第55話 タプタプ?
よく分からん王国騎士とフードの男を尻目にしてから数分。
もうすぐ自宅に着くというところでローエさんとカティアさんに出会った。
「隊長おおおお!」
いきなりローエさんが俺を見つけるなりダッシュで飛び付いてきた。
抱きつかれて押し倒されそうになるが、なんとかふんばって受け止めた。
「うおっと! ローエさん!」
「会いたかったですわ隊長! 聞いてください! 妹のリーネが回復しましたの!」
おお!
もう回復したのか。
秘薬の効果すげぇ。
「本当ですか! それは良かった! じゃあさっそく妹さんに会いに行きましょう!」
前回『妹に手を出したら叩き潰しますわよ?』って言われてるから、端っから会わせてもらえないであろうことはわかっていた。
わかってて言ってみただけである。
「もちろんですわ隊長! リーネがあなたとフランベール先生に会いたがってますの!」
あら?
え、うそ、本当に!?
これは予想外の展開だ!
「え、あの、本当に良いんですか?」
「良いんですわ。命の恩人ですもの」
ローエさんが満面の笑みでそう言ってくれた。
まさか妹リーネさんに御会いできる日が来ようとは。
美人なローエさんと似て、めちゃくちゃ美人な妹さんかもしれない。
楽しみだ!
「じゃあさっそく会いに──」
「待て!」
さっきから黙ってたカティアさんが割って入ってきた。
「ローエ。気持ちは分かるが少し待て。隊長は国王さまにお呼ばれしている」
うわーマジかーやっぱりかー。
妹さん優先したいー。
国王さまー。
「あ、そうでしたわね」
「あと隊長……今までどこに行ってたんだ? お前が留守にしている間、自宅に泥棒が入ってたぞ?」
「え、泥棒!? それ本当ですか!?」
俺ん家なンか盗れるもんあったっけ?
「本当だ。ま、私とローエが懲らしめておいたがな」
「わたくし何もしてませんけど……」
もしかして途中ですれ違ったあの顔面ボッコボコのフード男のことかな?
あれカティアさんとローエさんにやられた泥棒だったのか。
なら王国騎士に連れてかれていたのにも説明がつく。
「まさか泥棒が入ってたとはなー。早くドアノブ直さなきゃな」
「ドアノブ?」
「ああいや、何でもないです」
あぶねー。
ドアノブの件はカティアさんには内緒だったんだ。
ローエさんがめっちゃこっち睨んでる!
ほんっとにあぶねー!
「──で、今までどこに行ってたんだ? まさかフランベール先生の家じゃないだろうな?」
ドキッ!
……カティアさんって、こーいうところ鋭いよね?
なんでだろ?
女の勘かな?
「あ、いや、ちょっとジョギングをですね」
「そのわりにはツヤツヤしてないか?」
「汗もかいてませんわね?」
なんか二人して疑ってくるんですけど!?
さすがに【あの夜】の事を喋るわけにはいかない!
「まぁまぁ二人とも。それは置いといて、俺は今から国王さまの元へ向かいます。えと、それで良いんですよねカティアさん?」
「ああ。この時間ならもう国王さまも起床なさっている。そもそもお前が起きたらすぐに来させろと言われているからな」
ひぇー絶対に怒られるやつだこれ。
「そんな顔をするな隊長。死刑にされるわけじゃなしに。二体目のS級ドラゴン討伐を報告したとき、国王さまは凄く喜んでくださってたぞ?」
「でも無断で【竜軍の谷】に行ったことは怒ってるんですよね?」
「怒ってなかった。大丈夫だ。そんなに心配なら付いてってやろうか?」
「お願いします!」
「即答だな……」
「あ、ならわたくしも付いていきますわ! 隊長と先生のおかげで妹が助かったことを陛下に御伝えしたいですし」
「じゃ、ローエさんもこのまま付いてきてください。あとフランベール先生も呼びましょうか」
フランベール先生の口から『ゼクードくんのおかげで助かりました』って聞かされれば、さすがの国王さまも無下にはできないだろう。
これで御叱りは回避できたも同然だ!
