第195話 大恩人
後から聞いた話では、グリータ・ロードリーはどうやら貴族になったらしい。
今の【エルガンディ王国】は中央の城を中心にして、東西南北4つの領地に分けられているそうだ。
【東の領地】
【西の領地】
【南の領地】
【北の領地】
グリータが担当しているのは【南の領地】。
城壁の門がある大事な守りの部分だ。
彼の所有する騎士部隊は【レィナ隊】を筆頭に【カーティス隊】や【レグナ隊】【リイド隊】などがいる。
ドラゴン襲撃の際、門を守る精鋭揃いとなっている。
ことレグナとリイドという二人の隊長に関しては
【レグナ】はレィナとグリータの息子で
【リイド】はリーネとグリータの息子らしい。
強い騎士隊を複数所持し、領地さえも任され大出世したグリータ。
そんな彼の家に招かれたのだが、それはもはや豪邸。
一般人の住む小さな家ではない。
ある意味で最前線になる領地のせいか、グリータの豪邸は徹底的に石で作られていた。
貴族の大好きなレンガなどは使われていない。
よく周りを見れば、他の民家も石作りが徹底されていた。
できるだけ頑丈な街作りになっている。
凄いな。たった18年でここまで仕上げられるもんなんだな。
「出世したなグリータ」
「ほんとだよ。オレが領地持ちの貴族になるなんて思ってもなかった。ガイスさんも【北の領地】を治めてるんだぜ」
あのガイスさんまで貴族に。
凄いなみんな。出世しまくりじゃん。
どうやら当時の実力者を貴族として選び、4つの領地を治めさせているんだな。
てことは俺も氷漬けにされてなかったら、どれかの領地を任されていた可能性があるんだな。
重そうだ。グリータもよくやってるな本当に。
それはともかく俺はグリータ・レィナ・リーネ・ガイス・リリーベールに、どうしても伝えなければいけないことがある。
それはローエ・カティア・フランベールも承知している。
俺はそのことをグリータに話し、家にお邪魔してガイスを呼んでもらった。
※
さすが豪邸。
中にあるホールは11人の団体をものともしない広さで、木製のテーブルやイスなどが綺麗に並んでいる。
おそらくリーネが手入れしているのだろう。
本当に綺麗な部屋だ。
空気もしっかり換気されていて気持ちいい。
「待たせたな」
扉を開けて入ってきたのはガイスだった。
18年ぶりの再会である。
「ガイスさん! お久しぶりです!」
「ゼクード隊長!」
ガイスは小皺の増えた顔で目を見開いた。
俺とガイスはすぐに握手する。
【アークルム】出身の彼と……
今思えば不思議な縁だな、と思う。
彼とは。
「無事でよかった。本当に……歳を取っていないんだな」
「そうなんです。ご心配を御掛けしました」
理由は聞かされているだろうから、俺はあえて説明しなかった。
ガイスは俺の言葉に首を振る。
「いや、いいんだ。本当に無事で良かった」
「ありがとうございます」
頭を下げながら言うと、俺の前にグリータが立った。
「さぁ、これで全員揃ったぜ。ゼクード」
言われて俺は頷き、前を見た。
目前に並ぶのは【ロードリー家】のグリータ・レィナ・リーネ。
そして【アルフェルド家】のガイスとリリーベール。
【フォルス家】は俺を先頭にして背後にローエ・カティア・フランベールが並び、その後ろにはカーティス・グロリア・レミーベールが並んだ。
俺は【フォルス家】の代表として、まっすぐにグリータたちを見た。
集まってくれた彼らに敬意を表して、しっかりとまっすぐに。
──重い沈黙が、ホールを包む。
誰もが俺の言葉を待っている。
俺は意を決して、ゆっくりと口を開いた。
「この場を借りて、皆さんにお伝えしたい事があります」
こちらの真剣さを伝えるために、冗談ではない声音で語る。
みんなの視線が俺に集中し、全身が重くなる感覚を覚えた。
それでも続ける。
【フォルス家】の大黒柱として、これだけは絶対に伝えなければいけない。
