第4話 競争開始!

 騎士学校のカリキュラムを終えて、俺はローエとカティアが待っているゲートへと向かう。


 大勢の人間が行き交う【エルガンディ】の街を歩き、白い石畳の上を通る。


 前を見ると、そこには何年も俺たちの生活を守ってくれている城壁が見えた。


 第二城壁である。

 ここ【エルガンディ王国】はドラゴンの脅威から身を守るために二つの城壁を建てているのだ。


 第一城壁と第二城壁。

 高さは第一城壁が15メートルで第二城壁は20メートルとなっている。


 その城壁の中央にこの王国の門となるゲートハウスがある。

 迎撃拠点にもなっているそのゲートハウスはみんなゲートと呼んでいる。

 俺もそう呼んでいる。呼びやすいから。


 そのゲートにたどり着き、俺は内部へと入った。

 あの麗しいローエとカティアが受付で待っているはずだが。


「わたくしですわ!」

「馬鹿を言うな! 私だ!」


 なんかケンカしてるぅ!

 

 ゲート内部の受付ホールでローエとカティアが怒鳴り合っていた。

 受付嬢さんや、周りにいる他の騎士さん方が困り果てている。


 何をケンカしているのか?

 これは隊長として首を突っ込まねばなるまい。


 俺は二人の元へ駆け寄った。

 あ、二人の女性らしい甘く良い匂いがする。

 なんで女性ってこんなにも優しい匂いがするんだろう?

 うん。気になるが今は後回しだ。


「やめてくださいローエさんカティアさん! こんなところでケンカしてたら迷惑ですって!」


「! あらやっと来ましたのね。待ちくたびれましたわ」


「ほう、逃げずに来たようだな」


 うん?

 ケンカは止まったか?


「ゼクードでしたわね? このドラゴン狩りでの勝負。わたくしが勝ったら隊長の座(ざ)を譲(ゆず)っていただきますわ」


「おいキサマ。まだ夜も更(ふ)けていないのに寝言(ねごと)をほざくな。隊長は私がやる」


「あら? あなたごときにわたくしの隊長が務(つと)まるとでも思って?」


「その言葉、そっくり返してやろうか?」


 うわぁ険悪だ。

 なるほど。

 これでケンカになってるのか。


 美女二人が俺という隊長をめぐってケンカしているなら最高のシチュエーションだったのだが。

 

「まぁまぁ二人とも。そんな怖い顔して睨み合わないで。せっかくの美人が台無しですよ?」


 俺が言うとローエとカティアは息もピッタリにこちらを睨んできた。


「あなたが勝手にこの人を誘っていたからこうなってますのよ!」


「ゼクード。誰がこの女まで誘えと言った? お前と私の狩り勝負だったはずだぞ」


「いやローエさんとカティアさんの目的が同じ『俺の実力を見たい』だったのでまとめて相手しようかと思ったんですよ」

 

「まとめてって……あなた、本当に自信過剰みたいですわね?」


「今朝(けさ)言ったじゃないですか。ガッカリさせませんよって。それよりどんな形式で勝負するんです?」


「ふん……勝負内容は簡単ですわ。ちょうどいま三匹のA級ドラゴンがエルガンディの狩猟区に侵入しているそうですの」


 なるほど。

 狩猟区に侵入しているなら討伐対象だな。


「各自一匹を担当し、先に狩った方が勝利ですわ。よろしくて?」


「いいですよ」


 俺は軽く返事をした。

 向かいのカティアはローエに仕切られているのが気に食わないようで、露骨に舌打ちしてから「わかった。それでいい」と答えた。


 ※


 王国の外へ──つまり城壁の外へ出るにはゲートで受付してからじゃないと出られない。


 王国から一歩出ればそこはドラゴンが徘徊する広大な大地だ。

 一般人はもちろん危ないから出れないし、並みの騎士でも命の危険性がある。

 だから色々と制約があるのだ。

 

 狩猟なら期間を聞かれ、その期間の内に帰って来なかったら救助騎士隊が出動するようになっている。


 狩りの際に負傷して動けなくなったり、迷ったりして帰れなくなったりなど、ドラゴン狩りのトラブルはよくある。


 しかし今回は近くの森でのドラゴン狩りだ。

 しかも狩猟メンバーは【S級騎士】の俺とローエとカティアである。

 これ以上にない強力なメンバーだ。


 フランベール先生も居れば【S級騎士】のフルメンバーだったのだが、たった三匹のA級ドラゴン相手にそれはやり過ぎだろう。


 A級ドラゴン側からすれば、すでにこのメンバーが相手な時点で殺意が高過ぎるように見えるだろうし。


「それではよろしくて? ドラゴンを発見したら空に向かって自分の単発魔法を打ち上げますのよ」


 狩猟場である森を前にローエが確認する。

 俺は頷く。


「それが発見の合図で、そしてみんなの単発魔法が打ち上げられた時がドラゴン狩り競争のスタート、ですよね?」


「その通りですわ。もし同じ場所に二匹のドラゴンがいたりしたら二発の魔法を打ち上げますのよ。……聞いてますカティアさん?」


「聞いている。さっさと始めろ」


「せっかちな方ですわね。それではドラゴンの探索を開始しますわ。【S級騎士】なのですからこの程度の敵に負傷なんてしないように」


「お前がな」


 バチンッ! とカティアとローエの視線が火花を散らせて交差した。


 相変わらず険悪なまま二人は率先(そっせん)して森の中へ入って行く。

 俺も続いていき、途中からみんな違う方角へ向かって見えなくなった。


 生(お)い茂(しげ)る木々に日光が遮(さえぎ)られ、森の中はやや暗くなっている。

 もはや慣れた狩猟場だから、どのへんにドラゴンがいるかは当たりをつけておいた。


 おそらくローエとカティアもそうなのだろう。

 ドラゴンがよくいる場所を知っていなければ、ああも迷わず進んでいかない。


 そして森を少し進んで湖のある広場へ来た。

 やはり予想は当たった。

 一匹のドラゴンがその湖を飲んで休んでいる。


 赤い鱗に覆(おお)われた約3メートルほどの大きな個体だ。

 俺は咄嗟(とっさ)に巨木の陰(かげ)に滑り込んで手を空へ掲(かか)げた。


 俺の生まれもった属性は【闇】。

【黒騎士(ダークナイト)】の称号を得る理由となった属性。

 その単発魔法である【ダークマター】を発動した。

 手から黒の球体が現れ、それは空へ向かって放たれた。


 その音でドラゴンが異変に気づき、辺りを警戒し始めた。

 ローエとカティアの合図が来るまで逃げ回るかと考えたそのとき、ドンドンと二発の魔法が弾ける音が聴こえた。


 それは西と東の方角から響いたもの。

 つまりローエとカティアが他のドラゴンを発見した合図である。


 ならばドラゴン狩りのスタートである。


「よし。美女二人に認めてもらうために本気でいきますか!」


 背中に担いだロングブレードの柄(つか)を握り、カチンと鞘(さや)から抜き放つ。

 ギラリと刀身を輝かせ、俺は巨木から身をさらけ出した。


 向かいに立つ四肢のA級ドラゴンがこちらを発見して咆哮(ほうこう)する。


 そして俺はドラゴンへ向かって一歩踏み込んだ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る