第107話 フォルス隊、出撃!
翌日の朝は蒼天だった。
俺は黒騎士たる漆黒の鎧を装備し、愛剣である【ハーズヴァンドオブリージュ】を背中の鞘にカチンと納めた。
部屋を後にして、自分の馬を連れて、鉱山から地上へ出る。
息子たちの顔も見ておきたかったが、たぶんまだ寝てるだろう。
帰ってきたらすぐに会いに行こう。
そう心に決めて、俺は三人の嫁たる部下たちが来るのを待った。
「ゼクード」
「!」
草花でカモフラージュされた扉を開けてやってきたのは国王だった。
こんな早朝にわざわざ見送りに来てくれたのだろうか?
「国王さま。おはようございます。どうされましたか?」
「見送りだ。それと、一つ聞きたいことがあってな」
国王が何を聞きたいのか?
俺にはすぐに分かった。
二年も苦楽を分かち合えば、相手の考えていることが分かるようにもなる。
「ディザスタードラゴンの雷対策ですね?」
図星だったらしく、虚を突かれた顔を露骨にした国王は、強ばった顔を緩めてきた。
「話が早いな」
「俺も悩んでましたからね。雷なんて人間が避けられるものじゃない」
二年間、何度か自然の雷を相手に鍛練を積んだことがある。
しかし、成果はなかった。
光ってからでは遅く、人間がどうこうできるものじゃない。
だけど、一つだけ防ぐ方法を見つけた。
ひどく単純だが、それしか人間に防ぐ術はない。
「ではどうする?」
「奴と戦うなら、巨大な洞窟内で仕掛けるのが絶対条件ですね。雷を防ぐだけの天井がある場所です」
「やはりそうなるか」
「ええ。ですから昨日、利用できそうな地形も調べると言ったんです」
「なるほど。やはりお前に任せて正解だったな。安心したよ」
「任せてください」
長年……とは言えないが、それでも二年間は共に支え合ってきた仲だ。国王とは。
彼とこんな信頼関係になるとは、二年前は思いも寄らなかった。
国王が鉱山の生活に慣れない市民をまとめる中、俺は仲間の騎士たちを徹底的に鍛え上げる。
その過程でいろんな苦労があったのは記憶に新しい。
「仲間の情報でも雷はやはり雲から発生していたと一致しています。もしこれが魔法みたく使用者の近くで発生しているものなら、防ぐ術はありませんでした」
「ふむ。竜巻はどうする?」
「竜巻なら、俺のメンバー全員が単独で相殺できます。問題ありません」
「それは頼もしいな。誰かさんが手を出さなければ、彼女たちはもっと強くなれていただろうに」
チクリと言葉で刺してくる国王はクククと意地の悪い顔をしていた。
本当にその通りなので、俺も苦笑するしかない。
二年間で一番苦労したのは、ぶっちゃけローエ・カティア・フランベールがいっぺんに妊娠したことだと思う。
一気にハーレムが暴露して、周りからいろいろ言われた。
そりゃあ騎士のトップが部下に手を出していたのだから見栄えは最悪だろう。
あの時、グリータやガイスやリリーベール。そしてレィナやリーネや国王が俺たちをかばってくれなかったらどうなっていたか。
みんなには感謝しても仕切れない部分がある。
「はは……あの時は本当に、すみませんでした」
「もうよい。過ぎたことだ。一番大変だったのはお前だろうしな」
「いやぁ~俺というよりかはローエとフランですかね。妊娠してるのにカティアが鍛練しようとするから、それを止めるのに苦労してましたよ」
これは本当である。
まさかあれほどカティアがジッとしてられないタイプだとは思わなかった。
『ちょっとカティアさん! 鍛練するなって何度言えば分かりますの!? お腹の子に響きますわよ!』
『大丈夫だ。私とゼクードの子ならこの程度で屈しはしない』
『いやいやいやいや! ダメだってばカティアさん! 今は大事な時期なんだからジッとしてないとダメだよ!』
という事があったとレィナから聞いたことがある。
俺の前ではいっさいそんなことやらなかったのに、裏ではそんな無茶をやっていたから驚きだ。
「ふむ。あのクロイツァーの長女か。妊娠してる間は魔法が使えなくなるのに……まったく無茶をする」
これも本当だ。
カティアたちは妊娠してお腹が出てきた辺りから揃って魔法が使えなくなった。
いつかクロイツァー様が言っていた通りだった。
『攻撃魔法』や『錬金術』など魔法の類いはなぜか妊娠時は使えなくなる。
医者に言わせると魔法というものはみんな体力を激しく消耗する。
だから赤ちゃんと母体を弱らせないための防衛反応なのではないか、と説明された。
特に体力を消耗する『攻撃魔法』が使えなくなるのは当然と納得もできた。
男には無縁の話だが、女性にはそんなリミッターがついているらしい。
凄いものである。
「ゼクード。この件が無事に片付いたら、お前に話したいことがある」
「話したいこと?」
「『ロゼ・シエルグリス』という名に聞き覚えはあるか?」
ロゼ・シエルグリス?
はて?
どこかで聞いたような……
凄い記憶の片隅に有りそうな感覚がある。
「ロゼ・シエルグリス……なんか、懐かしい感じのする名前ですね……」
「そうか……いや、今はそれでいい。終わったら詳しく話そう。お前には知っていてほしいことなんだ」
「わかりました」
「隊長!」
「お?」
カティアが真紅の鎧と【クリムゾングレイス】を装備し、馬を引いてやってきた。
カティアは国王を見つけて目を丸くし、しかしすぐに姿勢を正して礼をする。
「おはようございます国王さま」
「うむ、おはよう。危険な任務だが、よろしく頼むぞ」
「はっ!」
「カティア。ローエとフランは?」
「すぐに来る。隊長こそ、カーティスたちに会わなくて良かったのか?」
「まだ寝てるだろ?」
「そうだが、寝顔だけでも見ていけばいいだろうに」
三日も会えなくなるから、カティアのこの気遣いは当然だろう。
会いたいけど、会ったらどうしても抱きしめたくなる。
それで目覚めて泣かせたらまた母親たちに怒られるからやめておこう。
「いいよ。帰ってくれば普通に会えるんだから」
そう返すと、カティアの後ろからローエとフランベールが馬を引いてやってきた。
【フォルス隊】の集合である。
「陛下! おはようございます」
「おはようございます国王さま」
失礼なきようにローエとフランベールは国王に朝の挨拶を済ませる。
国王も「うむ」と頷いて返した。
「見送りだけでもさせてもらおうと思ってな」
「ありがとうございます!」
ローエとフランベールが共に礼をする。
果たして、俺の妻であり部下でもある三人は横一列に並んだ。
「よし。みんな揃ったな。昨日も言ったが、全員の生還を持ってして任務完了と見なす。いいな!」
「はっ!」
国王の前であるせいか、三人の返事には気合いが入っていた。
士気の高さを示してくれる良い返事である。
俺はそんな三人に頷いて、自分の馬にまたがった。
ローエたちもそれに習いサッと乗馬する。
そして俺は国王を見た。
「国王さま。お見送り感謝します」
「ああ。無茶だけはするな。必ず帰ってこい」
「了解です。【フォルス隊】出るぞ!」
人類最強の部隊が今、出撃した。
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