第45話 ゼクードVSカティア

【トリガーウェポン】であるバスターランサーの起爆を生かし、爆発的な加速を生み出した。

 それはカティアの身体を浮かせ、曲線を描きながらこちらに飛んでくる。


「はああっ!」


 気合いの乗った声と共に大盾を全面に押し出してきた。


 これはシールドバッシュか!

 こんな速度のシールドバッシュなんか食らったら気絶どころじゃ済まない。


 しかもカティアさんのはミスリル製の大盾だ。

 間違いなく即死する。

 さすがカティアさん。容赦ないぜ。


「おっと!」


 迫り来るシールドバッシュを難なく避けた俺はロングブレードを薙ぎ払う。

 もちろん手心は加える。

 遠慮するなとは言われたが、カティアさんに致命傷を与えるわけにはいかない。


 薙ぎ払ったロングブレードの切っ先がカティアの肩をかすった。

 バキンッと鎧の一部である肩当てが吹き飛ぶ。


「ちっ!」


 舌打ちしたカティアさんはバスターランサーのトリガーを引き、着地した瞬間起爆させて横へスライドした。


 凄いな。

 着地の硬直した瞬間を狙ってやろうと思ってたのに。

 それを見事に防がれた。

 バスターランサーってあんな使い方も出来るんだ。


 爆風に乗るって凄く難しいはずなのに、カティアさんは完璧に爆風に乗っている。

 姿勢の制御も大変だろうに、本当に凄い。


 何度かの起爆でスライドしてきたカティアさんは俺の正面で止まった。

 バスターランサーを地面に突き刺したかと思うと、俺に向かって片手を突きつけてくる。


「『フレイム』!」


「!」


 魔法か!

 カティアさんの片手から放たれた『フレイム』は俺の目の前で地面に着弾した。

 火炎弾は爆発し、弾けた地面の破片らを回避する。

 

「どこを狙って……」


「『プロミネンス』!」


 続けざまに唱えられた最高レベルの炎魔法!

 先ほどの『フレイム』で目の前が黒煙で見えなくなっていた。


 なるほど!

 だから俺の足元に『フレイム』を撃ったのか!


 カティアさんの狙いを理解した次の瞬間。

 真紅の奔流が黒煙を割いて俺に飛来した。

 浅い回避では火傷すると即座に判断し、俺は大きく横へステップする。


 刹那、プロミネンスが練兵場を囲む石壁に直撃!

 チュドーンという破砕音が轟き、見学していた騎士たちの悲鳴が響いた。


「うわああああ!」

「のおおおお!?」

「あ、あっぶねぇ!」

「こんなところで魔法なんか使うな!」

「ブラックホールで吸収しろよ!」


 ごめん最後の人!

 魔法使ってくると思ってなかったからそんな暇なかったよ!


 内心で謝り、俺は肉薄するカティアさんを捉えた。

 目を合わせたのも束の間。

 カティアさんはバスターランサーによる乱れ突きを放ってきた。

 

「はああああっ!」


『突き』と『起爆』を混じえた怒涛の連続攻撃。

 それはとにかく派手だった。

『起爆』によって生じる黒煙が次の『突き』の出所を一瞬隠す形になっていて見え難くなっている。


 だが裏を返せば、こちらが見えにくいということはカティアさん本人の視界も悪くなっているはず。

『起爆』の瞬間、カティアさんから見て俺の姿は黒煙に隠れる。


 これを利用し……後ろを取った!


「チェックメイトです。カティアさん」


 あっさりカティアさんの背後を取り、彼女の背中にロングブレードを突きつけた。

 これで手合わせも終わりかと思った次の瞬間。

 カティアさんが振り向き様にバスターランサーを薙ぎ払ってきた。


「うわっと!」


 何とか避けた俺はカティアさんを見る。


「ちょ、カティアさん! なんで!?」


「この勝敗のルールを忘れたか? どちらかが片膝をつくまで。そうだろう?」


 やっぱりか〜クソ〜。

 それってどうしてもカティアさんに攻撃を当てることになるよな。

 嫌だなぁ、こればっかりは。

 カティアさん好きだし尚のこと傷つけたくない。


 カス当たりさせまくって、装備を全て破損させて戦闘不能にするしかないかな?

 なんか途中でカティアさんに怒られそうだが。

 うーむ、弱ったぞこれは。


「カ、カティアさん! 俺の騎士道が【金・筋肉・女】なのは知ってますよね?」


「ああ」


「だからそのぉ~、カティアさんに剣を向けること自体に俺は抵抗があるんですが……」


「今さら言うな。言い訳くさい。それにお前のそのへんの事情は重々承知している。だから言ったはずだ。この手合わせで私に勝てば何でもしてやると」


 そうだった!

 そんな嬉しい特典があったんだ!

 ただその特典を得るための条件が俺にとって厳しすぎる!


