第120話 手に入れた夢 ★
俺たち【フォルス隊】はグリータ率いる救援隊に回収され、無事にヨコアナへの帰還を果たした。
市民や仲間たちはディザスタードラゴンとS級ドラゴンを殲滅した俺たちを英雄と称して帰還を喜んでくれた。
人類は今度こそ勝ったのだと。
「まったく……勝てたから良かったものの。たった四人で無茶をする」
俺の部屋で国王さまが溜め息混じりにそう言った。
まだ傷が癒えず、ベッドで横になっている俺は苦笑するしかなかった。
包帯だらけの身体はまだ痛む。
「すみません。仕掛けるタイミングがあの時しかなかったんです」
「ふむ。ディザスタードラゴンが子を身ごもっていて、雷が使えなくなっていた……か」
「はい。妊婦が魔法を使えないのはドラゴンも同じだったようです」
「しかし、お前をそこまで追い詰めたのはディザスタードラゴンではないと」
「ええ。そのディザスタードラゴンから生まれてきた人型ドラゴンこそ脅威でした。生まれたてなのにあの強さ。あのサイズならここヨコアナにも侵入できた。あの場で撃破できて本当に良かったですよ」
「そうか……」
国王は包帯で覆われた俺の顔を見てきた。
「お前の片眼を潰すほどの相手なら、本当に人類の天敵となる相手だったのだろうな。その人型ドラゴンは」
「間違いありません」
「みなを代表して……いや、人類を代表で言おう。本当にありがとうゼクード」
「いえ……妻たちにも是非言ってあげてほしい御言葉です」
「もちろんだ。彼女たちにも後で礼を言いに行く。歴史に残るであろうな。お前たちの活躍は。たった4人で500のS級ドラゴンを撃ち破り、ディザスタードラゴンをも討った英雄とな」
「そりゃいい。俺の子供たちに良い自慢話ができますよ」
言って俺と国王は笑い合った。
こうして肩の力を抜いて笑い合ったのはいつぶりだろう?
国王とは、いつもお互いに気張ってきた仲だから、むしろ初めてかもしれない。
そんな事を思いながら笑っていると、俺の部屋の扉が音を立てて開いた。
「国王さま!」
入ってきたのは一人の騎士だった。
「なんだ? ノックくらいせんか」
「ぁ、失礼しました! その、めでたい報告があります! リリーベール・アルフェルドが赤子を無事に出産しました! 元気な男の子だそうです!」
今は人口が極端に減っているから、このように誰かが子供を生めば報告が入るようになっている。
フランベールの姉リリーベールがついに出産したらしい。
無事に出産できたみたいで良かった。
「あの【フラム家】の娘か。そうか。おめでとうと伝えておいてくれ」
「は? 自分が……ですか?」
「頼む。彼女にはどうにも嫌われているみたいでな」
「はっ。了解しました」
言って騎士はすぐに部屋を後にした。
見送った国王は俺を見て笑う。
「また一人、人類が増えたな」
「そうですね。これからもっと増えますよ。うちの嫁たちにも、あと二人くらいはお願いしようと思ってるんで」
「九人も子供を作るのか?」
「大家族を持つのが俺の夢だったんで」
「……ふふ、そうか」
「あとグリータの方も、近い将来子供ができると思います。あいつ……ついにレィナちゃんとリーネちゃんと一緒になったんです」
「なに!?」
よほど意外だったのか、国王はかなり驚いていた。
「彼もか!? 彼も妻を二人も!?」
「みたいです」
国王はしばらく呆然として、そしてすぐにフゥッと息を吐いた。
「これは思ったより早く、人口が回復しそうだな」
「ですよね~」
俺と国王はまた、笑い合った。
※
数日後、俺はやっと普通に動けるくらいには回復した。
まだ痛むところは痛むが、問題はない。
ローエたちも回復して、ようやく勝利の宴を開催できると仲間たちが歓喜の声を上げた。
そして宴が行われたのは今日だった。
豪華な料理が振る舞われ、貴重な酒も存分に解放された。
鉱山内でのどんちゃん騒ぎ。
ディザスタードラゴンの脅威から解放されて、人々は浮き足立つ。
しかし、それらを止める者などいなかった。
みんなこの日を待ちわびていたのだから。
俺は一足先に満腹になり、カーティスを連れてヨコアナの外へ出て風に当たっていた。
「ほら見ろカーティス。お星さまが綺麗だぞ」
いつか見た夜空は、相変わらず無責任に美しかった。
当のカーティスは、何を思ったのか、俺の潰れた片眼を撫でてきた。
いつもなら平気で叩いてくるくせに。
彼なりに心配してくれているのだろう。
「ん……大丈夫だよ。まだ右眼が残ってる。両方持ってかれなくて良かったよ。お前たちが大人になる姿をちゃんと見たかったからな」
そう言うと、カーティスは『それだけ?』と俺を疑うような顔を見せてきた。
さすが我が息子。
妙に鋭いところは母親譲りかな?
