第144話 ロゼ・シエルグリス
わけも分からず女王にぶっ飛ばされた俺は、何度か床を転がって、仰向けで大の字に倒れた。
この人、今……フォレッドって言った?
「ゼ、ゼクード!?」
「ゼクードくん!」
ローエとフランベールが慌てて俺に駆け寄る。
「か……女王! なにやってんだよオイ!」
さすがのレイゼも驚愕し、近くにいたカティアはバスターランサーを展開して槍先を女王に向けた。
「貴様っ! なんの真似だ!」
怒声を張り上げるカティアだったが、女王はそれ以上の怒声を爆発させた。
「来るのが遅いっ!」
「は!?」
カティアが困惑するが女王は構わない。
「遅すぎだぞ!」
「な、何を言ってるんだ貴様は!?」
「お前じゃない! 小娘は黙っていろ!」
「なっ!」
子持ちのカティアを小娘扱いし、女王は俺の元へとツカツカ詰めてきた。
「私がどれだけお前を待っていたと思っている!」
え!?
「お前ならすぐに助けに来てくれると信じてたのに! この薄情者が!」
え!? 助けに!? なんのこと!?
「ずっと! ずっとずっと待っていたのに! お前という男は!」
──っ!
この人、泣いてる!?
ほ、本物の涙だ!
親父と過去に何かあった人なんだ!
「ま、待ってください女王様! 俺は──」
「なんだ!? 今さら謝ったって許さんからな!」
「落ち着いてください! フォレッドは俺の父親です! 俺はその息子のゼクードです!」
俺は立ち上がって必死に説明した。
だが女王の激昂は止まらない。
「誤魔化すな! 何が息子だ! こんな同じ顔した息子があるか! 何年も会ってないからってお前の顔を忘れた事なんて一秒もないんだからな!」
親父めちゃくちゃ愛されてる!
おかげでこっちはいま大迷惑を被ってるよクソ!
「いやホントなんですって! 信じてくださいよ!」
「まだ言うかキサマ!」
「オイ! いい加減にしとけよ女王! いくらなんでも失礼すぎるぞ!」
俺と女王の間に割って入ってきたレイゼが怒鳴った。
主君に対して有り得ない言動だが、今の場合は助かる。
「失礼の塊のお前に言われたくない!」
「なんだとコラ!」
ええ!?
今度はこっちが喧嘩になってるよ!?
どうなってんだよここの主従関係!
「ああもう! 二人ともやめてください! 話が進まないじゃないですか!」
今度はリベカがレイゼと女王の間に割って入ってきた。
それでも睨み合うレイゼと女王だが。
「ふん!」
「けっ!」
互いに目線を逸らしそっぽ向いた。
「で、ではあの、話を──」
「御待ちなさいリベカ。その前に、そこの無礼な女王に謝ってもらいますわ」
「え!?」
リベカがローエの発言に驚く。
正直、俺も驚いた。
どうしたんだローエ急に。
「当然だろ。ゼクードはいきなり殴られたんだぞ。こんな場所で」
カティアまで!?
そりゃぁ殴られたけど、そんな怒らんでも……
「黙って聞いていればそちらの勘違いばかり。こちらの言葉は聞く耳も持たない。いい加減にしてくれませんか?」
フ、フランまで!?
三人とも本気で怒ってる!
対する女王はスゥッと目を細めてローエたちを睨んだ。
「……お前たちはなんだ?」
「みんな彼の妻ですわ。夫を理不尽に殴られて、黙っているわけにはいきませんわね」
「妻……だと!?」
女王の目が極限まで広がり、今度は俺の胸ぐらを掴んできた!
「フォレッドきさまっ! 私とセレンがいながら! こんな小娘たちとまで結婚したのか! 古女房より若い娘か! この腐れ外道があああ!」
「だからやめろってババァテメェ!」
「ロゼ女王さまやめてください! ちょ、ミオンも押さえなさい!」
「わかった」
レイゼたちが三人がかりでロゼを止めてくれた。
おかげで掴まれていた胸ぐらを解放された。
助かった……いや、しかし、ダメだこの人。
もう完全に俺を親父と思い込んでる。
どう見たって若すぎるだろ。
親父が生きてたらもう四十代のはずだし。
「あ、あの、ですから、俺はそのフォレッドとセレンの息子ですってば。信じてくださいよ」
ピタッ! っと今の今まで止まらなかった女王がついに止まった。
「フォレッドとセレンの!? ……お前が!?」
「そうですよ!【セレン・フォルス】! 俺の母親の名前です!」
母の名を出したら効果は抜群だった。
女王は驚き、ゆっくりと後退る。
「……ならフォレッドは? セレンはどうしてるの?」
「え?」
「あの二人は……私の名前を知っているはずだ。なぜ息子のお前が来て、二人が来ない?」
「そ、それは……」
そうか、この人……知らないんだ。
「どうした? まさか……」
女王の察しに俺は小さく頷く。
「二人は……俺の両親は…………もう、この世にいません」
「!?」
「父はディザスタードラゴンと相討ちになり、母は病で倒れました。もういないんです。二人は……」
「そんな……フォレッド……セレン……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます