第54話 泥棒の末路
国王さまへフランベールの帰還と、ゼクードが二体目のS級ドラゴンを討伐したことを告げたカティアは、翌日にそのゼクードを城へ呼ぶように言われていた。
だから次の日の朝、カティアはゼクードの家を目指した。
朝からゼクードに会えるのが妙に嬉しくて身体が弾む。
早くアイツの顔が見たいなと、カティアは我知らずに早足になっていた。
そしてカティアはゼクードの家を訪れ、彼の自宅の玄関を叩いた。
ドンドンドン
「隊長。起きてるか?」
晴れ渡った空の下、ゼクードの返事はない。
代わりにギィィイという木製の摩擦音が聴こえてきた。
玄関がノックしただけで開いたのだ。
「ん?」
鍵を掛けてないのか?
不用心だなあいつ。
そう思ったのも束の間で、カティアはドアノブが破損していることに気がついた。
「壊れてる?」
ノックしただけで開くほどだ。
かなり酷くドアノブを壊されている。
これはどう見ても人為的なものだ。
S級ドラゴンの被害ではない。
「まさか……泥棒か!」
小声で呟いて、カティアは警戒を強めてドアを開けよとした。
泥棒が入っているならゼクードに返り討ちにされてそうだが、それはゼクードが万全だったならの話だ。
ゼクードは昨日の今日でかなり疲れていたはず。
寝込みを襲われればS級騎士とてやられてしまうだろう。
「ゼクード……!」
急に心配になってきた。
ゼクードは大丈夫なのだろうか?
急いで家の中を調べようとしたら。
「あらカティアさん。何してますの?」
「っ!?」
無言で驚いて振り向いた。
そこには緑の鎧を装備したいつものローエが立っていたのだ。
「ローエか。ちょうどいい。手を貸してくれ」
「え?」
「玄関のドアノブが破壊されている。隊長の家に泥棒が入っているみたいだ」
「へ!?」
「私が先行する。お前は後に続いてカバーしてくれ」
「え、あ、いや、そのドアノブ──」
「行くぞ!」
「ちょっ!」
カティアはドアを蹴り飛ばし、派手に開けて家に侵入した。
家の構造は理解しているから、ゼクードが寝ているであろう寝間に向かって走った。
先行するカティアに慌てて付いていくローエ。
すると案の定、ゼクードの自宅内は荒らされていた。
部屋の奥へ行くと、そこには真っ黒なフードをかぶった如何にも泥棒みたいな男がゼクードの部屋を漁っていたのだ。
「ああ!?」っと発見されたフードの男が驚愕し
「ええ!?」っと何故かローエまで驚いている。
「きさまっ! 我が隊長の家を物色するとは良い度胸だな! 大人しくお縄につけ!」
大声で怒鳴りながらも、カティアは部屋の隅々を一瞬で確認した。
ゼクードの姿はない。
寝込みを襲われてはいないようだ。
良かった。……というかどこ行ったんだあいつ?
「な、なんだテメェらは! 女のくせに騎士みてぇな格好しやがって!」
ん?
なんだこいつ。
こちらのことを知らないのか?
だとしたら難民の連中の一人か。
やれやれ。
こんな奴が生き残ってると思うと嫌になるな。
こんな奴こそドラゴンの餌にでもなればいいのに。
「もう一度言う。大人しくお縄につけ。さもなければ痛い目を見るぞ」
「はん! 見た目だけ取り繕ったって所詮は非力な女じゃねぇか! 調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
「うるさいバカ者が。大人しくドアノブ弁償して牢屋に入れ」
「いやドアノブは知らねぇよ! 最初から壊れてたんだ!」
「……おいローエ。なんで泥棒ってやつはこんなに嘘つきなんだ?」
「さ、さぁ? そうでもない、かも……ですわ?」
?
なんでさっきから挙動不審なんだローエは?
やはりまだ身体の調子が悪いのだろうか?
「嘘じゃねぇよ! 最初から壊れてたから入ったんだ!」
「入るな阿呆! きさまの脳ミソはドラゴン以下だな! 恥を知れ!」
「ぬああああ! イライラする! さっきから女のくせにデカい口叩きやがって! 不愉快だぜ!」
フードの男は腰に下げていたナイフを引き抜き、カティアに向かって突撃してきた。
カティアから見てそれは、呆れるほど遅い突撃だった。
「ふん」
鼻息を吐き捨てたカティアがフードの男と肉薄する。
次の瞬間。
ドカ!
ゴス!
バキ!
グシャ!
生々しい肉を殴る打撃音と、男の断末魔がゼクードの家内で響き渡った。
※
フランベール先生の家で一夜を過ごした俺は、先生と別れ、一度帰宅しようと軽くなった足取りで街中を歩いていた。
とりあえず二体目のS級ドラゴンを倒したから、遅かれ早かれ国王さまに呼び出されるだろう。
あと無断で【竜軍の谷】に出立したこともある。
何かしら怒られるだろうが、まぁ仕方ない。
フランベール先生が無事だったのだから何でもいいや。
そんな風に考えて歩いていると、顔面がかわいそうなくらいにボコボコになった男と、王国騎士が横切って行った。
しかもその時に聞こえた会話がこれだ。
「うおおおおんっ! 怖かったぁ……アイツ怖かったよぉ騎士さぁあああん!」
「よしよし。もう大丈夫だ。早く牢屋に行って休もうな?」
いったい何があったんだ……
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