第74話 国王の決意
────な、に?
「え……いま、なんて!?」
「フォレッドが倒したはずの【10年前の悪夢】……ディザスタードラゴンだ」
ディザスタードラゴン!?
嘘だろ……白いドラゴンの正体がまさか親父の仇とは。
「生きていたって……事ですか?」
「ああ、間違いない」
「べ、別のドラゴンという可能性は──」
「それはない」と国王さまは断じた。
「奴の左眼が……それを証明していた」
左眼?
「どういう事ですか?」
「フォレッドが奴を撃退したとき、剣で片眼を潰していた。私はそれを見ている。あの左眼の傷は間違いなく10年前のドラゴンの証だ」
「そんな……」
奴は生きていた。
親父は相討ちではなく……負けたということなのか?
──はっきり言って、ショックだった。
俺の中での親父は、どこか、無敵の存在だったから……。
子が父親に抱くイメージと言うものは、きっとこういうものなんだろうと思う。
だから、今さらながら怖くなってきた。
あの親父が勝てなかったドラゴンに、俺は、どうやって勝てば良いのだろう、と。
「今回、奴がここを襲撃してすぐに去ったのはフォレッドの存在の確認だろう。奴は自分の脅威となる騎士を把握している」
「は……」
「【アークルム王国】はどうなった?」
「──……残念ながら」
「そうか……」
追い討ちを掛ける悲報。
もう残っているのはここ【エルガンディ王国】だけという事実。
国王さまは両手で顔を覆い、大きく息を吐いた。
【アークルム王国】の壊滅。
【10年前の悪夢】ディザスタードラゴンの出現。
【英雄フォレッド】敗北の事実。
本当に泣きたくなる情報ばかりだ。
「こんな事態のために、国を強くしてきたつもりだった……。なのに、このザマとは……」
「国王さまは悪くありません! 悪いのは──」
ドラゴンたちか?
違う。そんなんじゃない。
やはり見通しが甘かった国王さまのせいか?
絶対に違う。
ならばディザスタードラゴンに勝てなかった親父のせいか?
違うに決まってる。
悪いのは間違いなく、この事態に対処できなかった俺たち騎士全員だ。
みんな強ければ、こんな事態にはならなかったんだ。
【オルブレイブ王国】
【アークルム王国】
【リングレイス王国】
騎士たちが強ければ、この三国も滅びを免れたはずなんだ。
『騎士が弱いというのはそれだけで罪』とはよく言ったものである。
では、ならば……どうすればいい?
みんな強くなればいい?
無理だ。
そんな時間、俺達には残されていない。
【エルガンディ王国】が次のドラゴンの襲撃に耐えられるとは思えない。
俺も、あの親父が勝てなかったディザスタードラゴンを相手に、みんなを守れる自信もない。
勝てる自信も……今はない。
どうすればいいんだ。
わからない。
こんな状況では【魔法大砲】の一つで解決できる問題ではなくなってきた。
でも、諦めるわけにはいかない。
グリータにも手を尽くすと言ったんだ。
ローエさん・カティアさん・フランベール先生とだって結婚したいんだ。
やっと手に入れた生き甲斐なんだ。
やりたいことはまだたくさんある。
俺はまだ死にたくない。
ここまで来てドラゴンどもに蹂躙されてたまるか。
だけど……くそっ!
どうすりゃいいんだよこの状況!
この状況を打開できる策が思い付かない。
みんなで強くなれれば……きっと
でも、そのための時間がもう……ない
何もかもが遅すぎたのかもしれない……俺たちは……
気づけばこんなにも追い詰められているんだから──
「ゼクード」
「え……ぁ、はい!」
堂々巡りの思考で熱した頭。
そこに冷や水を掛けるかのように、国王さまは俺の名を呼んできた。
その国王さまの眼は、先ほどとは違い、光があった。
「すまんな」
「え?」
「情けない姿を見せた」
「ぁ……いえ、そんな……」
「残りのS級ドラゴンは?」
この期に及んで、国王さまの声は強くなっている。
凛として、諦めることを許さない。
そんな声だった。
「あ……【アークルム王国】を襲撃した2体のうち1体は討伐しました。でも残りに【超大型ドラゴン】がいます」
「なるほど。【ディザスタードラゴン】とその【超大型ドラゴン】が残りの敵か」
「はい。ただ【超大型ドラゴン】はその巨大さ故に鈍足ですが、恐ろしいまでの肉厚さがあると思います。武器による攻撃ではダメージにすらならないかと」
「ふむ……」
「ですから俺は【魔法大砲】の強化を推奨します」
「あれの強化か……」
「はい。それが一番の【超大型ドラゴン】討伐の早道だと思っています。とにかく敵の数を減らさないと。こちらが先に力尽きてしまいます」
「……たしかに、そうかもしれんな。わかった。いいだろう。果たして間に合うかは分からんが、生き残りの開発担当に早急に依頼しよう」
「ありがとうございます!」
よかった。
国王さまはまだ、諦めていないんだ。
なんだろう、俺はいま、凄くホッとしている。
国王さまがまだ諦めていない事実が、今は無闇に嬉しい。
心のより所というか、とても頼りがいがある。
おかげで絶望していた俺の心が、熱を呼び覚ましてきた。
そうか……だからローエさんやグリータは俺に……
「それからゼクード。もう一度、心して聞いてほしい」
国王さまの顔がよりいっそう険しくなり、硬い決意を覗かせる。
あまりの気迫に生唾を飲んだ俺は「はっ!」と力みながらも脆く。
「今の我々の力ではおそらく……いや、間違いなくドラゴンに負ける」
「はっ」
否定はしない。
俺もそう思っている。
「次また奴がここを襲撃すれば【エルガンディ王国】は滅びるだろう。それは【超大型ドラゴン】も例外ではない」
「はい」
これも否定しない。
その通りだと思う。
もうみんなボロボロなのだから。
「では、どうするか?」と国王さまは玉座から立ち上がってきた。
俺の前まで来ると、国王さまは立ち止まる。
「我々全員が強くなる他ない」
?
「そ、それはそうですが国王さま。我々にはもうそんな時間は……」
「その通りだゼクード。我々にはもうそんな猶予はない。ドラゴンも待ってはくれんだろう。【超大型ドラゴン】か【ディザスタードラゴン】がここに再度攻撃を仕掛けてくるのも時間の問題だ」
「でしたら……」
「聞け。我々は一度ここ【エルガンディ王国】を放棄する」
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