第126話 2年後のゼクードの実力
SSS級騎士。
騎士の頂点に立つゼクード・フォルスに与えられた称号。
それは人類の切り札にして最強たる証。
そんな彼のために創られた大袈裟な称号も、彼の戦闘を生で見れば、誰もが大袈裟でないことがわかる。
キャンプの後、【竜軍の森】へ向かう途中でA級ドラゴンの群れと遭遇した。
奴らは相当気が立っていた様で、こちらを発見するや否や一斉に襲い掛かってきた。
やむを得ず応戦したが、そこで目にしたのは伝説の黒騎士ゼクードの人間離れした強さだった。
一歩目の踏み込みで加速し、残像が生まれる。
目で追っても二歩目の踏み込みは確認できず、ゼクード自身とうに姿を消しているのだ。
雪原という足場の悪いこの場所で、ゼクードのスピードが落ちることはなかった。
彼が肉薄し、すれ違ったA級ドラゴンの全身が、次の瞬間には銀の光に一閃される。
傍目には一つの斬撃にしか見えないそれは、何十もの斬が含まれていた。
秒間に十……いや、百。
神速とも言えるゼクードの斬撃が、A級ドラゴンを見るも無惨な姿に変えた。
それをわずかにでも目で追えた者が何人いただろうか?
少なくともS級騎士の自分には見えなかった。
見えたのは、この中ではSS級騎士のローエ・カティア・フランベールぐらいのものだろう。
SS級騎士の彼女たちも強い。
自分たちS級騎士が一匹のA級ドラゴンを倒しているうちに、彼女たちはすでに五匹のA級ドラゴンを狩っている。
隊長が化け物なら、部下である彼女たちも相当な化け物である。
女の身で信じられない強さだ。
だけど、そんな彼女たちを簡単に凌駕しているのが先のゼクードである。
彼は彼女たちが五匹目のドラゴンを狩っている時、すでに二十目のドラゴンを狩っているのだ。
桁違いなんてものじゃない。
格が違う。
強い強いとは聞いていたが、
まさかこれほどまでに強いとは。
ディザスタードラゴンとの戦いの中で左眼を失って隻眼となった今でも、その実力が劣化することはなかったようだ。
「──しっかし、2年前も相当なモンだったが……天才ってのは底が知れないな。大したもんだぜ」
我が部隊の隊長が感心した声でゼクードを眺めていた。
「2年前とは?」と自分は隣で思わず聞いた。
「2年前に初めてブルードラゴンが攻めてきた時だ。あの時もA級ドラゴンを一瞬で蹴散らしてた。俺も戦列に加わってたから、彼をよく見てたよ。凄まじいって言葉しかなかったな」
「ブルードラゴンって言えば、あの三人の女騎士が束になっても勝てなかったドラゴンですね」
「そうだ。そのブルードラゴンを彼は圧倒した。たった一人でな」
隊長のその言葉を聞き、自分はゼクードに男としての憧れを感じずにはいられなかった。
やはり強いっていうのは純粋にカッコいい。
再度ゼクードの戦いぶりを見てみると、彼は闇魔法の【ダークマター】を連射していた。
ただの連射ではなく、すべてドラゴンの眼に命中させている。
数十メートルも離れたあの距離で一発も外してない。
凄い……片手を突き出してドラゴンの頭部を狙うのは近距離でも案外と難しいのに。
あの人、走りながら当ててる。
もはや神業だ。
神業と言えば、あのフランベールという弓使いもそうだ。
前衛で暴れるローエとカティアに当たらないギリギリの狙撃を放っている。
その全てが敵に命中している。
カティアはローエの背後を守っている感じで、彼女に直撃しそうな攻撃は全て大盾でガードしている。
そのためか、ローエはまったく背後を気にせず機械ハンマーを振り回してドラゴンを爆砕している。
背中はカティアに任せている感じだ。
だがあれほど無防備な背中は初めて見た。
どんなに味方を信用していても、多少は後ろを警戒するものだ。
それがまったく無いのは、
それだけローエはカティアという女を信頼している証拠なのだろう。おそらくフランベールも含めて。
あの女騎士たち三人はコンビネーションが精練されてるが、それでもゼクードの討伐速度には追い付かない。
だからなのか、ゼクードは一人で突出している。
ローエが攻撃。
カティアが防御。
フランベールが援護なら、
ゼクードは遊撃か。
ゼクードに女騎士たちがついていけないという切実な理由がありそうだが、それでも【フォルス隊】の凄まじい強さが分かってきた。
500のS級ドラゴンをたった四人で全滅させたというのも、やはり本当なのだろう。
これを見て納得した。
※
襲ってきたA級ドラゴンの群れを俺達は難なく全滅させた。
味方に被害はなく、もはやA級ドラゴンなど人類の敵ではないことが分かった。
S級騎士のみんなも無傷で頼もしい限りである。
さて、それにしても……だ。
「珍しいな。A級ドラゴンがリーダーもなく群れを成すなんて」
雪原に倒れる数十のドラゴンを見ながら俺は呟いた。
「やってきた方角は【竜軍の森】だ。もしかしたらこの雪の元凶であるドラゴンから逃げていたのかもしれんぞ」
カティアの考えには俺も同感だった。
たくさんの仲間が氷漬けにされ、縄張り争いに敗北した。
それならあれだけ気が立っていたのも納得がいく。
「じゃあ今回の偵察で遭遇できるかもしれないね」
「見つけたら速攻でブッ飛ばしてやりますわ」
フランベールとローエが意気揚々と言うので俺は苦笑する。
「まぁまぁ慌てない慌てない。初見は一番危険なんだから。まずは情報を集めるのが先決だ。【そのドラゴンがどれだけ大きいのか】【どんな姿形をなのか】【どんな攻撃習性を持っているのか】。調べることはたくさんある」
「だが討伐できそうなら討伐するのだろう?」
カティアに聞かれ俺は「もちろん」と頷く。
「早く平和にして、みんなでイチャイチャしたいじゃん?」
デヘヘと顔をトロけさせるとゴンッと殴られた。
「あ痛い!」
「任務中だぞ。馬鹿者」
「は、はい! すみませんでした!」
任務中のカティアさんホント厳し~。
でも、そうでない時の優しいカティアを知っているので俺は気にしない。
ふふ、あのS級騎士の男たちはみんなカティアを『男を尻に敷くタイプ』だと思ってるだろうがそんなことはない。
むしろメチャクチャ尽くしてくれるタイプなのだよ。
優しいカティアを知っているのは俺だけ。
この優越感が堪らないぜ。
夜のカティアを知るのも俺だけ。
あぁ~、この優越感が堪らな──
ゴンッ!
「うごっ!?」
「何ニヤニヤしてるんだ気持ち悪い! 任務中だと言った!」
「ごめんなさい! ほんっとごめんなさい! 集中します!」
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