「何でもって、具体的にどの辺までなんですか?」


「どの辺でもいい」


「じゃあ結婚しろ、はいいんですか?」


 言われたカティアさんはライトブルーの瞳を細くして、俺を見ながらしばらく考えた。

 

「……お前ならいいだろう」


「「「えええええええええええええええ!?」」」


 周りで見ていた騎士たちが一斉に声を張り上げた!

 もちろん俺も大絶叫です。はい。

『結婚しろ』ってそれ男の欲求最大レベルのものだし!

 それ以上求めることないし!


「カ、カティアさん! ほ、本当に?」


「本当だ」


「俺、子供も欲しいんですよ?」


「ああ。いいぞ」


 いいぞ!?

 そんなあっさり!?

 いかん!

 ビビって震えてる俺!


「それだけ私を好きにしていいという事だ。覚悟と解釈してくれて構わない」


 覚悟?


「たとえ【竜突き】を会得できたとしても……お前の動きについて行けなければ意味はないと思っている」


「カティアさん……」


「だから、お前の本気の動きについていけるようになる! そのためにも本気を出してくれ隊長! S級ドラゴンを圧倒したあの時のように!」


 叫んで、カティアさんはバスターランサーと大盾を構えた。

 凄い気迫を感じる。

 絶対に見切ってやるという決意さえ感じた。


「情けは無用だ隊長。ケガを負う覚悟もできている」


 やる気というか、ひたすら真っ直ぐというか、やっぱりカティアさんは凄いなそのへん。

 でも、強くなることに焦り過ぎている。

 ケガをしちゃあ強くなれないでしょ。

 

 妹たちを守るために強くなるって昨日言ってたのに。


 そもそも戦闘能力ってのは、結局は毎日の積み重ねだ。

 階段で例えるなら、一段飛ばしで上っても大して伸びないし、息切れしてバテてしまう。

 そうなると強くなれるものも強くなれない。

 階段は一段ずつしっかり上っていくべきなのだ。


 だからここは仕方ない。

 カティアさんにはやはり手をしっかり引っ張ってくれる相手が必要だ。


「わかりました」


 俺は言いながらロングブレードを構え、正面のカティアを見据えた。


「本気で行きますよカティアさん。覚悟はいいですね?」


「ああ。ありがとう隊長」


 言葉を交わし、果たして、睨み合うこと数秒──



 ──カティアの正面にいたゼクードが消えた!


「っ!」


 このスピード!

 S級ドラゴン戦のときに見せたあの!


 どれだけ意識を集中させても見えない!

 まさか背後に回られたか!?

 

 しかし、背後からゼクードの気配はしない。

 僅かに感じるゼクードの気配は前方!


 無音の接近。

 いや、違う。

 無音ではない。


 私が全て聞き逃しているんだ!

 まるでついて行けてない!


 思い至って、その時にはすでにゼクードがカティアの懐まで接近を完了させていた。


「あ……っ!」


「【竜めくり】!」


 ゼロ距離でゼクードが突風を巻き起こした。

 気づいたときには突風に飲まれ、身体が浮いていた。

 浮いてしまった身体ではすでにどうしようもなく、カティアは練兵場の端まで吹き飛ばされ、ついには石壁に背中から叩きつけられた。


「が、はっ!」


 石壁に激突し、カティアは吐きそうになった。

 ガランと装備を落としてしまう。


「おぉ……」と周りの騎士たちが絶句する。


 しかし、カティアはすぐ異変に気づいた。

 あのドラゴンの竜鱗を剥がす【竜めくり】をくらったのに、全身に傷がなかったのだ。


 斬撃性のない突風?

 あいつ、手加減したな……


 それでもこの様な自分に嫌気が差した。

 まるで見えなかった。

 全神経を集中させたのに、それでも1秒たりとも捉えられなかった。


 やはり、自分はまだまだ弱い。

 なにがS級騎士だ。

 これでは、父上にも……


「カティアさん」


 ゼクードがロングブレードを背に納めながらこちらへ来た。


「……手加減したな?」


「【竜めくり】だけ威力を抑えました。接近するときは本気でしたよ」


 嘘を言っている声音ではなかった。

 その言葉に多少の救いを感じながら、カティアは自分が片膝をついていることに気づいた。


「手合わせはこれで終了ですよね?」


「……そうだな」


 手も足も出ない無様な結果になったが、まぁいい。

 次こそは勝つ。


「へへへ、カティアさん」


「?」


「例の約束。覚えてますね?」


「あぁ……何でもするって言ったあれか。なんだ、言ってみろ」


『結婚』でも『子供』でもなんでもしてやる。

 自分で出した条件だ。

 何を要求されても答えてやる覚悟はできている。

 

 ──それに、相手がゼクードならべつに……そこまで嫌じゃない。


「カティアさん。俺、実は将来【大家族】を築く夢があるんですよ」


「……なに?」

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