第213話 変なメンバー
可愛い女子(伯母)の話題で盛り上がるレグナとリイドだったが、道中でカーティスと出会った。
「ん?」
「え!? カーティス!?」
「なんで!?」
レグナとリイドが驚愕した。
【カーティス隊】は出ていると聞いた直後だ。
その隊長がなぜこんな街中を平然と歩いているのか?
「お前ら!?」
カーティスもレグナたちを見ていつものクールさを失った。
本気で驚いているのだ。
あの究極のキザ野郎が。
「お前なんでここに居るんだ!?」
レグナが聞くと、カーティスはすぐに返した。
「それはこっちのセリフだ! 無事だったのか!」
「無事だったけど~……あれ?【カーティス隊】って出撃しちゃったんじゃ?」
リイドの言うとおりだ。
なんで隊長のカーティスがここに?
本気で分からん。
まだ出撃してなかったってことか?
「父さんが代わりに出撃した」
は?
「父さん? え、でもお前の父さんって確か……」
「いいからまずは伯母さんたちのところへ急げ! 心配してるぞ」
「ぉ、おう!」
急かされ、それもそうだとレグナとリイドは再び走り出した。
そして思う。
「どうなってんだいったい?」
レグナは隣を走るリイドに聞いた。
弟も分からないと首を振る。
「カーティスのお父さんって~……父さんの親友だった人でしょ? あの伝説の黒騎士ゼクード・フォルスって」
「ああ。でもある任務で帰ってこなかったって聞いてるぜ」
「帰還したのかなぁ、今さら」
「まさか。何年前の話だと思ってんだよ。オレたちまだ生まれてない時の話だぞ?」
そう言いながらも街中を走り抜け、ついに実家である父の館へ
着いた。
早く元気な顔を両親に見せねばとすぐさま玄関を開いた。
「ただいま! 父さん母さん!」
入ると「え?」っと見知らぬ女性がホールにポツンと立っていた。
「ハッ!?」
レグナはその女性を凝視した。
美しいクリーム色の長髪に、トロんとした碧眼の瞳。
青いマントと青い軽装は氷の弓使いのそれ。
またもやスタイル抜群の美人お姉さんだ!
またオレが知らない美人だ!
さっきの二人といい、どうなってんだ今日は!?
そう疑問を抱きながらも身体はいつの通りに反応した。
瞬時にお姉さんの目前へと瞬間移動して跪く。
「美しいお嬢さん! オレと──」
バン!
ナンパしようとしたその瞬間に二階の扉が弾けるように開いた。
「レグナ!」
出てきたのは実母のレィナだった。
「げ、母さん!」
「リイド? リイド!」
続けて出てきたのは義母のリーネ。
涙で顔を真っ赤にした母親二人が一気に階段を駆け降りてくる。
「お母さんただいま~」
こんな時にものんびりと挨拶するリイドだが、リーネは構わず息子を抱き締めた。
レグナも母レィナに抱かれ、胸で思いっきり泣かれた。
そんな母親二人を目の当たりにして、本当の本当に心配を掛けていたんだと……レグナとリイドは今さらながら自覚した。
泣きじゃくる母親二人になんと声を掛ければいいかも分からず、ただ静かな抱き締め返す。
「お前ら! 無事だったのか!」
今度は父グリータが上からやってきた。
まだ母親たちより冷静そうでホッとし、レグナは素直に謝った。
「父さんごめん。ちょっといろいろあって遅くなった……」
「そうか……なんにせよ良かった……」
ドッ疲れた様子でグリータが息を大きく吐いた。
「心配かけないでよもぅ……」
泣きながらリーネがリイドの胸で呟く。
「ごめんなさい……」
リイドはただ謝るしかなかった。
いつも大袈裟で、時には鬱陶しいのがこの母親二人なのだが……やはりこうして本気で泣かれると、どうにも謝るしかできなくなる。
「……レグナ。【カーティス隊】とは出会わなかったのか?」
空気を濁すようにグリータが聞いてきた。
母に泣きつかれて動けなかったレグナには都合の良い質問だった。
「ああ、それなんだけど……カーティスの野郎いたぜ?」
「いや実はな──」
父グリータから事の顛末を説明された。
それは何度も聞かされた黒騎士ゼクードの話で、彼は雪のドラゴンと相討ちになり18年も氷漬けにされて帰って来たそうな。
「黒騎士ゼクード? 氷漬け?」
