第134話 三人合流

「もう本気でいくからね!」


 そりゃこっちのセリフだと言いたかったが、ピンク女騎士の目付きが先に鋭くなり、鎖付き鉄球を振り回し始めた。


 目一杯に遠心力をつけた鉄球は大砲の如く発射され、それはまっすぐ俺に向かって飛んで来た。


 たしかに常人ならば反応できず直撃するであろう速さだ。

 うちのS級騎士たちでも危ないかもしれない。

 だが俺にとっては遅すぎる。欠伸が出るほどに。


 息をするように鉄球を避けた俺は、一瞬で彼女の背後を取った。

 避けた鉄球が奥の巨木に直撃して破砕する。

 その光景を未だに見ているピンク女騎士に、俺は痺れを切らしてポンポンと肩を叩いた。


「えっ!?」


 むに!


 勢いよく振り返ったピンク女騎士の頬に、俺の突き立てた人差し指がめり込む。柔らかい頬っぺである。


「はいザンネン俺の勝ち。大人しく降参しようか?」


「このっ!」


 彼女の篭手からナイフが出てきた。

 

 仕込み剣っ!?


 懐に入られた緊急用の武器らしいそれを彼女は薙ぎ払ってくる。


 俺は顔を掠めることなく避けたが、相手のもう片方の篭手からも仕込み剣が飛び出てきた。

 フォームが双剣を扱うそれとなり、蹴りを交えた剣舞が俺に放たれる。


 しかし、やはり素のスピードが足りないピンク女騎士の攻撃は一発も俺に届かない。

 遅すぎる。話にならないのだ。

 これならロングブレードを使わずに無力化できる。

 女性に剣を向けるのは不本意だから助かる。


「なんで!? なんで当たらないの!?」


「遅いんだよ。もう諦めな」


 俺は【真・竜斬り】で彼女の剣を根元から両断した。


「あっ!?」


 即座に彼女の首を掴まえ、近くの巨木に叩きつける。


「か……はっ!」


「降参しろ。そうすれば手を離してやる。約束できるか?」


「バ、バカにしてえええええ!」


 顔を真っ赤にして暴れるピンク女騎士だが、俺にとっては些細な抵抗だった。


「ミオンさんを助けろ!」


 後ろに待機していた女騎士たちが剣を抜いて一斉に掛かってきた。

 だがしかし、その進行を味方のS級騎士たちが阻む。


「止まれ! 貴様らも降参しろ!」

「こっちの話を聞きやがれ!」


「くっ! おのれ!」

「男の分際で!」


 女騎士たちが足止めをくらい、結局ミオンと呼ばれたピンク女騎士は暴れるしかなかった。

 

「離して! やだ! 離してよ! 苦しい!」


 ……なんか俺が悪者みたいでヤだなぁこれ。

 手足を縛るロープでもあれば良かったんだが。


「なぁ~んてね」


 突如ミオンがニヤリと笑い、首を掴む俺の腕を右手で握ってきた。

 その右手が深紅に光り輝く。


 これは!

 俺は慌ててミオンを投げ飛ばす。


「【エクスプロード】!」


 轟っ!


 炎魔法が爆裂!

 俺は寸でのところで腕を持ってかれずに済んだ。

 あと少し遅かったら腕が爆砕して無くなっていただろう。

 

 あっぶねぇ……

 まさか彼女もローエたちみたく【攻撃魔法】が使えるとは。


「きゃっははっ! ビビって手ぇ離してやんのぉ~。ダッサァ~い」


 くそ。ムカつくなぁこの子。

 本気出したらお前なんかなぁ。


「ミオン! 下がれええええ!」


 別の声!?

 上か!


「レイゼちゃん!」


 ミオンが歓喜する。


 落下してきたのは銀髪の黒い鎧を装備した俺みたいなカラーリングの女騎士。

 その奇襲者は落下と共に武器である鉤爪を薙ぎ払ってきた!


「っしゃおらああああっ!」


「ちっ!」


 俺は大きく後ろへ飛び、レイゼと呼ばれた女騎士の奇襲を回避した。

 だが間もなく!

 背後に三人目の気配が!


「終わりです」


「!」


 何者かによる斬撃が、背後から振り下ろされる。

 俺は振り返らず、気配だけで敵の刃を長剣で受けた。


「なっ!」


 驚く背後の相手に俺は瞬時に屈んで水面蹴りを放つ。


「あ……」


 足払いを受けた相手は転倒した。

 相手は茶髪の女騎士だ。

 俺は彼女に追撃を──仕掛けようとしたが、また例の鉄球が飛んで来た。


「くそ」と吐き捨てそれを回避し、空中を回転して着地した。

 顔を上げて前を見れば、そこには三人目の女騎士が並ぶ。


「リベカちゃん大丈夫?」

「問題ありません」

「気ぃつけろ。どいつもこいつもやたら強ぇぞ。この連中」


 おいおい……何なんだよコイツらは。

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