第52話 フランベールの実家
夕日が沈んでいく中で案内されたフランベール先生の家は、もはや城のような邸宅だった。
純白の外壁に青い屋根が特徴的である。
その城のような建物は、それこそ広大な庭の中央にあった。
おそろしく広い庭にはレンガで仕切られた花壇があり、美しい花たちが風に揺れている。
庭の隅っこに見える小屋は馬小屋か、それとも鶏小屋か。
なんにせよ中央に建っている邸宅と比べれば圧倒的に小さく便所にさえ見える。
俺の家とほぼ変わらないサイズなのだが、対比するものがデカ過ぎる。
……俺の家もフランベール先生の邸宅と並べたら便所の家と化すのだろうな。
「す、凄い大きな家ですね」
「ふふ、そうだね。お金だけはある家だから」
苦笑しながらフランベール先生が言った。
そのまま囲いの門を開き、庭の中へと入る。
時間も遅いせいか庭に誰もいない。
代わりに中央の邸宅からは光が見えた。
内窓から漏れる光はおそらく内部暖炉の光だろう。
数人の人影も見えるが、楽しそうに食事してるシルエットが窺えた。
かなりの大人数が1つの部屋でワイワイと食事をしているようだ。
呑気だなぁと思う反面、あれ全員フランベール先生の家族なのかなと気になった。
思ったより大家族なんだな。
そもそもフランベール先生の家族のことを知らない。
どんな人たちなんだろう?
そんなことを考えていたら、フランベール先生は庭の隅っこにある馬小屋もどきの小屋へ向かい始めた。
「あれ? どこ行くんですか先生?」
「わたしの家はあそこなの」
困ったように笑いながら先生は鶏小屋もどきの小屋を指差した。
ん?
どゆこと?
あの便所もどきの小屋が先生の家?
「え、じゃああの中央の邸宅は誰のなんですか?」
「わたしの両親の家だよ。父が一人と母が四人。あと兄さんが二人と、姉さんが三人住んでるかな」
想像以上に大家族だった!
「お、お母様が四人もいるんですか!?」
「うん。一夫多妻の家庭なの」
うおおお!
いいなぁ~!
フランベール先生のお父様はそれだけの人間を養えるほどお金持ちということか。
素晴らしい。
俺も正直に言うとフランベール先生やカティアさんやローエさんをみ~んな嫁に狙っている。
みんな素敵な女性ばかりだから。
ただ現実問題として、仮にみんなを嫁に貰えたとしても養っていけるかどうかがある。
S級騎士として王国専属の騎士になったらいくら貰えるんだろう?
グリータとかに天才とか言われてるけど、戦いだけだしなぁ俺。
いつか子供も産んでもらったらもっと資金が必要になってくるし、大変だなこりゃ。
でもやっぱ自分の子供も欲しいし、親父の剣技を継がせたい。
何より一人ってのはどうしても寂しいからな……
未来のことを考えるとワクワクしてくる自分がいる。
自分だけの家族か。
欲しいな俺も。
まぁその前にあとフランベール先生やローエさんやを落とさねばいかんという条件がある。
欲しいと思ったこの二人を手に入れるために、今を頑張らねば!
「ゼクードくん?」
「は! ぃ、一夫多妻とは凄いですね」
「やっぱり珍しい?」
珍しいかと聞かれると、案外とそうでもない気がする。カティアさんもそうだったし。
貴族の男たちはけっこう女性好きが多く、何人もの女性と結婚するらしい。
日替わり妻というあれ。
「んー、そうでもないんじゃないですか? 貴族の人達ってけっこう一夫多妻が多いような気がしますし」
「そうね。貴族の人には多いかもね」
「あの、でもなんで──」
──あんな小屋がフランベール先生の家になってるんですか?
と、俺は聞くのをやめた。
何故ならフランベール先生が【攻撃魔法】の持ち主であることを今さら思い出したからだ。
家族にも異端扱いされるから、こうして離れて暮らしてる。
そういうことなら、なんとなくこの状況にも説明がつくと思ったのだ。
もしこの予想が当たっているなら、あまり踏み込まない方がいい先生のプライベートなことだ。
先生も聞かれたくないだろうしやめておこう。
「──先生は俺を誘ってくれたんですか?」
話題をとっさに切り替えて聞いた。
ちょっと強引だが。
「俺はその、平民ですし、そんな金持ちでもなんでもないですよ?」
「んもぉ……お金とかそんなんじゃないよ? ゼクードくんが好きだから誘ったの」
嬉しい。めっちゃ嬉しいです先生。
「好きじゃなかったら家のお風呂なんか貸さないし、ましてキスなんてしてあげないよ」
ですよね。
わかってますよ先生。
無理に言葉を変えたらこうなっちゃいました。
ごめんなさい。
先生の気持ちは、もうとっくに分かってます。
本当にごめんなさい。
「ですよね~」といつも通りの俺で返した。
※
庭の片隅にある先生の家に着いた。
外装は普通だが、内装はとても綺麗にされていた。
テーブルやベッドなど生活に必要なものは全てちゃんと揃えられている。
っていうかベッド!
フランベール先生が使っているベッドですか!
なんか凄く良い香りがしそう。
というかすでに女性の優しい香りがする。
落ち着くこの香りは本当に好きだ。
というか女性の家に初めて入ったな俺。
なんか興奮してるみたいで思考がグルグルしてる。
落ち着け俺!
※
先生の家の風呂場は、居間となっている部屋の奥のスペースにあった。
丸い木桶風呂だ。
国の大浴場と違って可愛らしいデザインである。
「本当はお風呂って早朝に沸かすものなんだけど、今回はさすがに身体を綺麗にしてから眠りたいよね」
「そうですね」
「いまお湯を沸かすから待っててね」
「手伝いますよ?」
「ううん。大丈夫よ」
そう言うとフランベール先生は【アイスアロー】を大量に召喚し始めた。
何発もの氷の矢を調理用の鍋に突っ込み、凄い火力の暖炉で【アイスアロー】を溶かし、そのままお湯にする。
お湯になったそれを鍋ごと運んで木桶風呂に流し込む。
そんな非常に面倒な作業を繰り返し、しかしとても衛生上は素晴らしいお風呂が完成したのだった。
「よし! お風呂沸いたよゼクードくん!」
「氷の魔法って便利ですね〜」
「でしょう? 最初は火なんかで魔法の氷が溶けるかな? って思ってたんだけど溶けたよ」
「魔法とは言え氷は氷なんですね」
「そういうこと。でもドラゴンの氷はなかなか溶けないらしいよ? 前にゼクードくんが仕留めたS級ドラゴンの氷がまだ溶けてないんだってさ」
「へぇ……じゃあドラゴンに氷漬けにされたら永久保存されそうですね」
「それだけは勘弁だよね。さぁ、冷めないうちに一緒に入ろっか」
「そうですね。こんな綺麗な水でのお風呂なら最高──え?」
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