第12話 相談ごと【Sideセラ→フユミヤ】魔道具
◇Side【セラ】
食事場所はフユミヤとユーリのお肉の試食会で使えなくなってしまったから、仕方なくお兄様の部屋を使うことに。
……せめて設計段階で談話室を入れるべきと提案しておくべきだったかしら~?
後悔よりも今は言うべきことを言わないとね~。
「……さて、お兄様。相談したいことなんだけど~」
「フユミヤの魔力のことか?」
「そのことでもあるのだけれど、……封印されし大厄災の獣を倒しに行かない?」
封印されし大厄災の獣を倒しに行く提案をしてもお兄様は大して驚いた様子もない。
……これはいけそうね~。
「……封印を解くのはどうするんだ?」
「もちろん力業で解くわ~」
「その場合フセルック家の人間達が黙っていないぞ」
「アキュルロッテ様の場合はそうではなかったでしょう?」
「彼女の場合は入学前から実績があったからな。だが、俺達は違うだろう」
「あら、今更捨てた地位に
そもそも王都から出ることを決めたのはお兄様だというのに、今更なにに怯えているのかしら?
もう王都を出て7週間は経っているのよ?
「あんな地位、あってないようなものだろう。俺達は良くても、ユーリやフユミヤはどうする? 特にユーリの存在が
「すぐにあの方に話は行かないはずよ~。またこの村に逃げてくればいいじゃない」
「そうかもしれないが……」
「ユーリが彼女の
それに、この国はもうとっくの昔からまともじゃないもの。
ユーリの存在がバレてしまってもあの方は彼女が母親であることを認めないでしょう。
……逆に、その報告をしてきた人を殺してしまいそうだわ。
「……フユミヤの光の魔力が封印されし大厄災の獣を倒す鍵だとして、その後はどうするんだ?」
「アキュルロッテ様の後を継ぎ、多くの封印されし大厄災の獣を倒す。それでいいと思わないかしら~?」
「彼女は行方をくらませただけだろう。なにも死んだとは……」
「封印されし大厄災の獣の数は増えているわ〜。中には大厄災とするべきではないものも封印されているのはお兄様も知っているわよね〜?」
「あぁ、だが、俺達にはまだ早いのではないか? フユミヤの魔力操作もまだ
「それは封印されし大厄災の獣を倒しに行く前の旅路でなんとかすればいいわ〜」
フユミヤの魔力操作が覚束ないのは戦うことに慣れていないから。
魔力中和が大して行われていない場所に行ったら多くの厄災の獣がいるだろうからそういう場所で覚えさせてしまえばいいわ〜。
「旅路と言っても、転移陣を使ってしまえば……」
「転移陣は使うことはよくないと思うわ〜。王都に滞在せざるを得なくなってしまうし、その間にコルドリウスに見つかったらどうなってしまうかしら〜」
「……コルドリウス、か。あいつには遭いたくないな。だが転移陣を使わないとなると相当長い旅路になるのではないか?」
「だからこそフユミヤの魔力操作も身につくはずよ〜」
今回の旅路は長くなければ意味はないわ〜。
封印されし大厄災の獣を倒す鍵が本当に光の魔力ならば、フユミヤの魔力の扱い方を一般的な人くらいまでに上達させないと大変なことになってしまうもの。
あんな力押しの魔力操作、厄災の獣が何十体も襲ってくる場所じゃあ保たないわ〜。
「……どこの封印されし大厄災の獣に挑むつもりだ?」
「フセルック領に行けたらいいとは思うけど、流石にお膝元で封印を解いたら大目玉を食らいそうだから、……テルヴィーン領辺りがいいんじゃあないかしら?」
テルヴィーン領は騎士の練度が高くないから封印されし大厄災の獣の格も多少は下がっていると思うわ〜。
遠くはあるけれど。
「テルヴィーン領だと!? この国の最南東にある領じゃないか……。どれくらいかかる……?」
「そこは期限は決まっていないから、ユーリとフユミヤの様子を見ながらね〜。幸い、ここは最北東の場所と言ってもいいから、とにかく南下すれば問題なく辿り着けるでしょう」
「南下、となるとヌンエントプス森林を行き、フォルトゥリア山道を登り、フォールデニス領デニスの街を行き……、その先はデニスの街で情報を集めてテルヴィーン領行きの道を探すか……」
「往復で3、4週間はかかりそうだと思うから、フユミヤとユーリの寝袋は買っておかないとまずいわね〜」
ホルニモルの町は危なさそうだから、エルトの町のほうがまだ良いのかしら?
