第63話 ドラゴンキラー隊、出撃!
「二頭が同時に進行!?」
とんでもない報(しら)せに俺はつい叫んでいた。
「はいっ! 国王さまは【ドラゴンキラー隊】全員に【アークルム王国】への救援に向かわせるとのことです! どうかお急ぎを!」
それだけ告げて、王国騎士は駆けて行った。
なんてことだ。
なんでこうもS級ドラゴンは息がピッタリなんだ。
四国同時襲撃の次は一国に二頭が攻め立てる。
しかもこれまた同じタイミングで進行を開始している点が気になる。
いくらなんでもドラゴンのくせに足並みが揃いすぎだ。
やはりまだ未確認の【五体目のドラゴン】がいるのではないだろうか?
それこそ本物のS級ドラゴンが。
「隊長! 急ぎましょう!」
ローエさんに言われてハッとなった俺は頷く。
急いで装備を整え、仲間たちと共に練兵場を後にした。
※
全速力で俺とローエさんはゲート前まで駆け抜けた。
そこには何人かの騎士と国王さまがいた。
俺たちの脚となる四頭の馬も用意されている。
「国王さま!」
「来たかゼクード。もう聞いたと思うが【偵察騎士隊】から連絡があった。残りのS級ドラゴン二頭が【アークルム王国】に向けて進行を開始した。事態は一刻を争う。急ぎ【アークルム王国】へ向かい加勢してやってくれ」
「国王さま。ここの守りは?」
「現役ではないがクロイツァーとセルディスがいる。ゼクード。お前は部下と共に【アークルム王国】を優先しろ。あの国を見捨てるわけにはいかん。それにS級ドラゴンを二頭同時に相手にせねばならんのだ。四人全員で討伐に向かえ」
「了解です。ですが国王さま。やはり【五体目のドラゴン】の存在が濃厚になってきました。やつらは同じタイミングで進行を開始したわけですよね?」
「ああ、間違いない。いくらなんでも足並みが揃いすぎている。やはりS級ドラゴンを指揮しているドラゴンがまだ上にいるようだな」
「そ、そんな……まだあれより上がいますの……?」
俺の隣でローエさんが戦意を失いそうな声音で呟く。
無理もない。
ローエさんたちはただでさえ現在のS級ドラゴンたちに苦戦しているというのに、そのさらに上がいると知ればこんな反応にもなる。
「必要な物は揃わせた。すぐに出発してくれ。今から向かえば、良くて戦闘中に割り込めるだろう。急げ!」
「了解! いくぞみんな!」
俺が言うとローエ・カティア・フランベールの三人が声を揃えて「了解!」と応えた。
俺たちはすぐさま馬に跨がり、手綱を握る。
馬が鳴いて疾走し、ゲートを潜って草原へ出た。
振り返り、俺はあっという間に遠のいていく【エルガンディ王国】を見た。
未確認の【五体目のドラゴン】がもし実在するなら、俺たちがここを離れるのは得策ではない。
【五体目のドラゴン】が仮に存在するとして考えた場合、奴はとても頭がいい気がする。
もしかしたら、だが……このS級ドラゴン二頭に【アークルム王国】を狙わせたのは、俺たち【ドラゴンキラー隊】の誘導の可能性はないだろうか?
もしそうなら……俺たちがここを離れた瞬間、奴は動き出す。
本当にそうなってしまったら、国王さまやグリータやリーネさんたちが、みんなが危険に晒される。
でも、このままS級ドラゴン二頭を放っておけば、【アークルム王国】は間違いなく壊滅する。
頼みの【魔法大砲】とやらだって、威力はS級ドラゴンの撃退止まりだ。
あまり当てにはできないだろう。
こう考えると、どちらかを切り捨てない限りは何もできない状況に追い詰められている気がする。
今できることは、少しでも早く二頭のS級ドラゴンを討伐して、一秒でも早く帰国すること。
それしかない。
それにクロイツァー様とセルディス様がいるんだ。
俺は前を向いて、ただひたすらに【アークルム王国】へ馬を走らせた。
すると……不運とは畳み掛けてくるもので、走っている途中で空が灰色に変わり、かと思うと次には大雨が降ってきた。
しかもそれは大粒で、俺やローエさんたちを一瞬でズブ濡れにしていく。
「いやですわもう! なんでこんなときに!」
斜め後ろを馬で走るローエさんが怒る。
「隊長! マントの着用を!」
カティアさんの提案に俺は首を振った。
「そんな時間はない! マントは途中の休憩までお預けだ! 前進を優先する!」
それだけ言って前進する。
俺の指示に誰も文句は言わなかった。
一刻を争うのは、みんな重々わかっているのだろう。
国王さまは言っていた。
良くて戦闘中に割り込めるだろう、と。
つまり二頭のS級ドラゴンが進行を開始してからかなりの時間が経っているということだ。
どんなに早くても先に戦闘が始まってしまう以上、マントの着用ぐらいで止まってなどいられない。
だが間もなく風が強くなり、雷までも轟いた。
この悪天候では馬の消耗が激しい。
早めの休憩が必要になるだろう。
……どうやら天は、ドラゴンの味方らしい。
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