第141話 水も滴るイイ男
「起きろゼクード。そろそろ交代の時間だ」
素肌にインナーを着て、その上に鎧を着ていくカティアが言った。
俺はまだ毛布の中にいる。外気が身に染みて震える。
「うぅ……もうそんな時間か。あっという間だったなぁ」
身体はカティアのおかげでスッキリしているのだが、眠気が凄い。
今になってズドンと来た。瞼がやたら重い。
「早く装備を整えろ。ローエたちが待ってる」
「はーい。あぁ~眠い。寝不足」
「私も同じだ。我慢しろ。今日でリベカたちが報告に来るはずだ」
「ダメだ。瞼が重い。カティア。目覚めのキスして」
「バ、バカ者。ふざけてないで鎧を着ろ。早く」
「ふざけてないって。ほらカティア一回だけ! ん~」
起き上がってカティアにせがむと、突如としてテントの入り口が開かれた。
入ってきたのは俺と同じ銀髪の──
「おいまだ寝てんのか? このオレが来てやっ──」
レイゼだった。
俺がカティアにキスしようとしている所を見て目を限界まで見開いた。
「なにやってんだテメェエエエエエエエエエエエエエエ!」
バッキャん!
「ぶっへぇあっっ!」
「ゼ、ゼクードオオオオ!」
俺は盛大にぶっ飛ばされた。
テントを突き破りそうになったが、バウンドして地面に突っ伏す。
「イッタァ…………こ、この! なにすんだこのやろうっ!」
「テメェが何するつもりだったんだコラァッ! ぶっ殺すぞ!」
シャキンと鉤爪を装備したレイゼに、カティアが慌てて止めに入った。
「ま、待てレイゼ! ゼクードは別に──」
「下がれカティアさん! こいつ変態だ! あぶねぇぞ!」
「聞けっ! 私とゼクードは夫婦だ!」
ピタリとレイゼの動きが止まった。
「……なんだって?」
「結婚している!」
「は?」
「子供もいる!」
「子供! 嘘だろ!?」
「ホントだ! だから武器をしまえ!」
※
キスをせがんでいたのは夫婦だから。
そう説明してやっとレイゼの誤解が解けた。
痛む右頬を我慢しながら装備を整えてテントを出る。
外は雪も風も止んだ蒼天で、太陽光が暖かい。
そんな場所で腕を組み、不機嫌そうなレイゼの姿もあった。
「ったく! お前らそんな関係だったのかよ! 最初に言えよバカ!」
「言えるかバカ! いつ言うタイミングがあったんだよバカ!」
目には目をで、バカにはバカで返す。
よく見るとレイゼしかいない。
リベカとかミオンとか、他の連れがいなかった。
「おい……お前ら子供いるってマジなのか? そんな歳には見えねぇぞ」
怪訝な顔でレイゼが俺とカティアを見ながら言った。
フォルス家代表として俺は頷く。
「いるよ。三人」
「三人!? 嘘だろ!」
「ホントだよ! それより話を聞かせろよ。どうなったんだよそっちは」
たぶんレイゼはカティアが一人で三人子供を生んだと勘違いしてるだろう。まぁ訂正する気にならない。
そもそもハーレムしてるなんて言ったらまた殴られそうだ。
このまま強引に話を進めよう。
「ぁ、ああ……まぁ、やっぱりうちの女王は頭が固くてな。女騎士しか国には入れねぇし、協力もさせねぇって言ってきた」
「協力させねぇって……随分と上から目線だなぁオイ? 言っておくが俺たちエルガンディはお前らの協力なんか必要ないんだからな? 早期解決のために協力できるならしたいってだけだ」
「わ、わかってるよンなこたぁ! それよりうちの女王はお前に会いたがってるぜ?」
ん?
女王様が?
会いたい?
「俺に?」
「ああ、お前だ」
「なんで? 俺は男だぞ?」
「お前だけ入国と協力の許可が出た。理由は知らねぇが、何がなんでもお前に一目会いたいらしい」
「マジで!? いや、そんな……なにもそんなにモテなくていいのに……」
「馬鹿者」
カティアに突っ込まれた。
向かいのレイゼも呆れつつ肩を竦める。
「ま、そんなわけだ。悪いがこのまま着いてきてくれ。国に案内する」
※
キャンプを片付け、レイゼを先頭に【竜軍の森】を歩いていく。
カティアの前を歩くのはレイゼとゼクード。
そしてカティア自身の背後はローエとフランベールが続く。
寒さはお湯を飲むことで緩和できる。
だからカティアは眠気を堪えながら、フランベールがくれたお湯を飲んで体温を高める。
「あらカティア。眠そうですわね? 大丈夫?」
ローエが横に来て心配そうに顔を覗き込んできた。
「大丈夫だ。少し寝付きが悪かっただけだ」
言いながらカティアはまたお湯を飲んだ。
赤ちゃんが宿っているかもしれないこの身体を無駄に冷やすわけにはいかない。
「まぁ~そうでしょうねぇ〜? あれだけお楽しみしていれば、寝不足にもなりますわよね~」
ブパァアアアア!
思いっきりむせてカティアはお湯を吹き出した。
そのお湯は全部ゼクードにぶっかかる。
「ごっほ! ごっほ! ごっっほ! ……な、なんの話だ!」
「あら? あなたの可愛い声……ぜ~んぶ漏れてましたのよ?」
バ、バカな……声は抑えてたはずなのに!
カティアはあまりの恥ずかしさに声が出せず、口をパクパクしながら顔を真っ赤に染めた。
そんなカティアの横にフランベールが現れる。
「クンクン……カティアさんからゼクードくんの臭いがプ~ンプンするねぇ。特に下半身から」
「や、やめろ! いや、良いだろ別に! 夫婦なんだから!」
この際だから開き直ってみた。
するとローエが肩を竦める。
「そうですわよ? だから堂々としてれば良いのに、な~んでそんなに顔を赤くしてらっしゃるのかしら?」
「ぐっ! ロ、ローエきさま……」
「カティアさんってあんなに可愛い声出せるんだね! わたし聞いててドキドキしちゃったよ!」
フランベールがニコニコと言ってくる。
本当に聞こえてたみたいだ。
夜の、カティアの声が……。
「夢なら……覚めてくれ……」
穴があったら入りたいと、カティアはこのとき本気で思った。
「おいカティア。まず俺に謝れコラ」
何故かビショ濡れのゼクードがなんか言ってるが無視した。
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