第135話 ゼクードVSレイゼ・リベカ・ミオン
リベカという茶髪の女騎士。
ミオンというピンク女騎士。
そして俺にそっくりなカラーリングをしたレイゼという女騎士。
それらが俺の前に武器を構えて立ち塞がる。
味方のS級騎士たちは他の女騎士たちと交戦中で、とてもこちらの応援に来れる余裕はなさそうだ。
3対1か。
あのレイゼとリベカという女騎士たちもミオンと大差ない速さだった。そもそもローエたちと比べると遥かに劣る戦闘力だ。
これなら数の不利もなんとかなるだろう。
女性に剣を向けるのは俺の騎士道に反するが、敵対するならば斬らなければいい。
俺の【真・竜斬り】は究極の対ドラゴン剣技。
圧倒的な硬度を誇るドラゴンの竜鱗を断つ。
そんな剣技を人間に使えばどうなるか?
即死である。
ミスリル・オリハルコンの鎧を纏おうが、この剣を防ぐ術にはならない。
斬らずに無力化してやる。
俺は愛剣ハーズヴァンドオブリージュを抜刀し、切っ先を相手に向けた霞の構えを取る。
攻め側が攻めにくく感じるこの構えで、俺は姿勢を低くした。
敵の女騎士三人もそれぞれ構えをとって俺と向き合う。
しかし迂闊には踏み込んで来ない。
俺の間合いギリギリ一歩外に立っている。
「3対1だぜ? 降参しろよ。片眼野郎」
レイゼが言った。
安い挑発だ。片眼野郎とは失礼な。
せめてカッコよく隻眼と言ってほしい。
「降参したら俺はどうなるんだ?」
「奴隷にして、そして一生うちの労働力としてコキ使ってやるよ」
「じゃ、死んでも降参しない」
「だろう……なっ!」
レイゼがダンッと雪を蹴り、驚嘆すべき速度で間合いを詰めてきた。
俺との距離をゼロにし、鉤爪を振り下ろ──さなかった。
レイゼは足で急制動を掛け、横へと身体を捌いた。
俺から見れば、レイゼが横へとスライドしたかのように見えた。
そしてそれは正解で、横スライドした彼女の後ろからミオンの鉄球が迫ってきていた!
左右にはリベカとレイゼが並走する。
なるほど、良い連携だ。
でも単調すぎる。
俺は彼女たちの連携を予測していた。
鉄球が来ることも見越していた。
あの不意打ちに適した武器を野放しにはできないと、俺は鉄球を【真・竜斬り】で真っ二つにした。
次いで繰り出されるのはリベカの斬撃とレイゼの鉤爪攻撃。
左右からのダブルアタックは俺の剣技によって武器ごと破壊される。
鉄球と直剣と鉤爪。
それら三種の武器が両断される光景は、端から見れば俺が彼女たちの脇を通りすぎた様にしか見えなかっただろう。
カチンと全てを斬った先で、俺は納刀した。
ゴトゴトゴトと破壊されたレイゼたちの武器が雪の上に落ちる。
「なんだと!?」
「武器が……!」
レイゼとリベカが驚愕し、ぶわぁっと冷や汗を浮かべた。
「うっそぉ~!? ミスリルだよ!?」
後方でミオンも驚愕する。
手応えで分かったが、やっぱりミスリルか。
今となっては安物感があるな。
かなり良い鉱石なんだがオリハルコンには劣る。
そんなことを考えていると、ある場所から複数の気配が。
「隊長たちを助けろ! かかれ!」
いきなり森の奥から現れたのは8人の女騎士たちだった。
ミオンが連れていた女騎士たちじゃない。
おそらくリベカとレイゼの部隊だろう。
「よせ! 手を出すな! そいつはマジでやべぇっ!」
レイゼの鬼気迫る警告に、女騎士たちは俺を包囲してから足を止めた。
あのレイゼとか言う女騎士は、口調は荒っぽいが、どこか冷静で判断力がある。
想定外の事態に呆然となっているリベカや、武器を壊されてもなお殺気を募らせているミオンよりリーダーに向いている気がする。
