第30話 S級ドラゴンVS女騎士たち

 我が隊長であるゼクードを狙って、大量のA級ドラゴンが激進していく。

 なんて賢いドラゴンたちだろうと、ローエはそう思った。


 この群れを指揮しているらしいあのS級ドラゴンは先ほどの大咆哮でA級ドラゴンに指示を出したみたいだ。

 あの大咆哮のあとA級ドラゴンたちが揃ってゼクードを狙い始めたのだから間違いない。


 ゼクードはA級ドラゴンをそれこそ凄まじい速度で倒していたから、S級ドラゴンに危険だと判断されたのだろう。

 敵ながら賢明な判断だ。


 そのような【判断】が出来て【指示】を出せるS級ドラゴンはやはり並のドラゴンを遥かに凌駕している。

 知恵でも戦闘力でも。


「ゼクード隊長……」


 疾走しながら我知らず呟いたローエは、大量のA級ドラゴンに追われるゼクードを見た。

 足の速いゼクードだから追い付かれることはないだろうが、心配である。

 

 しかしその心配とは裏腹にゼクードは味方のA級騎士たちと合流し、反撃を開始した。

 その光景をしっかり見てローエは心の底から安堵する。


「来るぞ!」


 刹那に響いたカティアの声。

 迫りくる殺気を感知し、ローエはS級ドラゴンを見据えた。

 大口を開けたS級ドラゴンが白銀のブレスをローエに発射!


「くっ!」


 その弾速は一瞬で、ローエの反応でもギリギリだった。

 地面に着弾した白銀のブレスは大爆発を起こす。


「あぐっ!?」


 せっかく避けたローエだったが、背中にその爆風を浴びて前に転倒する。

 瞬時に受け身を取って立て直すローエだが、S級ドラゴンがすでに目前まで迫って来ていた。


 は、速い!


 その巨体に似合わぬとんでもないスピードだ。

 肉薄したS級ドラゴンは氷に覆われた爪をローエに振り抜く。

 その振りも恐ろしく速いがローエは爪と爪の間を狙って飛び、それを何とか回避する。


 爪を空振りさせたS級ドラゴンにローエはハンマーを握りしめ、もう片方の爪を狙って疾走。

 もともとS級ドラゴンの爪はローエの目的でもある。

 破壊して頂くまで!


「隙ありですわ!」


 ローエが吼える。

 しかしそれは逆だった!


 S級ドラゴンは空振りした勢いをそのままに全身を一回転させ、氷に覆われた尻尾をローエに向かって薙ぎ払おうとする!


 それは突進中のローエにはもはや避けられない。

 まさかの二段構えの攻撃だった。

 やられる! と直感して全身を強張らせたそのとき。


「ローエッ!」


 叫びながら駆けつけてきたのはカティアだった。

 彼女はローエの無防備になっている脇に割り込み、薙ぎ払われてくる尻尾を大盾で受け止めた。

 しかし!


「っ!? カティアさ──」

「ぐあっ!?」


 薙ぎ払われた尻尾の威力があまりにも大きすぎた。

 カティアはローエを巻き込んで吹き飛び、二人揃って地面を抉(えぐ)りながら倒れる。



「ローエさん! カティアさん!」


 仲間がやられてフランベールは思わず叫んでいた。

 S級ドラゴンの尻尾をくらって吹き飛ばされたローエとカティアは倒れて動かない。

 気絶したのか、それとも──


 フランベールは自分の周りが暗くなっていることに気づいた。

 S級ドラゴンの姿も消えている。


「──っ!」


 上だと気づいて咄嗟に大きくバックステップをした。

 落下と同時に振り下ろされたS級ドラゴンの爪がフランベールをギリギリかすり、代わりに地面を大きく抉りとった。


 危なかった。

 あと少し反応が遅れたら真っ二つにされていた。


 S級ドラゴンから少し距離をとり、すぐさま大弓による【アイスアロー】を敵の頭部に叩き込む。

 

 しかし【アイスアロー】は氷に覆われた頭部を貫通できず、すべて弾かれてしまった。


「硬いわね。なら!」


 剥き出しの腹部を狙うが、それよりも先に白銀のブレスが飛んできた。

 

「うっ!」


 身を捻って回避し、やはり地面に着弾したブレスは大爆発を起こす。

 爆風に押されて体勢を崩したが、フランベールは浮いた身体のまま大弓を構えて【アイスアロー】をS級ドラゴンの腹部に撃ち込む。

 氷に覆われていない腹部ならばダメージも通るはず。

 

 カキン!


「なっ!?」


 氷に覆われていない腹部でさえ【アイスアロー】は容易く弾かれた。

 見たところ竜鱗に覆われている部位でもないのに弾かれた。

 素の肉質が恐ろしく硬いのかもしれない。


 浮いていた身体を地面に着地させ、フランベールは急ぎ距離をとる。


 真上から降り注ぎ始めた氷山を回避しつつ、音速でとんでくる白銀のブレスを何とか凌ぎつつ、フランベールは大弓で応戦し続けた。


 どこを狙っても弾かれる【アイスアロー】に、フランベールは胸の奥が絶望に染まる感覚を覚えた。



「く、ローエ、大丈夫か?」


 ふらつきながら立ち上がるカティアに呼ばれた。


「ぇ、ええ、なんとか……」


 ローエも痛む全身を何とか立たせる。


「なら良かった。すまん、奴の攻撃を受け切れなかった」


「いいえカティアさん。助かりましたわ。本当にありがとう」


 あの尻尾の薙ぎ払い。

 直撃していれば死んでいたかもしれないのだから。


 とは言え、吹き飛ばされたダメージは大きい。

 頭がクラクラするし、全身の骨が軋んで痛い。


「それより、S級ドラゴンは……」


 言ってS級ドラゴンのいる方を見ると、フランベール先生がたった一人で敵と交戦しているのが見えた。

 氷山やブレスを回避しつつ【アイスアロー】を叩き込んでいるが、まるで効いていない様子である。


「なんて奴だ。どの部位に当てても弾かれている」


「行きましょうカティアさん! フランベール先生に加勢しますわ!」


「わかっている。奴の攻撃は強力だ。回避に重点を置いていくぞ!」


「そうですわね」


 ローエとカティアは武器をとり、S級ドラゴンと交戦するフランベールの元へ急いだ。

  

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