第23話 フランベールの実力

「ドラゴンの後方は二匹のドラゴンマンが接近しています」


 フランベールの元へ下がってきた王国騎士の隊長が言った。


「あれは我々が」


「大丈夫よ。わたしにまかせて」


 フランベールは大弓を展開し『アイスアロー』を弦につがえる。

 隊長は「了解。お気をつけて」と部隊を撤退させた。


「ありがとう」と返してからフランベールはこちらに迫るA級ドラゴンに向かって前進した。

 その際、かの【アークルム王国】のS級騎士たちがこちらを見ているか確認する。


 遠くでこちらを眺めている。

 よし。

 本気でいきましょう。


 意気込んだ瞬間にA級ドラゴンが火球を発射。

 それをひらりと踊るように一回転してかわし、同時に『アイスアロー』を射つ。


 連続して頭部に2発、腹部に2発と叩き込むとドラゴンが大口を開けて唸る。

 その隙を突き、フランベールはその大口に向けて氷の矢を撃ち込み追撃。

 

 またも怯むドラゴンに肉薄し、もはや矢の威力が乗らないゼロ距離で『アイスアロー』をつがえる。

 駆けて跳躍し、ドラゴンの頭部めがけて弦を引き絞る。


「『アイスアロー・ショット』!」


 唱えて放たれた氷の矢は炸裂し、無数の氷の破片と化した。

 散弾となってドラゴンの頭部に全弾命中し、その威力は敵の顔の原型を無くした。


 脳・眼・鼻が一気に吹き飛んだドラゴンは絶命し、転倒する。

 しかし、そのドラゴンの物陰から報告されていたドラゴンマン二匹が飛び出してきた。


 フランベールに対する不意討ちのつもりだったのだろうが、彼女の反応に対して、その二匹の奇襲はあまりにも遅かった。


「『アイスソード』!」


 すでに大弓を収納し、両手を空けておいたフランベールは氷の魔法を発動。

 氷で形成された双剣を手に、ドラゴンマンの爪をかわして二匹ともすれ違い様に斬り刻んだ。

 次の瞬間、ドラゴンマン二匹は血を吹き出して生き絶える。

 

 討伐完了。


 1分は切れたかな? と考えながらドラゴンマンの亡骸を確認する。

 斬り傷が大量についた亡骸だが、どの部位も切断には及んでいない。


「んー、やっぱりゼクードくんのようにはいかないわねぇ……」


 改めてゼクードの凄さを実感しながら『アイスソード』を消し、ゲートへと戻ることにした。



「は、早い……」


 アークルムの隊長は思わずそう呟いていた。

 他の隊員も絶句している。


「あれは……本当に女なのか……!?」


 非力な女からは想像もつかない圧倒的なドラゴンの蹂躙だった。

 あの女の射つ氷の矢はやたら正確で、ドラゴンの肉質が柔らかい頭部と腹部にしっかり命中させていた。


 弓の腕も確かだが、まさか剣まで使えるとは。

 それも並の剣技じゃない。

 ドラゴンマンとすれ違っただけにしか見えなかったのに、ドラゴンマンは二匹とも斬られていた。


「た、隊長……」

「わかっている。20秒だの1分は、嘘じゃなかったんだな」

「そ、そうですね」

「部下であれほどの実力なら、ゼクードとかいう小僧の実力も本物だろう」


 ゼクード・フォルス、だったか?

 あの小僧が言っていた20秒も見てみたい気がしたが、それよりも。


「急いで帰国するぞ! 鍛練の中身を見直し、我々も戦闘力向上を目指す。いいな!」


「はっ!」

「了解です!」

「了解!」


 今は急いで帰国し、己の腕を磨きたい。

 女に負ける男など、男を名乗る資格はない。

 少なくとも国からはそう教えられて育った身としては、この事態は早急に解決したい。


 だが【アークルム王国】の顔に泥を塗ってしまった責任もあるが、それ以上に純粋に悔しかった。

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