第211話 少ない情報

【エルガンディ王国】を発ってから約一時間。

 移動は順調で、運よくドラゴンに遭遇せずここまで来れた。

 天候にも恵まれ、馬もなかなかの速度を出してくれた。


 これなら予定より早く【オルブレイブ】に着けそうだ。

 

 俺達は川沿いで馬に休憩をさせていた。

 見張りはレミーベールとオフィーリアに任せ、俺とグロリアは馬に水を与えて青草を食べさせていた。


「ねぇお父さん。いきなり出発しちゃったけど、お母さんたちに話を通さなくても良かったの? しばらく会えないのに」


 馬を撫でながらグロリアが言ってきた。


「いいんだ。時間がなかったからな。そのへんはカーティスに任せたよ。ローエ達も分かってくれるさ」


「ふーん」


「それにこういう救援任務は一秒でも早く向かった方がいいんだ」


「まぁ、そりゃね」


「うちのママフランベールだって、あと少し遅かったら死んでた場面もあったんだ」


「ママが?」


 レミーベールに俺は頷く。


「手遅れで殺されて、レミーが生まれなかった可能性もあるんだ。だからこういう任務は私情なんて挟んじゃいけない。一秒でも早くが大切なんだよ。それで助かる命と、未来に生まれてくる命もあるかもしれないからな」


「なるほどね」


 グロリアも納得した様子で、また馬を撫でる。

 出来れば一刻も早く再出発したいところだが、馬も生物。

 人間と同じで休憩がいるのだ。どうしようもない。


「レグナくんと、リイドくん……みんな無事だと良いんだがな……」


 話によれば【レグナ隊】と【リイド隊】はSS級騎士で固められたかなりの精鋭部隊だそうだ。

 そんな強力な二つの部隊が帰還しない事態となると、裏にとんでもないドラゴンが絡んでそうな気がする。


 あくまで勘だが、こういう時の悪い予感ってのは当たるもんだ。

 もしかしたらドラゴンゾンビ問題の黒幕が出てきたのかもしれない。

 本当に強いドラゴンに数は無意味だ。


 それこそ本当に張り合える騎士が必要となる。

 だからグリータは真っ先に俺に頼んできたのだろう。

 

「……ねぇお父さん」


「ん?」


「もし……もし手遅れだったら……グリータおじさんたちに、なんて言えばいいんだろう……」


「!」


「レィナおばさんや、リーネおばさんにも……」


 最悪の結果を予想したのだろうグロリアが、振り向かずにそう聞いてきた。

 最悪の結果から考えてしまうのは、おそらくグロリアにも経験があるからだろう。

 友達か、あるいは仲間を救えなかった過去が。


 騎士をやってれば、嫌でもそんな事態を一度は経験する。

 慣れることはない。


「……グロリア。今はまだ分からないから、そこまで考えなくて良い」


「まぁ……そうよね。ごめん。あいつらしぶといし、生きてると思う。アタシは」


 自分に言い聞かせるようにグロリアは言った。

 でも確信が持てないから、その声音に不安の色は隠せていない。

 こんなとき俺が言ってやれるのはこれだけだ。


「現場に着くまでは無事であることを祈ろう」


「うん……ごめん本当に。縁起悪いこと言って……」


「いいんだよ。それより馬もだいぶ回復したみたいだ。そろそろ出発するからレミーとオフィーリアを呼んできてくれ」


「うん。了解」


 グロリアの背中を見送りながら、俺は馬を撫でる手を止めた。

 

【レグナ隊】と【リイド隊】の計8人を対象にした救援任務だが、全員が無事だとは考えにくい。

 ドラゴンゾンビの黒幕が現れたとして、それがどんな能力を持っているのか未知数だ。


 もしかしたら黒幕ではなく、新種のドラゴンに襲撃された可能性も否定できない。

 全てにおいて情報が無い。

 かなり危険な任務だ。


 あらゆる事態を想定しておかないといけないな。

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