第124話 若き騎士たち

 疲れ切ったローエたちから事の顛末を聞かされた。

 リーネとリリーベールが今回の部隊編成に不満があったらしい。


「──なるほどね。そんなことが……」


 俺は何度か頷きながら、やれやれと溜め息を吐いた。

 仕方ないと言えば仕方ないのだが、確かに部隊の編成はいつも偏っている。


 俺がガイスやグリータたちをあてにしているのは事実だ。

 他の騎士たちを育成したいのはやまやまだが、こんな事態の時にやるものではない。

 過去の件もあるし……


「姉さんたちの気持ちも分からなくもないんだけど……」


 俯くフランベールに俺はすぐに応じる言葉を見つけられず、彼女と同じく視線を地に落とす。


「ゼクード……何か良い考えはありませんこと?」


 リーネのことを思ったのだろうローエが言ってきた。

 聞いて、俺は腕を組んで考えた。

 思い悩むフランベールとローエのためにも、何か良い案はないだろうか。


 ガイス・グリータ・レィナを外すとしたら、かなり【偵察隊】の戦力は落ちる。

 だがそもそも戦闘が目的ではない以上、そこはあまり問題にはならないはず。

 最悪の事態にでもならない限りは。


 その最悪の事態が怖いのだが、それを言ってしまうと何もできなくなるのも確かで……


「──…………わかった。ならこうしよう。【偵察隊】の編制は『志願制』にする」


「志願制?」というカティアに俺は頷く。


「どれだけ危険な任務かをしっかり説明した上で、S級騎士たちに選ばせるんだ。自分で志願するから士気も高いし、それぞれの不満も出にくいだろ。もし一人も集まらなかったら最初に編制したメンバーで事に当たる。ローエもフランも、それでいいな?」


「ええ、それで良いですわ」

「ありがとうゼクードくん」


 まぁ……この志願制は、俺の言い訳づくりだ……

 また全滅してしまった時に、彼らの家族にある程度の理解を得るために……


 前もそうだった。

 そのおかげで許された面もあったんだ。

 だから……はぁ…… 


 我ながら嫌な大人になりつつあるなと、ゼクードは心の中で盛大な溜め息を吐いた。


 ……さて、未知のドラゴンの偵察なんて誰がやりたがるのだろうか?

 一人でも居れば良い方だろうな。



 それから1日だけS級騎士たちの返事を待った。

 もちろん任務内容は全て説明した。

 それで何人来るだろうか。


 俺は一人でカーティスたちの相手をしながら報告を待つ。

 すると、部屋のドアが静かに開いた。


「ゼクード」


 カティアが入ってきた。

 いつもと変わらぬ顔つきで部屋に戻ってきた。

 彼女には、ローエたちと共に志願者の人数を確認しに行ってもらっていたのだ。


 果たしてどうだったのだろうか。

 いつも通りの顔を見ると、やはり芳しくないみたいだ。

 まぁ、予想はしていたがとりあえず聞いてみる。


「あ、カティアどうだった? やっぱり志願者なんて一人もいなかっただろ?」


「いや、それが……全員志願してる」


 ─────────え?


「なんだって?」


「グリータ・レィナを除くS級騎士の全員が今回の任務に参加したいと志願している」


 は?

 え?

 どういうこと?


「え? 全員?」


「ああ」


「な、なんで? 未知のドラゴンの偵察だよ?」


「私が知るか。本人たちに聞いてみろ」



 カティアにそう言われたので俺は若いS級騎士たちに召集を掛けた。

 若いと言ってもみんな俺より年上だが。


 集めた場所は『ヨコアナ』の外。

 雪が降って寒いが、この人数を集める広い場所は『ヨコアナ』にはない。


 とりあえず集まってもらったS級騎士たちの前に俺が立つと、俺が口を開く前に次々とS級騎士たちが前に出てきた。


「ゼクード隊長! おれ達も任務に参加させてください!」


「せっかく強くなったのに活躍の場がないんですよ!」


「少しはオレたちにも任せてください!」


「そのための二年だったんです!」


「お願いします!」


 す、凄い熱気とやる気だ。

 寒さで凍えてるのは俺だけのようで、みんなやる気に満ちた素晴らしい目をして燃えている。


 これは予想外だ。


「わ、わかった! わかったよ! みんなのやる気は凄く伝わった!」


 みんなを一旦落ち着かせ、下がってもらった。

 そして俺は説明する。


「でも全員を総動員して【竜軍の森】へ向かうのはダメだ。【ヨコアナ】の防衛が手薄になりすぎる。今回の任務に出られるのは16人にする。小隊4個分の人数だ」


「ええ!? たったの16人ですか!?」


「もっと連れて行ってもいいじゃないですか!」


 仲間たちの声に俺は良しとせず首を振った。

 ダメなものはダメである。


「ダメだ。雪かきの人間と、復興作業にも人間がいるんだから16人が限界だよ」


 事実を突きつけると、ブーブーと文句を垂れる奴らが多数現れた。

 でもブー垂れてもダメダメ。


 俺は心を鬼にして拳を天へと突き出す。 


「それじゃ各小隊の隊長は手を上げろ! これよりジャンケンで参加する部隊を決める!」


「えええええ!?」


 仲間たち全員が驚愕する。


「はい、出さなきゃ負けよ~ジャンケンぽん!」



「──というわけで決まった4個小隊と俺達【フォルス隊】が今回の任務に参加することになりました」


【王の間】にて国王に部隊編制のことを伝えた。


「ジャンケンってあなた……」っとローエが後ろで呆れているが無視する。

 

 俺達【フォルス家】もよくやってることじゃないか。ジャンケン。

 ああした方が後腐れなくていいんだよ。たぶん。


「ふむ……まぁともかく、みなのやる気が素晴らしいな。頼もしい限りだ」


 国王の言葉には俺も心底同意だった。

 まさかあんなにみんな燻っていたとは。

 過去に若い部隊が全滅したことを知ってるはずなのに。


「ええ。本当に驚きました。でもこれだけ士気が高ければ、みんな良い結果を出してくれると思います」


「うむ。……しかし【フォルス隊】まで出るとは、今回の出撃で討伐も視野に入れているのか?」


「俺達が出るのは万が一のためです。それはピンチだけでなく、チャンスだった場合のためにも俺達は出撃します」


 ディザスタードラゴンの経験を活かし、万が一のチャンスがあるかもしれない。

 攻めるチャンスがまさに今! という場面に出くわした時のためだ。


「なるほどな。攻め時があれば攻められるようにするためか」


「はい。ディザスタードラゴンの時はそれで切り抜けられましたから」


「よかろう。私に異論はない。そちらの件は任せたぞゼクード」


「はっ!」

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