第66話 激闘
巨大ドラゴンマンの咆哮が俺の全身をピリピリと痺れさせた。
あの氷のS級ドラゴンほどではない音量だが、どのみちうるさい。
そして思う。
コイツの竜鱗は今までのドラゴンを遥かに凌駕する堅さだ。
足を両断してやるつもりだったが、思った以上に刃が通らなかった。
動きもなかなか俊敏で、攻撃の爆破の威力も思った以上に強かった。
おかげで少しカウンターに失敗したが、なんとか爪は破壊できた。
なんにせよ
この巨大ドラゴンマンは危険だ。
何がなんでもここで倒す!
「うおおおおっ!」
ロングブレードにありったけの【気】を纏わせ、俺は突撃する。
対する巨大ドラゴンマンは豪腕を打ってきた。
こいつの主な攻撃手段は、やはりこの腕からの拳打と爆破のようだ。
だがこいつはS級ドラゴンだ。
まだ何かしらの攻撃手段を隠している可能性がある。
気をつけて掛かろう。
巨大ドラゴンマンは、まっすぐこちらを狙って大振りのパンチを放ってくる。
大振り故に見切りやすいそれをヒラリとかわし、宙を舞った俺は伸びきった敵の腕に乗った。
即座にロングブレードを突き刺し、そのまま全力疾走して刃を走らせる。
悲鳴のような雄叫びを上げた巨大ドラゴンマンが暴れた。
俺を捕まえようとする手が迫る。
そう来ると予測していた俺は敵の腕を蹴り、飛んでそれを回避。
巨大ドラゴンマンから離脱する。
その刹那に俺の闇魔法である【ダークマター】を奴の血走った瞳にお見舞いした。
瞳の中心に【ダークマター】が直撃し、その激痛にまたも悲鳴を上げた巨大ドラゴンマンが目を押さえてのたうち回った。
※
「強い……」
【アークルム王国】の【ドラゴンキラー隊】の隊長であるガイスは、ゼクードの戦いぶりに思わずそう呟いていた。
あの巨大ドラゴンマンを圧倒している。
四人で束になっても歯が立たなかったあのS級ドラゴンを、たった一人で。
さすがはあのフランベール・フラムの隊長とか、そんな言葉で片付けられるレベルじゃない。
何者なのだ。あの少年は?
起き上がってきた巨大ドラゴンマンが怒りの咆哮をまたも発し、豪腕を一瞬しか見えない速度で振りかざす。
その一瞬しか見えない豪腕が、次の瞬間にはズパァンと無数の切り傷をつけられていた。
それこそ一瞬で。
あのゼクードがあの一瞬で、何撃かも分からないほどの斬撃を繰り出していたようだ。
あの一瞬で。
なんなのだ?
この一瞬だけの世界は。
俺は、何を見ている?
人間対ドラゴン?
違う。
超人対ドラゴンだ。
ガイスは、消えては走るゼクードを見て、そう思った。
※
「このっ!」
マグナムハンマーを振りかざし、A級ドラゴンの頭を爆破した。
その一撃が目前のA級ドラゴンを絶命させる。
「まったく! 何匹いますの……」
キリがない。
ローエは仲間たちと散開してからすでに、何匹かも分からない数のA級ドラゴンを討伐した。
なのに数が減る様子がない。
いったいどれだけのA級ドラゴンが街に侵入しているのだ。
建物の屋根から火球を放ってくる厄介なドラゴンもたくさんいる。
屋根からの攻撃は弓使いのフランベールが対処してくれているが、一人では手数が足りず、味方への被害は防げ切れていない。
味方の数は減る一方。
このままではマズイ。
ゼクードさえ来てくれれば、一気に片付けてくれるのに。
って、何を考えているのわたくしは!
隊長頼りではいけない。
もっと強くならないと!
