第62話 気を引き出すために
目が覚めた時には、隣にローエさんはいなかった。
先に起きて帰ったみたいだ。
俺はベッドの上で、いつもの天井をしばらく呆然と眺めていた。
やっちまった……ローエさんまで妊娠しちゃったらどうしよう……
無計画な自分が嫌になる。
いや、だって安全日だって言うから……
立て続けに素敵な女性たちと関係を築くことができたのはいいが、やはりタイミングが悪かったかもしれない。
あーやめだ。
腹を括れ俺!
妊娠したらその時はもう、全力で責任とるしかない。
自分の部下に手を出した隊長というレッテルを貼られるが、そこはもう俺の実力で黙らせるしかないだろう。
「うし。やるか!」
パンッ! と気合いを入れるために両頬を叩く。
痛い……力入れすぎた……。
フランベール先生・ローエさん・カティアさん。
みんなを嫁にできたら、いつか貰える土地にどんな家を建てるかみんなで考えよう。
稼ぎは俺一人で十分だろう。
みんなは子育てや家事に勤しんでほしいな。
帰ってきたら美味しい料理を作って待っててほしい。
美しい三人の妻と可愛い子供たちに囲まれて、楽しく食事をするんだ。
あぁダメだ。
妄想しただけでニヤニヤが止まらない。
けど、やる気がみなぎってくる!
妄想だけで終わらせてなるものか。
絶対に手に入れてやる。
S級ドラゴンを駆逐して、俺の理想の未来を手に入れるんだ!
「よし! やる気出てきた! 練兵場にいくか!」
ベッドから降りて、俺は装備を整えた。
漆黒のミスリルアーマーを装備し、ロングブレードを背中に納刀する。
「さて、問題は……」
ローエさん達には今日【竜剣技】を使うために必要な【気】を引き出す特訓をしてもらうのだが、これが難儀である。
今だけは……教える相手が女性であることを不運に思う。
なぜなら俺が【気】を引き出せた主な要因は【女性にモテまくる妄想】をしながら特訓していたからに他ならない。
言ってしまえば【興奮】である。
興奮って気がメチャクチャ高まってる状態らしく、武器に纏わせるほどの【気】を引き出すのにはもってこいの状態なのだ。
【女性にモテまくる妄想をする】
↓
【気分が昂って調子が良くなる】
↓
【そのまま特訓する】
↓
【なんかいつの間にか【竜斬り】ができるようになってた】
この過程を女性であるローエさんたちにやってもらうことになるのだが、どう教えればいいんだコレ……。
まさか男性にモテまくる妄想をしてください、なんて言えんし、言いたくもないし、許さん。
妄想の中の男性とは言え、俺の女に触るな斬るぞこの野郎。
……言ってる場合じゃない。
どうしようか。
「あ、そうだ!」
難しく考えすぎた。
安直に行こう!
※
「えー、みなさん【今までで一番興奮したこと】を思い出しながら特訓してください」
練兵場にて、俺は目前に並ぶローエさん・カティアさん・フランベール先生に向かってそう言った。
案の定「は?」とみんなの顔が怪訝になる。
だろうなぁ~。
この反応は想定内だけど。
「もうゼクード! こんな時にふざけないでくださる?」
「真面目にやってよゼクードくん!」
「ゼクード。殴るぞ」
最後のカティアさん怖い!
「みんな待って! 落ちついて! これ本当に真面目なんですよ!」
「まだ言うかキサマ!」
カティアさんやめて!
こっち来ないで!
殴らんといて!
「あの! これ本当に一番簡単に【気】を引き出せる方法なんですよ!」
「理由は?」
「興奮状態って、物凄く【気】が昂ってる状態なんですよ。武器に纏わせられるほどの【気】を引き出すにはまず興奮することが一番手っ取り早いんです」
えぇ……と女性陣が顔を見合わせ困惑している。
なかなか理解してもらえないのは承知の上だ。
俺は説明を続ける。
「解りやすく言うと……ん~【気】ってのは底の深い穴の一番奥にあると思ってください。もちろん底には俺たちの手は届きません。このままじゃ【気】を引っ張り出せないですよね?」
「……まぁ、そうですわね」
「うん」
「そこで興奮状態になれば、手の届くところまで【気】が上がってくるということか?」
お?
話が早い。
「さっすがカティアさん! その通りです! 手の届くところまで【気】を上げて、そこから特訓で手を伸ばして【気】を引き出すんです。みなさんレベルの騎士なら、練り上げられた【気】はもう身体に存在してるはずなので、これを徹底すればすぐに【気】を武器に纏わせられるようになりますよ」
説明を終えると、まだみんな「う~ん」と唸っていた。
どうにも掴めない様子。
「今までで一番興奮したことって言われましても……あれしか」
「そうだね……あれしか」
「そうだな……あれしか」
みんなして俺の顔を見てきた。
そして息もぴったりに顔を赤くする。
「ゼクード隊長!」
突如割って聴こえてきた男性の叫びが聞こえ、振り返れば城の騎士が血相を変えて走ってきた。
「緊急事態です! 急ぎ国王さまの元へお越しください! 場所はゲート前です!」
「何事ですか!?」
「はっ! 残りのS級ドラゴン二頭が『アークルム王国』へ同時進行を開始したとのことです!」
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