アルドノイア領は王都と比べて中々治安が悪いからあまり買い物はしたくないのだけれど……。
「それはフユミヤを連れてエルトの町に行った際についでに買ってくる」
「……どうしてフユミヤと2人で行こうとしているのかしらー? 寝袋にもサイズがあるからせめてユーリも連れていくべきだわ〜」
「フユミヤには鞄と時計が必要だ。それらを選ぶとなると時間がかなりかかると思うぞ?」
「私もフユミヤの鞄と時計を
「そこまで用意できていないぞ。靴下と靴と杖と財布だけだ」
「鞄と時計は相当高額よ〜。いくら厄災狩りになったからとはいえ、そろそろ尽きるのではないかしら?」
「……1億リーフ硬貨が3枚ある」
「……本当に厄災狩りって戦えてしまえば稼げるのよね〜。帰ってこない子がいるのも納得だわ〜」
学園に入った貴族の子が課題として厄災の獣狩りを命じられた結果、自由を知ってしまって生家から帰ってこなくなってしまうなんて事例は私の代でも数例ほど存在している。
……アキュルロッテ様もその例に入っているのよね。
よほどあのお方との婚姻が嫌だったのかしら?
……今は旅支度の話よね。
「エルトの町だけれど、今日と同じく全員で行きましょう。日帰りで帰ってこられるでしょう?」
「夜になるがな……。ナンドリス街道を通るとはいえ、厄災の獣は強くなるぞ」
「ヌンエントプス森林と同じくらいでしょう? 問題はないはずよ〜」
「……油断はするなよ」
「もちろんよ。フユミヤにも夜の厄災の獣には気をつけないといけないことは言っておかないといけないわね〜」
「そうだな、……本当に封印されし大厄災の獣を倒すのか?」
「えぇ。そうしたら、勇者王レイヴァンが王を務めていた時代にどうして大厄災の獣の封印が起こったのか、わかりそうだもの」
「セラ、この国の歴史を疑っているのか?」
「……学園で教えられた歴史学、教員によって内容に微妙なズレがあったわ〜。教員の出身領によって近代であっても脚色された部分がそれぞれあるの。それっておかしいでしょう?」
まさか100年以上前の歴史に出てくるべき人がいないなんて今でも信じられないもの。
もし、本当にサクラが古き大厄災の獣を倒す鍵だったのなら、この国の歴史に価値なんてないわ。
「だが、教えられている歴史がこうである以上諦めるしかないだろう。大体俺達にはどうすることもできないんだ。……それなら」
「……」
「俺達だけが真実を知っていればいい」
「そう、ね……。けれど、未来の人達はどうしたらいいのかしら? もし、フセルック家の血筋が途絶えてしまったらどうしようもないわよ〜?」
「ずいぶん先の未来のことを今から考えても仕方ないだろう。……大事なのは今をどう良くするかだ」
「なら、封印されし大厄災の獣を少しでも減らさないと、よね?」
「……そうだな」
これで封印されし大厄災の獣を倒すことは決まった。
テルヴィーン領とはいえ大厄災の名を冠する程なのだからただの力押しではなんとかならないとは思うけど、戦うって決めた以上は必ず勝たないといけないわね〜。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇Side【フユミヤ】
「やった〜! 100万リーフ硬貨だ〜!」
「……フユミーさん、貴女、この世界の貨幣は円じゃありませんのよ」
「……実際どうなの?」
……これで1000リーフ=1円とかだったら今硬貨を並べている石のスツールに顔を打ち付けてしまいそうだ。
「わっかりませんわ。場所によりけりですもの。貧民街では数百リーフで買えた食事も厄災狩りの宿では数千リーフしますもの」
「……食事でそれってことは、リーフは円より安い、かぁ」
「それは確実ですわね。ただ地球と違う点として挙げられますのは人の魔力で簡単に作れない物が酷く高値で売られていることですわ」
「簡単に作れない……、例えば?」
「物がたくさん入る鞄、正確な時計、この国の全てが描かれた地図、寝やすいベッドのマットレスなど、ですわね」
不思議な含みのある形容詞が付いている物がたくさん出てきた。
寝やすいベッドのマットレス以外は全部気になるから全部聞こう。
「物がたくさん入る鞄って? リュックサックみたいな物?」
「魔力の加工によってそれ以上に入る小型の鞄のことですわ。どういうわけか通常だったら鞄がはち切れてしまう量の十数倍は収納できますの」
「十数倍って……、重さとかどうなるの」
「入れた荷物の重さは“無”ですわ」
「無!? どうなっているの?」
「鞄職人にしかわかりませんわ〜」
入れた荷物の重さを感じないなら学生が置き勉とかしなくてよくなるじゃん……。
……地球じゃそれは無理か。
魔力でできてるから出来る芸当だよね。
次の正確な時計というのも気になる。
腕時計とか懐中時計みたいな物じゃないの?
