第20話 他国のS級騎士たち
それはある朝の登校中だった。
グリータは友達二人と騎士学校へ向かっている最中にそれを見た。
重装備をした何人もの大男たちが【エルガンディ王国】の大通りをズカズカと歩いていたのだ。
彼らは黙々と城へ向かっている。
「うっわ。なんだアイツら?」
「見たことない奴らだな?」
友達二人がそう言うのでグリータは答えた。
「あれは他国のS級騎士たちだよ。今回のS級ドラゴン討伐に向けてS級騎士同士顔合わせをするんだってさ。ゼクードが言ってた」
【エルガンディ王国】
【アークルム王国】
【リングレイス王国】
【オルブレイブ王国】
各国の【S級騎士】たちが今日ここエルガンディ王国に集って挨拶を交わすらしい。
これからS級ドラゴン相手に共闘することもあるからなのだろうが。
「ほーん……だからゼクードのやつ今日はフランベール先生と休みなのか」
「んー、それにしても男ばっかりだな。うちの【ドラゴンキラー隊】とは大違いだぜ」
たしかに大通りを歩く彼らはみな屈強という言葉が似合うほど逞しく、また身長がどいつもこいつも二メートルはあるんじゃないかってくらい大きかった。
ゼクードの率いる【ドラゴンキラー隊】は最年少のゼクードがなんだかんだ一番身長が高い。
でもたったの170センチだ。
あの大男たちと比べたらチビ同然である。
「男ばっかりなのは仕方ない。エルガンディ以外は未だに男尊女卑の国だからな」
グリータが言うと「あーそうか」と友達。
「っていうかそれ、ゼクードはともかくフランベール先生とか大丈夫なのかな?」
聞かれたのでグリータは肩を竦める。
「まぁ、何かしら言われるだろうな」
実際ゼクードもその件に関しては心配していた。
自分はともかく、女性であるローエ・カティア・フランベールが何かしらの罵倒を受けるのではないかと。
「おいおい。ゼクードはともかく、フランベール先生に難癖つけられるのはさすがにムカつくぜ?」
「ああゼクードなら別にいいけどな。……でも大丈夫さ」
グリータは自信満々に言い切った。
「なんで?」
「ゼクードが対策してたよ」
「本当かよ!」
「あいつすげぇな!」
「女絡みになると本気出すからなアイツ」
そう、あの自称【女性思い】のゼクードがこんなことを黙っているはずがない。
あいつは他国のS級騎士たちの平均討伐時間の情報を集めていた。
その情報はどうやら城からの提供で無事に集まったらしい。
『若輩者の俺だけが何か言われるなら黙ってるよ。でもローエさん、カティアさん、フランベール先生に何か言おうものなら見過ごせないね』
こんなカッコいいことを言っていたゼクードの目は本気だった。
部下を貶されたら容赦しない。
そう訴える目をしていた。
まだ【ドラゴンキラー隊】の隊長になってから数日しか経ってないが、随分と様になってるな。
ふとグリータはそう感じたのだった。
※
王国の最北にあるエルガンディ城へ俺はローエ達を連れてやって来ていた。
俺が先頭。
ローエ・カティア・フランベールは俺の後ろで三人横一列に並ぶ。
そしてその俺たちの前には1列に並んだ各国の【ドラゴンキラー隊】が集まっている。
今日はなんと他国のS級騎士たちが遠くからこちらへワザワザご足労してくださったとのこと。
しかも顔合わせする場所をここ【エルガンディ王国】に指定して、俺たちの移動の手間を省いてくれたとかなんとか。
『女子供たちにそんな手間は掛けさせんよ』って言ってたらしい。
なんだイイ人たちじゃん!
って思うはずもなく、他国の価値観や文化を知っていれば、その言葉がそもそも中傷であることにも気づく。
「これはこれは驚いた。本当に子供が隊長をやっているのだな」
人の国の『謁見の間』だと言うのに重装備の大男は大袈裟なほどの大声で言ってきた。
ほらやっぱり。
いきなりこれだよ。
国王さまの面前だと言うのになんだコイツ。
「君、歳はいくつだ?」
「15です」
言うとその大男はもちろんのこと、他の騎士たちもクスクス嗤う。
「おい聞いたか? 15だってよ」
「クソガキじゃねぇか」
「あんなのがこの国の最高戦力とか、この国大丈夫か?」
小声でヒソヒソ罵ってやがる。
うるせーバーカ。
お前らより俺の方が100倍つえーよバーカ。
あぁ、声に出したい。
「その歳で隊長を任されるとは大したものだ──と言いたいが、この国の底が知れるな」
おいおい国王さまの前でそんなこと言っちゃう普通?
他国の王なら敬意は払わなくていいってか?
っていうか国王さまも大臣もなんで黙ってるんだろ?
黙らせてよコイツら。
「国王よ。なぜ彼のような小僧をS級騎士にしたのです?」
「不満ですかな?」
「不満ですな。これからS級ドラゴンという正真正銘の化け物を相手にせねばならないというのに、このような半端者を紹介されては幸先が不安で仕方ない」
「彼はS級騎士に相応しい実力を有しています。我が国のS級騎士になるための条件もしっかりクリアしている」
「よほど緩い条件と見えますな?」
「いえ、我が国のS級騎士になるための条件は他国よりも厳しくしてあります」
国王さまが言うと、ついに大男たちが失礼にも笑いを吹き出した。
「我々の国より厳しい条件にして出来上がったメンバーがこれですか?」
とぼけた声で先頭の大男が俺たちを指差して嗤ってくる。
後ろに並ぶ大男たちも。
「厳しい条件だってさ」
「じゃあなんで女が混じってんだか」
「ダメだ腹いてぇ」
「来てよかったわ。笑えるぜ」
あいつらドラゴンの餌になんねーかな?
大男たちが爆笑する中でも、国王さまはあくまで凛とした態度を崩さなかった。
「我が国の自慢の【ドラゴンキラー隊】です。彼らがいれば我が国【エルガンディ】は安泰でしょう」
その国王のありがたい御言葉は、大男たちに涙を流させるほど嗤いに火をつけるだけだった。
「まぁこの際、その小僧はいいでしょう。問題なのは【女】が部隊に混じっていることです」
うわ来たよこれ。
放っとけよもう。
俺の背後に並ぶローエたちがピクリと気配を震わせた。
「彼女たちもS級騎士になるための条件をクリアしてここに立っている。問題などありませんが?」
「いや、そうでなくて……」
本気で心底呆れた様子で大男がため息を吐いた。
本当に失礼にもほどがあるだろコイツ。
「女など非力で役に立ちますまい?」
あー、ついに言いやがった。
俺だけ馬鹿にするなら黙っててやったのに。
よーし、俺の前で女性をバカにしたらどうなるか教えてやる。
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