第189話 ついに帰還
「お父さん。今回はどう見てもお父さんの勝ちだから、約束どおりアタシとレミーがデートしてあげる」
「お、素直だな。負けをちゃんと認めるところもお母さん譲りかな?」
「そうなの?」
「ああ。カティアとローエも最初はツンツンだったけど、実力を見せたらちゃんと認めてくれた。ああいうのって、プライドが邪魔してなかなかできないからな。大したもんだよ」
「父さん! さすがです!」
遠くからやってきたカーティスが尊敬の眼差しでこちらにやってきた。
「おお、カーティス」
「病み上がりでこの動き。やはり父さんは凄いですよ!」
「はは、誉めすぎだよ。任しとけって」
息子に持ち上げられて悪い気はしない。
憧れの英雄としての動きに不満はなかったようで安心した。
父親としての面子も守られたってわけだ。
「グロリア。レミー。ケガはないのか?」
ついでのようにカーティスが言う。
「大丈夫よ」
「なんでアタシたちだけケガの心配すんのよ!」
「自分の腕に聞くんだな」
「このっ! ムカつく~っ!」
言うだけ言って去っていくカーティスに、グロリアはギリギリと歯軋りした。
そんな妹にレミーベールは苦笑する。
「まぁまぁ……お母さんたちも見てくれた?」
言いながらレミーベールが振り返った。
あとからやって来たカティアたちがそこにいた。
「ああ。見ていたぞ。大したものだ」
腕を組んで感心するカティアに、隣ではローエが腰に手を当てて驚く。
「ほんと凄いですわ。二人ともそんな細腕なのに、どこにあんなパワーを隠してますの?」
「いやローエさんがそれ言う?」
「え?」
フランベールの言うとおりだ。
しかも『え?』って、自覚ないんかい。
ローエもその細腕で超重量のハンマー振り回してるくせに。
といってもみんな普通の女性よりかは腕太いんだよな。やっぱり鍛えてるからそのぶんはどうしても太くなる。
健康的で俺は好きだが。
まぁいいや。
そんなことより。
「それより二人とも変わった技を使っていたな。あれはなんだ?」
「お父さんの【竜斬り】をアレンジしたものよ。今度教えてあげよっか?」
アレンジ?
派生させたってこと?
凄いな……
良いものを見せてもらったよ。
さすが俺の娘たち。
やり方は何となく見てわかったから、今度やってみよ。
「じゃあ……デートの時にご指導願おうかな」
その『デート』という単語に妻たちがワザとらしい溜め息を吐いてきた。
「やれやれ……娘とデートの約束とはな」
「ほんっと好きですわねあなたも」
「まぁゼクードくんらしいけどね」
やっぱり怒ってこないなぁ。
ヤキモチのひとつでも焼いてくれれば可愛いのに。
「ほら見ろカーティス。ヤキモチ焼くお母さんたち可愛くない?」
「い、いきなりオレに振らないでくださいよ!」
「阿呆。誰が今さらヤキモチなんか焼くか。子供じゃあるまいし」
カティアが呆れながら言う。
ジトッとした目付きで睨まれるが、逆に可愛い。
「年齢的にはカティアまだ子供じゃん? 未成年」
「お前よりは大人だ」
「たった2年じゃんか」
「一番ガキじゃないか」
「一番ピチピチなんだよ〜。ほら触ってみカティア? 君より2年も若い柔肌よ?」
頬を差し出すとツネられた!
「いたたたたたたたたた! ごめん! やめて!」
そんな両親の子供みたいなやりとりを見ていたレミーベールがクスリと笑った。
「ふふ……お父さんとお母さん達って、夫婦って言うより友達みたいね」
「だから上手くいってるのかな?」
グロリアの問いに、レミーベールは頷く。
「きっとそうよ。仲良しなのよ。楽しそうだもん。みんな」
※
日が沈み始めた夕方に、俺たち【フォルス隊】は実に18年ぶりの帰還を果たそうとしていた。
草原のど真ん中に立つ重厚な城壁が見えたのだ。
「見えてきましたよ。【エルガンディ王国】です」
ついに見えた故郷だ!
【ヨコアナ】ではない本物の故郷!
心臓が高鳴り、グリータの顔が脳裏によぎった。
「おおおおおおおおおおおおおお! 懐かしいな! 城壁が直ってる!」
思わず声を大にして言ってしまっていた。
嬉しすぎるのだからしょうがない。
「あそこにレィナたちもいるんだな!」
カティアも気分の高ぶりが声で窺えた。
彼女もやはり嬉しいらしい。
「はい! きっとお喜びになると思います!」
カーティスが頷き、
「いや絶対にパニックになるって」
っとグロリアが突っ込む。
しかし冷静な息子娘らに反して、親である俺や母親たちは興奮の嵐だった。
「早く行きましょう! リーネに会えますわ!」
「うん行こう! リリー姉さんにも会える!」
「ちょっとお母さん! 走っちゃダメよ! お腹に赤ちゃんいるんだから!」
レミーベールが念を押すが、ローエたちは「わかってますわ」と言いながら小走りだった。
俺もすぐに後を追う。
「俺もまずはグリータに会いてぇな」
誰に言うのでもなく、俺はそう呟いた。
そのあとは国王さまやガイスさんとか。
挨拶回りが大変だなこりゃ。
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