「正確な時計っていうのは? セラさんが持ってた懐中時計みたいな物?」
「セラ様が持っているものがまさにそうですわね。あの時計がどうして正確かといいますと、正直言ってうまく言えませんわ。売り場に行けばその正確さがわかりますけれど……」
「誤差がない、みたいな?」
「それですわね。売り場を見た時は気味の悪さを感じましたもの。どう視線をずらしても同じ時間を指す時計は不気味でしたわ〜」
パソコンとかスマホ並の精度がどういうわけかアナログ時計に反映されてるのかな……?
まあ売り場を見ればわかるか。
次は、この国の全てが描かれた地図だっけ、なんでこの国の全て、なんだろう。
この世界の全ての方が良くない?
「この国の全てが描かれた地図、だっけ、どうしてこの国の全てなの?」
「この国、他の国との仲が悪いらしいので世界の地図を作ることは規制されているとお師匠様が言っていましたわ」
「なんでお師匠様はその規制を知ってるの? 学園に通っていたのかな……」
「お師匠様の生い立ちに関してはわたくしは知りませんわ。ただ、そういうことが知ることができる立場となると学園に通っていた可能性は十分考えられますわね」
「お師匠様の生い立ちを知らないってあるんだ……」
「あの方は自由であることを尊ばれている人なので、過去は過去! と言ってバッサリ切り捨ててましたわ」
……過去は自由じゃなかったのかな。
……知り合いでもない人のことを考えても仕方ない。
「規制されているのはわかったけど、どうしてその地図が高いの?印刷とかされてそうなのに手描きなの?」
「いえ、この世界の地図はだいぶ特殊な地図ですのよ。この地図を見てくださいまし」
「……?」
この世界の地図の特殊性とはなにか、そう疑問に思いながらユーリちゃんが出した地図を見る。
大半の部分が白紙だけど、右上の赤く光る点が気になる。
右上の部分はそれなりに埋まっているし……。
一体赤い点なにを表しているのだろうか。
「この赤い点はなに?」
「現在地ですわ。」
「……その現在地、もしかして動くの?」
「動きますわよ? 結構な距離歩きますと微妙に動くくらいですけども」
「仕組み、どうなっているの?」
「わっかりませんわ〜。ちなみにこの地図、白紙の部分に進みますと勝手に図柄の部分が埋まりますわ」
「なにその魔法の地図……」
「魔力が使われていますから当然のことですわね」
「……つまりこの国の全てが描かれた地図って、この国のいろんな場所を歩ききった地図のこと?」
「そうなりますわね。ただ、この国のすべてが描かれた地図には現在地表記がございませんので、使い勝手は悪いですわ」
「……白紙の現在地がわかる地図のほうが欲しいかな」
さすがに地図は現在地がわからないと使えなさそうだ。
「……さて、フユミーさん、肉ガチャの続きを始めましょう?」
「……また外れだったらどうするの?」
「当たりの確率が偏ったと考えて、これからおいしいお肉が食べられると考えるのですわ!」
全部ハズレだったらその時はどうするんだろう。
諦めの境地で調理スペースに立ち、大人しく肉を焼く手伝いをすることにした。
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