第228話 力を合わせて!

 ゼクードが長剣を構えたかと思うと、そこにはすでに彼は居なくなっていた。


 え、消えた!?


 少なくともレグナにはそう見えた。

 今さっき抜刀して構えたばかりのはず。

 消えたゼクードの踏み込み跡がある。

 地面が深く抉れている。


 どこへ!?

 速すぎて見えねぇ!


「【真・竜斬り・竜獄斬】!」


 いた!


 当のゼクードはすでに血の怪物の懐に飛び込んでいた。


 もちろん……血の怪物もまだ気づいていない。

 いや、今やっと気づいたようだった。

 レグナとほぼ変わらない反応。

 あれではもう避けられない。


 ゼクードは聞いたこともない技を叫びながら長剣を一閃した。

 果てしない数の銀の斬撃が縦横に繰り出される。

 それはまさに銀の牢獄! いや、銀の斬壁だ!


 30メートルにも及ぶ巨大な化け物を一瞬にして微塵斬りにしてみせた。

 伝説の英雄には敵の大きさなんて関係ないようである。


 ……そういえば国王から聞いたことがある。

 伝説の英雄ゼクードは過去に70メートルの超大型ドラゴンを討伐したことがあると言っていた。


 そんな怪物が過去に存在したこと自体が驚きだが、それを倒してしまうあの英雄にも驚きだ。

 70メートルのドラゴンを倒せるなら、こんな30メートルのドラゴンもどきなんて相手にならないのも分かる。


 自分と歳が変わらないこんな男がこれほどまでに強いとは。

 オヤジの武勇伝に水増しはなかったってことか。


 崩れ落ちる肉片が草原を幾度もの重轟で揺らす。

 血の怪物は原型を無くし、肉片混じりの血溜まりと化した。

 しかしまた再生が始まっている。

 ゆっくりとだが原型が戻り始めた。

 

「まだ生きてんのかよコイツ!」


 レグナは思わずそう言うと、いつの間にか隣に来ていたゼクードが口を開いた。


「あの手のタイプは斬撃じゃ倒せない。みんなの力を貸してくれ」


 いきなり現れた英雄に、レグナだけでなくリイドも絶句して返事ができなくなっていた。

 しかしローグだけ別。


「もちろんですゼクードさん! 英雄と共に戦えて光栄です!」


 この場に相応しくないハイテンションさでローグは大袈裟に、そして心底嬉しそうに敬礼した。

 そんな彼に苦笑しながらゼクードはレグナとリイドを見やる。


「君たち名前は?」


「ぁ……レ、レグナです」


「リ、リイドです! よろしくお願いします!」


 同年代とは思えないほど歴戦のオーラを醸し出しているゼクードに、レグナとリイドは必要以上にかしこまってしまった。

 当のゼクードは二人の名前を聞いてハッとなっていた。


「そうか! 君たちがグリータの! こりゃ心強い味方だ!」


 英雄に心強い味方とか言われた。


「いやいやあなたと比べたら頼んない戦力ですよ!」


 リイドは思わずそう謙遜してしまう。

 レグナも同感だったが。


 しかしそんなことをしていると、血の怪物が徐々に回復し始めてきて、ドラゴンの四肢が治っていた。

 なかなか早い再生だ。


 ゼクードもそれに気づき、目付きを変えてレグナたちに視線を向けた。


「レグナくん。君は【真紅の舞】は使えるかい?」


「え? あ、使えます!」


「よし。君は最初に突っ込んでヤツにその技を叩き込んでくれ」


「? 了解っす」


 斬撃では倒せないって言っておきながら【真紅の舞】を使わせるのか?

 なんでだ?


「リイドくん。君は鎧の色から見て風魔法の使い手だね?【シュトゥルム】は使える?」


「使えます。大丈夫です」


「上出来だ。レグナくんが【真紅の舞】でヤツをミンチにしたら【シュトゥルム】を放ってほしい」


「分かりました!」


「ローグくん。君は俺に向かって【プロミネンス】を使ってくれ」


「え!?」


「大丈夫。俺は闇魔法の使い手だ。【ブラックホール】で君の炎属性を使わせてもらう。あの再生するタイプのドラゴンは焼死させる以外に討伐方法はない。けど、あれほどデカいと俺ひとりの火力じゃ無理だ。みんな。頼む!」


 焼死……なるほど。

 そういうことか!

 レグナたちは理解して、各自攻撃の準備をする。


 みなが血の怪物を見ると、奴はすでに上半身まで再生しており、ほぼ完全回復してしまっていた。

 

「レグナくん! 頼む!」


「了解!」


 ゼクードの合図と共に双剣を抜刀!

 全力疾走で血の怪物に肉薄する。

 血の怪物はついに顔まで回復し、レグナを視認して【ダークマター】の乱射で迎撃してきた!


「おせぇよ!」


 ゼクードの時とは違い、正面だけの弾幕。

 そんなものSS級騎士のレグナには容易く見切れる。

 踊るように舞ながら弾幕を突破し、レグナは血の怪物を間合いに捉えた。


 双剣を逆手に持ち替え、全身に力を込める。

 母(レィナ)直伝の奥義!


「【真紅の舞】!」


 無数の斬撃が血の怪物を切り刻み、その肉体をまた微塵にしていく!


「【シュトゥルム】!」


 レグナの離脱後、リイドはすぐに唱えて連携を開始した。

 巻き起こる竜巻に肉片と血が打ち上げられていく。


「ローグくん!」


「了解! 闇の炎に抱かれて滅せよ! 【プロミネンス】!」


 いらない詠唱が混じってたが、ローグの掌から赤い奔流が発射された。

 それはゼクード目掛けてまっすぐに伸びていく。


「【ブラックホール】!」


 その火柱を黒い渦で飲み込み、ゼクードは炎属性を取り込んだ。

 そしてゼクードはを構えて唱える。


「【カオス・エンチャント】!」


 国王から譲り受けた【ブレイブエルガンディ】と、ローグから借りた【ハーズヴァンドオブリージュ】を点火する!


 灼熱の二刀流が輝く。

 ゼクードはそのまま竜巻に掻き回される血の怪物へと疾駆する。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 気合いの雄叫びと共に、ゼクードはなんの躊躇いもなく竜巻に飛び込んだ!


「【真・二刀流・炎獄竜巻えんごくたつまき大回転斬だいかいてんぎり】!」


 竜巻の回転に合わせたゼクードの炎の斬撃!

 長剣に纏わせた灼熱の炎は竜巻を染め上げ、技名の通り炎獄竜巻ファイアストームとなった!


 斬撃と炎を含む竜巻は血肉を焼き、血の怪物そのものを蒸発させた!

 怪物は悲鳴を上げていたが、竜巻の音で全てかき消される。


 当のゼクードは自分の技に焼かれる前に竜巻を離脱。

 怪物と心中するつもりはないようで、見事に決めて帰って来た。

 さすが英雄。


 レグナが感心していると、遠くで触手に拘束されていたグロリアたちが解放された。

 血の怪物が絶命したのか、触手が力を失い朽ち果てた。


 やっと終わったらしい。

 本当にしつこいドラゴンだった。

 

 母レィナも無事。

 グロリアとレミーベールとオフィーリアも無事。

 味方の損害は少ない。

 どっちかっていうとゼクードさんが一番──


 バタン!


 突如、ゼクードが倒れた。

 

「え……ゼクードさん!?」


 レグナは慌てて駆け寄った。

 

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