第133話 ピンクの女騎士
「女を奴隷としていたのは過去の話だ。今はもうそんな奴隷すら存在しない」
断じるようにカティアが言うと、向かいのリベカは目を細める。
「信じられませんね。人は変わらない生き物ですよ? とくに男は」
「偏見だ。そんなものは人による。それより、お前たちはどこから来た?」
「お答えできません」
何故だと問おうとした瞬間、リベカと他の女騎士たちが一斉に後退を始めた。
「おい待て! どこへ行く! 討伐に協力しろ!」
「あなたが居れば十分でしょう? ……助けて頂いた恩は忘れません。それでは、失礼」
一方的に言い放ってリベカ達は森の奥へと消えて行った。
「追いますか?」
味方のS級騎士に聞かれ、カティアは首を振る。
「いや、深追いはやめておこう。まずはドラゴンだ」
「了解です」
リベカは恩は忘れませんと言っていた。
ならばもう今は襲ってこないだろう。
「しかし、我々以外にもまだ生き残りがいたんですね」
おそらく皆が同じ感想を持ったことだろう。
S級騎士の一人がそう言った。
生き残りというか、元からいたのかもしれないが。
「ああ。本当に驚きだ。世界は思ったより広いのかもしれない」
バスターランサーを納めながらカティアは言う。
しかし、あのリベカたちは男をかなり毛嫌いしていたな。
まるで昔の私だ。
男へのイメージも随分と悪いみたいだが、いったいどんな国に住んでいるんだ?
気になるな。
※
オリハルコンシリーズは硬いだけで寒さに強いわけではない。
寒いのも暑いのも嫌いな俺にとっては気の利かない防具なのだが、リーネちゃんに怒られそうだから言わない。
嫁のローエにも文句言うなと叱られるだろう。
しかしこうも雪道が深いとブーツの底から寒気が浸透してくる。
足の指先が冷たくて感覚が悪くなっている。
もっと速く走れば暖まるか?
そう思って加速していくが、結局暖まる前に味方のS級騎士たちを見つけた。
四人とも無事なようで安堵したが……あれ?
ドラゴンはどこ?
おかしいな。
俺の目には五人の女騎士っぽい人らがいるんだが。
ん!?
いや、人間じゃん!
俺たち以外の!
「あはは、どうしたの? かかってきなよ」
少し狂気を感じる口調の女騎士が鎖付きの鉄球をブンブン振り回してるんだが!?
袖の赤い黒ドレスを着たピンク髪の女騎士だ。
そのドレスには銀の金属プレートが付属しており、彼女の肩を守っている。ドレスメイルというやつだろうか。
大きく開いた胸元は谷間を露出し、さらには短いスカートの下には流麗な太腿も露出していて、俺たち男の視線を釘付けにする。
ローエたちに負けず劣らずのスタイル抜群美人で危うく見入りそうだったが、ローエたちの怒りの顔が脳裏に浮かんだので即やめた。
クルクルしたピンクのツーサイドアップ。
ピンクの瞳がやたら特徴的……やたらピンクピンクしている女騎士だ。
そんなピンク女騎士は今もなお鉄球を振り回し、味方のS級騎士たちに襲い掛かる。
あっぶねーなあの子。
彼女の味方だと思われる他の女騎士たちも、彼女の鉄球が怖いのか後ろに下がってしまっている。
それだけ敵と味方の区別もない攻撃を乱舞している。
……笑いながら。
ただパッ見た感じ、動きは素人ではない。
かなりの実力者のようだ。
俺は攻撃に晒されているS級騎士たちの元へダッシュし、振り回される鉄球に【ダークマター】を撃ち放った。
【ダークマター】に直撃した鉄球は軌道をズラされ近くの巨木にめり込んだ。
「!」
「ゼクードさん!」
S級騎士たちが俺という増援に歓喜する。
「待たせたなみんな! よく俺が来るまで耐えた! ……で、こいつら何?」
「わ、わかりません!」
「出会った瞬間に襲ってきたんです!」
「オレたち何もしてませんからね!?」
まぁそうだろうな。
ずっと防御してたみたいだし。
刹那!
ビュンと風切り音がして、鉄球が俺に目掛けて飛んできた。
「あぶなっ!」っと大袈裟なリアクションをして軽く避けてやった。
「ああんもう! おしい!」
「おいコラ! おしいじゃねーよ! なんで人間の俺たちに攻撃するんだ! 敵はドラ、どわぁっ!?」
また鉄球が飛んできた。
人が話してる時を狙った不意打ちである。
なんだこの女騎士! ピンクなのに汚いぞ!
「なんで? あんた達みんな男じゃない」
「は?」
男じゃないって、そんな理由で殺しに掛かってくるの!?
なんなのこの子!?
ホントに怖い! 眼も怖いし!
どうかうちのグロリアとレミーがこうなりませんように!
「男はみ~んなあたしのオモチャみたいなものだから」
狂人だよこの子!
まともじゃない!
「み、みんな逃げるぞ! こいつらまともじゃない!」
俺がそう言うとS級騎士たちが驚愕する。
「ええ!? 逃げるんすか!?」
「なんでオレたちが!?」
「やっちゃえばいいじゃないですか!」
「やっちまいましょう! 正当防衛です!」
「バッカお前ら! 俺達はドラゴン専門なんだよ! 人殺しなんてできるか! ましてや女の子じゃん! キツいよ色々と!」
「じゃあカティアさんにそう言っときますね」
「ちょっと待てなんでカティアが出てく、どわあっぶねっ!」
また鉄球が飛んできた!
鼻かすめた!
「あんもう! 避けないでよ面倒くさいな!」
こいつ!
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