「ははは、鋭いなカーティス。御明察だよ。まだ右眼が残ってるから、まだまだお母さんたちに甘えられるよ。俺は」
『やっぱり』と納得したような顔を見せるカーティス。
その顔は笑顔だった。
ちゃんと笑ってくれたのは、今日が初めてかもしれない。
「ゼクード」
呼ばれて振り向けば、カティアやローエ、フランベールが揃ってヨコアナから出て来ていた。
ローエはグロリアを抱え、フランベールもレミーベールを抱っこしていた。
「おおみんな! たくさん食べた?」
「ええ。もうお腹いっぱいですわ」
「ちょっと飲み過ぎてクラクラしてきたから外に出ようってなったの」
フランベールの言葉に俺は「なるほど」と頷いた。
すると俺に抱えられたカーティスがカティアを見つけてそちらに寄ろうと身体をグイグイ動かしてきた。
やっぱり母が一番らしい。
俺はカティアに息子を渡し、今度はグロリアとレミーベールを両手に抱えた。
するとレミーベールが俺の頬にいきなりキスしてきた。
真似してグロリアまでキスしてくる。
「おっほ! なにコレ! お父さん幸せ~!!」
娘ハーレムである。
素晴らしい。
その光景を家族みんなで笑った。
信じられないほど幸せで暖かった。
みんなで肩を寄せ合って、綺麗な夜空を楽しむ。
家族水入らずの時間は至福の一言だった。
「国の再建も大変だけど、やっぱ俺たち専用の大きな家が欲しいから頑張らないとな」
「同感だ」とカティアがカーティスを撫でながら頷く。
「問題は子供部屋の数だが」
「あ~子供部屋ね。それなら考えてある。九人欲しいから九個だね」
「きゅ、九人!?」
大袈裟に驚いたのは他でもないローエだった。
俺は真顔で真剣に頷く。
「ローエたちにはあと二人ほど赤ちゃん生んでもらうからよろしく!」
「か、簡単に言いますわね……」
呆れるローエの隣でクスクスと笑うフランベール。
当のカティアはやれやれと溜め息を吐いていた。
「まったく……子育て下手のくせに数だけは欲しがる」
「だよね~」っとフランベールが同意した。
子育て下手なのはその通りなので反論できない。
「んもぉ……出産がどれだけ大変か分かってませんわ」
「まぁまぁローエさん。どうせしばらくは騎士の仕事はないだろうし、ここは女の仕事に専念しようよ。たぶん今一番必要な仕事だし」
「フランの言うとおりだぞローエ。今は減った人口を増やさねばな」
「うぅ……分かってますわよ。その代わりゼクード。あなたもちゃんと子育てスキルは上げてもらいますわよ! 覚悟なさい!」
「は、はい! 了解しました!」
そしてまた、笑い合った。
これからずっとこうして笑い合って生きていけるのなら、これほど幸せなことはないだろう。
ありがとう。
ローエ・カティア・フランベール。
俺は今、世界で一番幸せ者だと思う。
ありがとう。
本当に。
【第一章 ディザスタードラゴン編 完】
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