第29話 捜索隊との交流開始
「ヴィクトール殿下! どうして一番危険な組み合わせを選ばれたのですか!?」
ユーリちゃんがドカ盛り料理を全て食べきり、宿の大部屋に戻って早速コルドリウスさんは吠える。
メンバー分けの時何度も驚いていた顔をしていたからね……。
「危険ではないぞ? そのためにフユミヤを俺のところに入れたからな。基本的にフユミヤが杖による奇襲で仕留めれば終わる」
「……私の攻撃で終わります?」
「終わるぞ。昼間の魔物は大体一撃で倒せていたからな」
「討ち漏らしがあったらどうするんですか?」
「その時は他の魔術士に頼ったっていい。連携が取れなさそうなら俺がなんとかする」
「……そうですか」
今回組む魔術士の人の実力が未知数な上に面識が大してない、というのが今回の不安なところだ。
私より強いのかもしれないし弱いのかもしれない。
人間としての気質はどうなんだろう。
戦うことに臆病な人だったり、逆に好戦的過ぎてこちらを置いて行ってしまうような人だったりするのかもしれない。
考えられるイレギュラーはいくらでも考えておかないと……。
「むしろ危険だと思うのはコルドリウスの方じゃないか? ユーリ、まだコルドリウスの声は封じるんだろう?」
「もちろんそのつもりですわ。ヴィクトール様とセラフィーナ様が王族ということがバレてしまったら無用な動揺がある中で活動させてしまいますわ! よって封印ですわ〜!」
「……とのことだ。声を封じる以上、なにかしらの不便は生じるだろう。ユーリ、指揮の方はできるか?」
「当然、やったことありませんわ! わたくしまだ4歳ですもの!」
「……なるべく温厚そうな人間をそっちに入れさせたから、なんとか頑張ってくれ。」
ヴィクトール様、諦めた?
コルドリウスさんのところはこの町の前衛の人が率いることになりそうだね……。
「私はフユミヤと同じ組み合わせが良かったわ〜。お兄様、どうして引き離したの〜?」
「あの中で1番強い魔術士だからだ」
1番強い?
私が?
なぜ??
動揺で瞬きが増える。
えっ、魔力の扱い方がドド下手くそなのにも関わらず、一番強い、とは……?
ユーリちゃんの方が強いんじゃないの?
「1番強いとは一体どういうことでしょうか、ヴィクトール殿下」
「単純に魔力の気配が強いってことだ。魔力の気配でも相手の力量というものはわかるからな」
「……確かに、そうではありますが、それは魔力の属性がヒトと異なるからではないのですか?」
「それでもなお、フユミヤの魔力の気配は強いんだ。下手したら俺よりあるんじゃないか?」
「……そんなことがあっていいのですか?」
「存在すればそれが事実だ」
「でしたら、出自を探ろうと思わないのですか? 珍しい属性、多すぎる魔力、そんな存在が突然現れるとは思えません。彼女には得体のしれないなにかがあるのでは?」
「そんなもの探してどうする。探したいならお前だけで探してこい」
「ですが……」
食い下がらないコルドリウスさん、やっぱり彼は私に不信感を抱いているようだ。
そもそも、記憶喪失というのはヴィクトール様が言った嘘で、本当は異世界から来た、というのが真実なんだけど、こっちのほうがどう考えたっておかしいよね。
……なんでヴィクトール様は私を拾ったんだろう?
「フユミーさん、寝る準備をしますわよ! 洗われる準備はできまして?」
「……もう寝るの? 別にいいけど」
いつも通りゴボボガボガガビと全身洗浄の魔術を受ける。
口の中に入った水はどういうわけか最後は消えるんだよね……。
なんで口の中にも水が入ってくるんだろう?
歯磨きの代わり?