「部隊フルメンバーで行ってどうする?」
「まぁまぁカティアさんそう言わずに。わたくしもフランベール先生に会いたいですし、どのみち後で妹と会わせるために呼びにいくつもりでしたから」
「そうか」
「じゃ先生を呼びに行きましょうか!」
俺はそう言って、今まで来た道を戻ることになった。
──先生、大丈夫かな?
※
そして着いたフランベール先生の家。
広い庭の中央にある邸宅(ていたく)を無視して、隅っこにある小さな小屋に向かった。
「おい隊長。どこに行くんだ?」
「先生はあの館じゃありませんの?」
やはりカティアさんとローエさんが困惑する。
「違うんです。先生が住んでるのはあの小屋です」
「ええ!? あんな便所小屋みたいなところに!?」
ローエさん。
それはさすがに失礼だぜ。
俺の家もあのサイズなのよ?
「先生はなんだ? 親子関係が悪いのか?」
「それはちょっと分からないんです。あまり踏み込まない方がいい話かもしれなかったので聞きませんでしたから」
するとローエさんが小さく頷いてくる。
「賢明ですわ隊長。それはたぶん女性の【攻撃魔法】の有無の話になるはずですわ」
「詳しいな?」とカティアさん。
「ええ。先生には三人の姉がいるそうなんですわ。それも普通の」
「あぁ……」とカティアさんはこの時点で察したようだ。
やはり男の俺が踏み込む話じゃないようだ。
案外と空気読めてて良かったぜ。
そんなことを思いながら、俺はフランベール先生の自宅の玄関を叩いた。
すると「はい?」と何かを警戒するようなフランベール先生の低い声が返ってきた。
「先生! ゼクードです!」
「え、ゼクードくん?」
先ほどとは違って明るい声になったフランベール先生はすぐに応じて玄関を開けてくれた。
「どうしたの? 忘れ物でも──……」
先生の声が凍結した。
俺も、カティアさんも、ローエさんも同じく凍結した。
出てきたフランベール先生の格好が水玉模様の寝間着姿だったのが一つの原因。
もう一つ原因があり、それは上の寝間着の着方。
ボタンを留めずに胸の谷間を露出した状態だったのだ。
おそらく訪問してきたのが俺だけだと油断して、こんな格好のまま出てきたのだろう。
まさか俺の他にカティアさんとローエさんがいるとは思ってもなかったはず。
「……」
「……」「……」「……」
みんなで固まること数分。
フランベール先生は何事もなかったようにドアをそっと閉じた。
すると中で慌てて着替えてる音が響き始める。
「見なかったことにしよう」
「そうですわね」
カティアさんとローエさんが言った。
するとローエさんが俺の肩を掴んできた。
「後で話を聞かせてもらいますわよ」
「ひ! な、なんで!?」
「当然ですわよね? ゼクードと知ってあの格好のまま出てくるなんて……いろいろ勘ぐっちゃいますわ」
影の掛かった顔でローエさんが言ってきた。
こ、怖い。笑ってないでカティアさん助けて。
「ごめーん! みんな待った?」
先生もう着替えて出てきた!
速い!
「きょ、今日は何か予定あったっけ?」
顔を真っ赤にしながら焦るフランベール先生に、カティアさんが首を振る。
「あ、いえ……予定はありませんが、ちょっと城へ行かねばならなくなりまして」
「あ、そそ、そうなんだ! よーし! ならさっそく行こう!」
「あの、先生? 大丈夫ですの?」
「うん! 大丈夫だよ!」
先生、焦りすぎて力みまくってる。
「少しタプタプしてるけど大丈夫だよ!」
「タ、タプタプ?」
ローエさんが怪訝な顔をした。
「ぁ、ああ! 違うの! ちょっと水飲み過ぎちゃってお腹タプタプって意味よ! 大丈夫!」
「先生、とりあえず落ち着いてください」
「そうですわ先生。落ち着いて」
カティアさんとローエさんに宥められた。
「はい! ごめんなさい!」
だめだこれ。
恥ずかしさのあまり先生パニックってる。
でも意外だな。
そんなお腹がタプタプになるほど水を飲むなんて。
しかもこんな朝から。
意外とそれが美貌の秘訣なのかな?
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