第7話 ゼクードの実力
狩りを終えてすでに2分が経過している。
ローエは未だに飛ばない最後の魔法が気がかりだった。
「まったくトロいですわ。カティアさんかしら?」
森の中を歩きながら呟く。
「誰がトロいだと?」
「あら?」
向かいから現れたのは当のカティアだった。
のんびり歩いているところを見るに狩りを終えているみたいだ。
ということは、未だに狩りを終わらせていないのはやはりあの一年のゼクード・フォルス。
やれやれとため息が出た。
話にならないではないか。
なぜ彼が【S級騎士】で【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命されたのか理解に苦しむ。
「おい。あの一年はまだか?」
「まだみたいですわ」
「遅い。話にならないではないか。なぜ奴が隊長に選ばれたんだ!」
「わたくしが聞きたいですわよ!」
ローエとカティアが怒鳴り合うと、森の奥から何かがやってくる気配を感じた。
ハッとなったローエは反射的に近くの茂みに身を隠す。
カティアも気配を察知したらしく、ローエの向かいの茂みに隠れた。
ドラゴンの気配だと分かるそれはこちらにまっすぐ近づいている。
出発前の受付嬢の話では狩猟区にいるドラゴンは三匹。
他の二匹は倒したから、残りはゼクードが相手をしているはずの一匹だけ。
彼はやられてしまったのだろうか?
さすがにそれはないと信じたいが、心配である。
ローエはカティアを見た。
カティアもこちらを見て頷いてくれる。
ドラゴンが姿を現したら連携して討伐するという意思疎通を済ませた。
嫌いな相手でも同じエリアにいるならそれは味方だ。
下手な意地の張り合いは生死に関わる。
ローエはマグナムハンマーを構え、カティアもバスターランサーを構えた。
ドラゴンの気配が大きくなり、少し地鳴りまでする。
すると森の奥から飛び出して来たのは思ったより小さかった。
そのシルエットはどう見ても……人間?
「ちくしょおおおお! いい加減にしろお前ええええ!」
アホみたいに絶叫しながら現れたのはゼクードだった。
彼の後ろからは一匹のドラゴンが追いかけて来ている。
良かった。
無事だった。
と安堵する気持ちが半分。
【S級騎士】が【A級ドラゴン】ごときに追い回されてる事態に信じられない気持ちが半分だった。
もはや絶句である。
カティアも同様で、あまりの無様さに開いた口が塞がらないようだった。
「カ、カティアさん! カティアさん! 助けますわよ!」
「え!? ぁ、ああ! そうだな!」
二人が茂みから躍り出ようとしたその時だった。
ゼクードが一転して追いかけてくるドラゴンに向かい合う。
どうやらゼクードは逃げて態勢を立て直していただけのようだ。
その事を察してローエとカティアは加勢を一時中断し、成り行きを見守る。
四肢を唸らせ突進してくるドラゴンはゼクードに向かって飛び掛かった。
その攻撃に対し、ゼクードの回避動作はわずかな体捌きのみ。
な!?
ローエは驚愕した。
おそらくカティアも。
凄い。
あんなギリギリで飛び掛かりの爪を避けた。
端から見れば当たっているようにしか見えないほどそれは近く、紙一重だったのだ。
さらにそのゼクードの表情はあまりに余裕があった。
そのままロングブレードの柄に手を駆けた彼の次の動作は凄絶!
白い斬光が見えたかと思うとドラゴンの左腕が斬り飛ばされていた。
さらにもう一閃を放ったゼクードはドラゴンを風のようにすり抜けていく。
それは先ほどの一閃とは違った。
おそらく常人にはただの一閃にしか見えなかったであろう今の攻撃は、秒間で五~十もの斬撃を放っていた。
高速の斬撃などではない音速レベルの斬撃だ。
そんな神業を食らったドラゴンは全身から血を薔薇のよう吹き出させて一瞬で絶命した。
彼がドラゴンと向き合ってからわずか数秒の決着だった。
カチンとロングブレードを背中の鞘に納めてゼクードはふぅと一息吐く。
ローエはまだ思考が現実に追い付いていなかった。
わたくしは今、何を見たの?
先ほどまでドラゴンに追いかけ回されていた男が攻勢一転。
ローエとカティアを遥かに凌ぐタイムでドラゴンをミンチにしてしまった。
1分も掛かっていない。
数秒だ。
なぜこれほどの腕前の男があんな醜態を?
なんであんな一匹にあれほど手こずって?
いや、なぜ一年生の彼がこれほどまでの剣技を?
ローエの知る剣技の中では、彼の剣技は間違いなく比類なき最強のものだ。
あんな凄い剣技は見たことがない。
「ぁ、ぁ、あなた、いったい……」
思わず口にして、ローエは茂みから身をさらしていた。
「ん?」とゼクードがこちらに気づく。
「あ! ローエさん! カティアさん! 良かった無事だったんですね!」
どの口が言うのかこの男は。
「そりゃ無事に決まってますわよ! まったくあなたは! あんな凄い剣技を使えるならもっと早く倒せたでしょう!」
「同感だな。たった一匹のドラゴンに手こずり過ぎだ。話にならん」
「ああ違う! 違うんですよ二人とも! あれは五匹目なんです!」
「──え?」
「──は?」
ローエとカティアは揃って間の抜けた声を上げた。
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