はい。まだ節々痛みますが、だいぶ楽になりました」
「なら良かった。待ってて。いま何か飲み物もらってくるよ」
※
テントの中でエールを渡すつもりだったが、オフィーリアはテントから出てきた。
外の夜風に当たりたいらしく、焚き火を囲って話すことにした。
ちょうど見張り役のグロリアとレミーベールもそこにいて、オフィーリアが出てきたことに驚く。
「オフィーリア! アンタもう大丈夫なの?」
グロリアに言われ「はい、なんとか」と苦笑するオフィーリア。
「無理しちゃダメよ? ほら、ここに座って」
「ありがとうございます」
レミーベールに促され、オフィーリアは丸太に座った。
そして俺はエールを渡す。
「無事で良かったよ。今まで何があったか覚えているかい?」
操られている時の記憶は……たぶん覚えていないだろうと踏んで聞いてみた。
エールを一口飲んだオフィーリアは、とても申し訳なさそうに顔を曇らせた。
「はい……全部、覚えています」
「!?」
予想外すぎる返答に俺は言葉を失った。
グロリアとレミーベールも。
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