第128話 作戦変更
カティアはローエを背にして空の見張りをしていた。
途中、フランベールからお湯を貰った。
それで身体を暖めながら望遠鏡を覗き続ける。
偵察隊が【竜軍の森】へ侵入してから二時間以上は立つ。
だが未だに【救難信号】は上がらない。
誰かが帰還する様子もない。
すると、同じマントに巻かれている背後のローエが欠伸をした。
「ふぁあぁ…………ん……寒い上に暇ですわ」
「こら。任務中だぞ。気を抜くな」
「わかってますわよ……」
ダルそうなローエは「そー言えば」と思い出しを口にした。
「フランはいつになったらわたくし達を『さん』付けしないで呼んでくれるのかしら?」
聞かれたカティアは望遠鏡を覗きながら答える。
「期待するのはやめておけ。フランはどうにも相手を呼び捨てにするのが苦手らしい」
「え、初耳ですわ。そうなんですの?」
「ああ。私も以前、フランと呼びたいからカティアと呼んでくれと頼んだことがある」
「どうだったんですの?」
「無理に呼ばせたら舌を噛んでしまった」
「な、なぜ舌を?」
「分からん。ぜんぜん分からん」
「んもぅ……家族なんですから呼び捨てでお願いしたいですわ。他人行儀みたいですもの……」
「そう言うな。誰にだって苦手なものはある。それを認めて、受け入れてやるのも家族だろう?」
「……それもそうですわね。ならカティア。あなたの苦手なものって何かありますの?」
「お前だな」
「んなっ!?」
「嘘だ」っと望遠鏡を覗いたまま笑う。
「特に苦手なものはない。強いて言うならゼクードの手料理かな」
「いや、あれはみんな苦手ですわ。下手くそ過ぎて不味いだけですもの。どうやったらあんな【ダークマター】みたいなものができるのかしら?」
「分からん。それだけは本当に分からん…………んっ!?」
※
「ゼクード!」
見張り役のカティアの声が弾けた。
事態は彼女の声音で予測できた俺は即座に聞き返す。
「信号か!?」
「【救難信号】を確認! 数は3……いや4に増えた!」
4!?
4つもの【救難信号】が上がったのか!?
全部隊じゃないか!
「方角は分かるか!」
「南西に1つ。南東に1つ。南に1つ。その南のさらに奥に1つだ!」
さすがカティアだ。
的確に覚えてる。
しかし……いきなり4つの全部隊から【救難信号】が飛ぶとは。
敵は一匹じゃなかったってことか。
くそ!
練りが甘かった!
なんで複数の場合を想定しなかったんだ俺は!
いきなり作戦変更じゃないか!
「戦力を分散する! ローエは南西! カティアは南東! フランは南! 俺は一番奥の南を目指す! 敵を押さえて味方の撤退を支援するんだ!」
「了解!」
指示を飛ばした瞬間に、みなが迅速に飛び出していく。
粉雪を巻き上げながら俺も彼女たちに続いた。
待ってろよみんな!
持ちこたえてくれ!
すぐ行くからな!
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