第50話 ゼクードVS黒竜

 この黒い鱗の竜は【アークルム王国】が撃退したS級ドラゴンか。

 撃退されて逃げた先がまさか【竜軍の谷】だったとは。


 ここに来るまで多数のA級ドラゴンの亡骸(なきがら)を見てきたが、傷痕(きずあと)を見る限りあれもこいつの仕業だろう。


 人間にやられた腹イセでやったのか、あるいは【アンブロシア】を独占するために虐殺したのか。


 なんにせよロクな性格じゃねーなコイツ。


「どうしたこの野郎! 止まってないでかかってこいよ!」


 未だ間合いをあけている臆病な黒竜に吠えた。

 

 しかし黒竜は攻めてこない。

 ゼクードをかなり警戒しているようだ。


 賢しい奴だ、と露骨に舌打ちして、俺はわざと黒竜から視線を外した。

 すると隙ありと言わんばかりに黒竜が左手を振りかざしてきた。


 来ると思った!


 パキィン!


 俺は黒竜の左手を薙ぎ払いでパリィした。

 攻撃を弾かれた黒竜は慌てて後退する。


 大きくバックステップした直後、黒竜の左手が斬れ落ちた。


 黒竜の瞳が大きく開いた。

 パリィと同時に切断してやったのだ。


 来ると分かっている攻撃を見切るのは容易い。


 そして安易な左手による叩きつけだったから斬ることもできた。


 ざまぁみやがれ!

 こちとら完全に頭にキテるんだからな!

 生きて帰れると思うなよ!


 左手を失った黒竜は腹からも腕からも血を流し、バックステップの着地に失敗する。

 ふんばれず体勢を崩した黒竜。


 追撃してトドメを刺してやろうと俺は前進する。

 が、ヤツは背中の両翼を広げ、突風を巻き起こした!


「な!」


 その風は想像を絶する威力だった。

 巻き込まれた俺は全身が浮いて凄まじい速度で吹き飛ばされた。

 ミスリルアーマーを着た重装備の俺を容易く飛ばしてきたのだ。


 俺は近くの木を数本折りながら吹き飛ばされ、最後は地面に激突した。


「うぐっ! げほっ!」


「ゼクードくん!」


 フランベール先生が悲鳴のような声を上げる。


「だ、大丈夫です!」


 それだけ返して、受け身を取ってすぐさま体勢を立て直す。


 ああくそ。

 カッコ悪いな俺。

 こんなやつ無傷で勝ちたかったのに。


 まぁいい、あの翼がやつの武器か。

 さっき背中に張り付いたとき斬っとけば良かったな。


 そんなことを思っていると火球が飛んできた。

 それも数発と立て続けに。

 全てロングブレードで斬り伏せ無力化する。


 その間に黒竜は翼を広げて上昇し吼えた。

 耳をつんざくような大音量の咆哮。

 その後、両翼で二つの風を巻き起こした。

 

 生まれた二つの風は合体し、一気に成長して巨大化する。

 それは辺りの草木を巻き込むほどの巨大な竜巻と化した。


「こ、こんな竜巻を起こせるなんて!」


 遠くでフランベール先生が驚愕していた。

 俺の目前に迫る竜巻は、すでに自然災害の域に達しており、近づくもの全てを飲み込んでいく。


 この竜巻の裏にいるであろうあの黒竜はどうしてるかな?

 俺が飲み込まれるのを想像してニヤニヤしてるんじゃないだろうか?

 だとしたらムカつくな。


「ゼクードくん! 逃げましょう! こんなのに飲み込まれたら即死よ!」


 フランベール先生が俺の肩を掴んで言ってきた。

 俺はそっと彼女のその手を優しく握り返す。


「大丈夫ですよ先生。俺を信じて」


「ゼクードくん……」


「こいつはここで倒します」


 そう言ってフランベール先生を下がらせ、俺はロングブレードを構え直す。

 迫り来る竜巻に向かって俺は、渾身の力を込めてロングブレードを薙ぎ払う!


「【最大風速・竜めくり】!」


 本気の【竜めくり】を仕掛け、ロングブレードから発せられた突風が竜巻に激突した。


 二つの強風がぶつかり、爆風にも似た轟音を響かせる。

 次の瞬間には双方の強風が相殺して消えた。

 竜巻が消えたことで黒竜の姿が露になる。

 

 恐らく最高の攻撃であっただろう竜巻を相殺され、黒竜は恐怖を覚えたように慌てて上昇し出した。


「逃がすわけないだろ」


 先の竜巻に乗って上昇していた俺は、黒竜の頭上を取っていた。


 ロングブレードを握り直し、全力の気を纏わせる。

 銀の斬撃が無数に放たれ、一撃目は片翼を斬り落とし、二撃目は片足を切断し、三撃目は尻尾を両断した。


 激痛にもがき暴れ出した黒竜は片翼を失ったこともあり落下。

 タイミングを合わせ、落ちてくる黒竜に向かって俺は跳んだ。


「ぅおおおおおおおお!」


 尻尾の付け根からロングブレードを突き刺し、そのまま背中を走って顔まで一刀両断!


 真っ二つになった黒竜は大量の血を撒き散らしながら地面に落ちた。

 ほぼ同時に俺も着地する。


「ふぅ……」


 ……やっぱりこんなもんか。

 S級ドラゴン。

 こんなレベルで親父が相討ちになるとは思えない。


 やはり、残り2体のS級ドラゴンのどちらかは恐ろしく強い可能性がある。

 もしくはどちらも。


 ……いや、もしかしたら、さらに別の。


 カチンとロングブレードを納刀すると。


「ゼクードくん!」


 フランベール先生が駆け寄り、そのまま俺に抱きついてきた。

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