彼ら──グリータらは……大恩人なのだから。
「18年もの間、息子たちを見てくれて、こんなにも立派に育ててくれて、本当に……本当にありがとうございます!」
姿勢を正し、まっすぐに頭を下げた。
「「「ありがとうございます!」」」
背後で妻たちも頭を下げ、感謝の声が続く。
「このご恩は一生! 忘れません!」
氷漬けになり18年。
俺たちがカーティスたちを育てた期間はたったの一年とちょっと。
そのたったの一年とちょっとでも、子育ての大変さは身に染みて理解していた。
変な話し……仕事をしていた方が楽なくらいに。
それくらい育児は大変なのだ。
子供を育てるというのは、並大抵の事ではない。
それを自分たちの詰めの甘さで氷漬けにされ、18年もグリータたちに押し付けてしまった。
……その責任はもう、今さら取れない。
俺たちはただどうしようもなく、グリータらに感謝するしかなかった。
自分の命を救われるより、重い恩なのだ。
感謝しても仕切れない。
頭を下げても下げたりない。
グリータらがカーティスたちを立派に育ててくれたから、俺たちは今ここにいる。
カーティスたちが居なかったら……浜辺で目覚めても俺たち【フォルス家】は全滅していたはずだから。
「別にいいわよそんなの。身内なんだし、当たり前じゃない」
強い口調で言い切ったのはリリーベールだった。
「リリーベールさん……」
「私には子育てしかやることなかったから。良い暇潰しになったわよ」
「姉さん……ありがとう。本当に」
「良いのよフラン。その子育てでリーネたちとも仲良くなれたもの。ね?」
リリーベールがリーネにウインクした。
リーネは笑顔で頷く。
「はい! リリーさんは友達です!」
「どっかの姉と違って良い子なのよねぇ~、リーネって」
ワザとらしくチラッとリリーベールはローエを見た。
ローエは一瞬、砂を噛むような複雑な顔になった。
フランベールの姉で、しかもグロリアの育ての親で、しかもリーネの友達という三連コンボに、ローエはフゥと息を漏らす。
「………………あなたには、頭が上がりませんわ」
小さく笑って、恩人であるリリーベールにはそう返した。
ローエのその反応に満足したらしいリリーベールは、それこそ一変して優しい顔になった。
「あとでグロリアのこと、いろいろ聞かせてあげるわ」
妹のフランベールに向けるような優しい声音で言われ、ローエは虚を突かれたように目を丸くした。
しかしリリーベールは嫌味ではなく本心で言ってると理解し、微笑んで頷く。
「ありがとうですわ」
「よーし! 辛気くさいの終わり! せっかくみんな揃ったんだ。今日は家でパーティーだ!」
突如としてグリータが手を叩いて公言した。
息の詰まるこの場を我慢していたようだ。
「いえーい! パーティー!」っとグロリアやレミーベールがはしゃぐ。するとカーティスまで。
「おじさん! 料理はオレに任せてください!」
「お? 珍しいなカーティス。自分から名乗り出るなんて」
「帰還したらご馳走すると約束しましたから。父さんと母さんたちに」
「カーティスの手料理ですわ!」
「楽しみだ!」
ローエとカティアもテンションを上げ始めた。
あぁ、なんかいいなこの空気。好きだ。
「よーし。じゃあガキどもは買い出しに行ってこい。オレたちはパーティーの準備だ!」
グリータの指示にグロリアたちが「オーッ!」と掛け声を発する。俺もそれに混じってグロリアたちと買い出しに行こうとするが、首をガシッと掴まれた。
「おいコラ待てゼクード! なんでお前まで買い出しに行くんだよ!」
「いや俺も年齢的にガキだし……」
「うるせぇこっち手伝えバカ野郎」
そして俺はものの見事にグリータにコキ使われた。
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