「……賢明な判断だな。掛かってきてたなら、今ごろみんな死んでた」
殺すつもりなど毛頭なかったが、俺は脅しのつもりでそう言った。
いつもならドラゴンにぶつける気迫を周りの女騎士たちにぶつけてみた。
するとみなが揃って一歩引いた。
脅しと共に効いたみたいだ。
「ゼクードさん!」
味方のS級騎士たちが俺を呼んだ。
何事かと見れば、彼らも敵の女騎士たちを取り押さえていたところだった。
「こちらは押さえました!」
「くそ!」
「離せっ! 男どもが!」
「穢らわしい手で触るな!」
「くっ! 殺せっ!」
俺は「よくやった!」と答えて、レイゼたちに視線を戻す。
するとレイゼが前に出てきた。
「おい! あいつらを離してくれ! やるならオレを好きにしろ!」
「レイゼ!?」
「レイゼちゃんなに言ってんの!?」
リベカとミオンが驚愕する。
他の女騎士たちも例外はなかった。
みながレイゼの発言に驚く。
レイゼの自己犠牲の精神はまぁ素晴らしいけど、それより俺はこの状況が気に食わなかった。
「……あのな? 俺たちはそこのミオンって女騎士に襲われたから抵抗してただけで。そもそも敵対する意思はなかったんだ。それなのになんだお前らは? なんで俺たちが悪いヤツみたいになってるんだ。ふざけんなよ?」
怒りの眼光をレイゼたちに向けると、すぐに当のミオンが口を開いてきた。
「男のくせにこんなところウロチョロしてるのが悪いんでしょ!」
「はぁ?」
するとミオンに便乗して他の女騎士たちも声を上げた。
「そ、そうだ!」
「奴隷のくせに!」
「男は男らしく奴隷をしていろ!」
「穢らわしい!」
いやいやいや、何なんだコイツら本当に?
ここまで男を毛嫌いしてるとさすがに気持ち悪いぞ。
度が過ぎる。
どういう教育受けたらこうなるんだ?
いやそもそも……もしかしてそういう国から来たのか?
女尊男卑みたいな?
まさかな。
でも奴隷って単語をやたら使ってくるし、本当に?
「黙れお前ら!」
場を鎮めたのはレイゼだった。
騒いでいた女騎士たちがビクついて止まる。
「立場を弁えろ。オレたちはいま負けてんだ。自国のルールを押し付けられる立場じゃねぇ!」
その言葉に真っ先に従ったのはリベカだった。
「ゼクードさん、でしたね。度重なる御無礼をどうか、御許しください」
レイゼの隣に立ち、まっすぐ謝罪してきた。
おそらくレイゼとリベカは、俺には敵わないと、俺からは逃げられないと悟ったのだろう。
このまま戦えば負ける。
逃げれば俺の追撃で誰かが死ぬ。
俺の速度を直に見たレイゼのリベカの賢明な判断だ。
殺すつもりはないが、相手にはそれが伝わらない。
だからこれはこれで助かる。
しかし、他の女騎士たちが崩れていくのが見えた。
「終わりだ……」
「犯されるぞ……わたしたち」
「嫌ぁ……嫌だぁ……」
「あんな奴らの子供なんて、生みたくない……」
なんなんだよコイツら!
そんなことしないってのに!
いちいち男を悪者にしやがって!
……けど、彼女たちの怯え方にはワザとらしさがまるでない。
本当に怖がっているのだ。
あの気丈な女騎士たちが。
まさか本当に、過去に男たちから酷い扱いを受けていたのかもしれない。
でないと人間こうはならないはず。
「片眼野……いやゼクード……だったな! どうかオレの身柄一つでこの場は手を打ってほしい! 頼む!」
レイゼが雪の地面に頭をめり込ませた。
土下座である。
「やめろよそういうの! 何もしないって! 俺たちはドラゴンを倒しに来ただけなんだ!」
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