「た、助けて! 助けてくれええええ!」
「!」
助けを呼ぶ声に反応して、ローエはその声のした方角を見た。
そこにはA級ドラゴンに囲まれたアークルムの騎士たちがいた。
たった3人に対して10匹にも及ぶA級ドラゴンが迫りくる。
「誰か! 誰か助けてくれ!」
「囲まれて動けない! こいつら俺たちを包囲して食うつもりだ! 頼む助けてくれええええ!」
彼らの位置は遠かった。
今から向かっても間に合わない。
それでも見捨てるわけにはいかない!
ローエは即座に走った!
「いま行きますわ! 諦めないで!」
「ダメよローエさん!」
呼び止められ、肩を掴まれた。
ローエを止めたのは、他でもないフランベールだった。
「先生!?」
「彼らはもう間に合わない! 諦めて他の助けられる味方を助けに行くのよ!」
「そんな!」
反論しようとしたそのとき。
「うわああああああああああああああああああ」
「嫌だ! 嫌だああああああああああああああ」
「ぎゃああああああああああああああああああ」
先程の騎士たちが断末魔の声を上げて、A級ドラゴンたちに押し潰され見えなくなった。
次いで、肉を食いちぎる音が響き出す。
その光景は、あまりにも無惨だった。
騎士である以上、見るのが初めての光景ではないが、やはり慣れるものでもないのは事実で……ローエの胸を強く締め付けた。
落ち込む時間などなく、佇んでいるローエに対して複数のドラゴンマンが飛び掛かってきた!
「【アイスソード】!」
唱えたフランベールが弓を納め、氷の双剣を召喚する。
彼女が何をするのか察したローエは巻き込まれまいと屈む。
フランベールは身体を一回転させ、氷の双剣を振るう。
その衝撃波とも言える剣圧が発生し、飛び掛かってきていたドラゴンマンたちを一斉に吹き飛ばした。
ドラゴンマンたちの先手を防ぎ、それを好機としたローエはフランベールと共に吹き飛んだドラゴンマンたちの追撃を開始する。
ローエは左へ、フランベールは右へ。
倒れたドラゴンマンをそのままマグナムハンマーで顔面から叩き潰し、続けざまに近くの一匹をも粉砕。
態勢を立て直しまた飛び掛かってきたドラゴンマンが数匹と迫る。
ローエは力を溜めた渾身のフルスイングを打ち放ち、まとめて空へぶっ飛ばした。
ドゴン! っと一息吐く間もなく上から火球が飛来してきた。
見れば建物の屋根にいるドラゴンがローエに狙いを定めてきたようだった。
何発もの火球を立て続けに撃ってくる。
「【ハリケーン】!」
ローエの風魔法である【ハリケーン】を唱えた。
地面から風が巻き起こり、それは巨大な竜巻と化した。
この【ハリケーン】は体力の消耗が激しく、さらに味方を巻き込みやすくて使いどころが難しい魔法なのだが、使い方を工夫すれば対空性能を得られるのだ。
ローエは自ら産み出した竜巻に飛び込み、その風力で上空へ舞い上がった!
竜巻の回転と身体の回転を同化させながら、屋根の上にいたA級ドラゴンの目の前まで浮上する!
「鬱陶しいですわ!」
竜巻の回転を乗せた、遠心力たっぷりのマグナムハンマーによる一撃。
それをA級ドラゴンの頭部に叩きつけ、同時にトリガーを引いて爆砕する。
A級ドラゴンの巨体を軽々と吹き飛ばすその威力は、一撃必殺だった。
A級ドラゴンは何件かの家を貫通して吹き飛んでいく。
そのまま竜巻から脱したローエは屋根に着地する。
やたらと高いその屋根からは、街の状態を一望できた。
街を囲む城壁の外さえも。
城壁の内側は、至るところから火の手が上がり、黒煙が舞う悲惨な光景が足下に広がっている。
対して城壁の外側には──
「──あ!?」
ローエは、目にした光景に血の気が引いた。
忘れていた。
報告されていた二匹のS級ドラゴン。
その片割れ。
ゆっくりと迫ってくる巨大な城のような影が。
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