んなバカな、とレグナは首を傾げる。
リイドも母を撫でながら口を開いた。
「それって父さんの親友だった人でしょ~? 帰ってこなかったって言ってたじゃん」
「帰って来たんだよ奇跡的に。今ゼクードは【カーティス隊】の隊長代理だ」
「いや、なんでそんな面倒なことしたんだ?」
「危険な任務でもあったからな。腕の立つカーティスが適任ではあったんだが……あいつ仕事詰めだっただろ? 彼を休ませてやる意味でもこうした。もともとグロリアとレミーにも頼まれていたんだ。カーティスの事は。それにゼクードなら何とかしてお前たちを助けてくれるはずだと思って……藁にもすがる思いで頼んだんだ」
藁にもすがる……そこまで必死にならんでも。
ちょっと遅れただけじゃないか……
そう思ったが口にもできず、ただとにかく謝った。
「……いや、その、本当に悪かったよ。心配かけて……」
「いいんだ。生きて帰ってくれればそれでいい。な? レィナ、リーネ」
「うん……」
「ええ、本当に」
やっとこさ母親から解放されたレグナは、ずっと気になっていたことを聞いた。
「と、ところでさ。そこのお姉さんは?」
氷の弓使いのお姉さんを指差すと、彼女はニコリと笑ってお辞儀してきた。
「こんにちは。フランベール・フォルスと申します。レミーベールの母親です。よろしくお願いします」
「あ〜! レミーのお母様でしたか〜!」
「なるほどレミーのお母さ──……」
レグナとリイドが理由もなく納得しかけて「「お母さん!?」」っと声を揃えて目を飛び出させた。
「はい」っとフランベールは微笑んで答える。
いやいやいやいやいやいや有り得ないから。
レミーベールと同じくらいの年齢に見えるんだが?
っていうか……結婚してるのこの人?
嘘でしょ?
「わ、若い~……どう見ても若いんですけど~……ねぇレグナ。……レグナ?」
「こ、こんな美人が人の親? ひ……人妻ぁ!?」
信じられない!
こんな美人なお姉さんが誰かの母親なんて!
人妻なんて!
「おいレグナ、リイド。そんなことより偵察の方はどうだったんだ?」
父親に質問で叩かれレグナはハッと我に返った。
「ぁ……ああ、それなんだけど……廃墟と化したオルブレイブに大量のドラゴンゾンビが住み着いてた。ありゃなんか親玉がいると思うぜ」
「そうそう~、だから早くそのゼクードさんの部隊を追い掛けないと~」
「なら私が行きます」
いきなり言い出してきたのは母親のレィナだった。
レグナとリイドは慌てて止める。
「母さん!? ダメだって! ホントに危ないんだから!」
「そうだよ! 僕とレグナで行くよ!」
「バカにしないの。まだまだ現役よ私は」
「いやそりゃ知ってるけど……なぁ父さんからも何か言ってくれ」
「ふむ……ならばレィナを隊長にして部隊を編成しよう」
「おいクソオヤジ! 人の話を聞いてたのか!」
「危険なんだろ? なら迎えと言えど精鋭の方が良い」
だぁークソ!
こうなったら聞かねぇもんなオレの両親……
「じゃあオレも行くぜ。絶対に」
「僕も行くよ。義母さんだけじゃ心配だし」
「あのねぇアンタたち……」
心外だったらしいレィナが眉間にシワを寄せるが、リーネが先に前に出た。
「二人とも帰って来たばかりでしょう? 休みなさいよ」
「ぜんぜん疲れてねぇって。その辺のSS級騎士といっしょにすんなよ義母さん」
「でも……」
「大丈夫だって。ただの御迎えなんだから。……頼むよ父さん」
レグナに言われ、グリータも「わかった」と頷いた。
「とりあえず急ごう。部隊はレィナを隊長とし、レグナ・リイド。それから【東の領地】のローグをつける」
「え~……変なメンバ~……」
「ローグのアホは入らねぇだろ……」
「彼は腕は確かだ。とにかく急げ。レィナの腕前は知ってるだろうが、それでも万が一という事がある。頼むぞレグナ。リイド」
「りょ〜かい」
「はーい」
母親レィナの腕前なんざ、嫌というほど知っている。
この国ではカーティスの次に強いナンバー2なんだからな。
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