「なぜ、ユーリ様が全身洗浄の魔術をかけるのです? 自身でやるべきでは?」
「フユミーさんは四属性の魔力の扱い方がドドド下手くそですので全身洗浄の魔術ができませんの。ですので私が毎日フユミーさんを洗ってますの」
「四属性の魔力の扱い方が下手、とは? そんなことがあっていいのですか?」
「火属性の魔力は実戦で使えるが、それ以外が全然といった状態だ。火の魔力自体も人並みと言っていいくらいの威力や出の速さで四属性以外の魔力を使わせるべきだと感じたな」
ヴィクトール様の認識もそうなんだ……。
戦闘だと光の魔力や電気の魔力を使った方が無難かもしれない。
火属性以外の魔力の扱い方はなんでもない時に覚えておきたいけど、この旅の間は難しいかな……。
「……その状態でも生きられるものなんですね」
「記憶をなくすまでのことは知らないが、現にフユミヤはここに生きている。前のことは疑問に思うなよ。無意味だからな」
「…………」
コルドリウスさんは納得していない顔をしている。
彼がなにを思っているかはわからないけど、私のことを良く思っていないことは確かだ。
……妙に当たりが強いのは私だけ、だよね。
ユーリちゃんは王の元婚約者の隠し子という認識でいるし、ヴィクトール様とセラ様は王の弟妹だし、怪しい平民なのは私くらいだ。
……不審に思われるような要素を持っているのは私しかいない。
記憶喪失の珍しい魔力の属性持ち、これは怪しいとしか言いようがないでしょう。
「さて、今日はとっとと寝るぞ。明日はフォルトゥリア山道で色々なものの捜索だ。しっかり睡眠は取っておけよ」
各自、自分の寝るベッドに移動したため私もその流れに従う。
とっとと靴脱いで寝よう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
…………なにかに締め付けられているような?
体にかかる圧迫感が凄い。
なにが起きているのかと目を開けると金髪が目に映る。
……ユーリちゃん?
なんで間隔空いているのに隣のベッドまで来れたの?
というすでに起こっていることに対するツッコミはさておき、ユーリちゃんの腕の力が強すぎて抜け出すこともできない。
さてどうしたものか。
誰かが起きているような気配はない。
…………寝るしかなさそうだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……ユーリ、起きるのよ〜?」
セラ様がユーリちゃんを呼ぶ声で目が覚める。
体にかかる圧迫感は相変わらずあるからもう1度寝た時から体制はあまり変わっていないようだ。
「後2時間……、寝かせて欲しいですわ〜」
「起きてるじゃない! せめてフユミヤの体から顔を離すのよ〜」
「……どうなってますの? これ? どうしてわたくしはフユミーさんを抱き枕にして眠っていましたの?」
「それは私が聞きたいくらいよ〜。ベッドから落ちるのならわかるけれど、どうして隙間がこんなにもあるのに寝ながら隣のベッドに行けたのかしら〜?」
「……寝ている間に風の魔力の気配がしたから浮きながら移動したのではないか?」
「そんな器用なことできますのね〜……」
「俺は推測を言っただけだ。実際にどうだったかまでは見てないな」
とは言っても起きたらユーリちゃんに抱き枕にされていたのは事実。
……腕の力も弱まってきたしそろそろ起きていいかな?
「フユミーさん、起きましたわね……。この感触は捨てがたいですが、さすがに離れますわ。人の体ですもの」
ユーリちゃんの体が離れたので体を起こす。
平然と起きれる辺りがこの世界の体って感じ。
地球だったら血流が滞って痺れるとかになっていたんだろうな。
「フユミヤ、起きたのね〜。体の方は大丈夫?」
「全然大丈夫です」
結構な力でしがみつかれていたけど、体に異常は見受けられないし感じない。
問題なし、だね。
「2人共、身支度を整えてすぐ出発できるようにするのよ〜。2人が最後よ〜」
「40秒で終わらせますわ!」
そう言ってユーリちゃんは本来の自分のベッドに飛び移ってドリル髪になるカチューシャを身につける。
ゆるく巻かれてたドリル髪がカチカチのドリル髪になる。
……このカチューシャを作った人はどうしてそういう仕組みにしたんだろう?
「ほら、フユミーさんも支度しましょう!」
「私は靴履けば終わるから……」
全身洗浄の魔術を受けているのをいいことに、靴下も脱がず、鞄も外さないといった横着をしていたので靴を履けば準備が完全に終わってしまうのだ。
髪の毛はここに来てからずっと下ろしたままだけど、寝癖に関しては誰にも言われてないから問題ないのだろう。
多分ね。
なんとなくまとめたらどうかみたいなことは言われているけどヘアゴム以外で髪を結んだことがない私には髪飾りの類へのハードルが高くてとてもじゃないが身に付けられない。
もらったとしても1回も付けずに終わる、なんてこともあり得そうだ。
ヘアゴムのような素材があれば雑に結んで終わらせられるからいいんだけど……。
「……もう少しなにかしませんの?」
「今のところはなにも問題ないような……。やることってなにかあるの?」
「いえ、ないのでしたらいいのですわ……」
うん、やっぱり頭周りを見て言われてる。
禿げてるわけではないから髪をまとめたらどうかということだろう。
やっぱり髪飾り、買うだけ買って爆死した方がいいのかな?
それか短くするのも悪くはないのかもしれない。
半年以上髪を切っていなかったし、ちょうどいい機会かも……?
「2人共、準備はできた? 朝食を食べに行くわよ〜」
「朝食! なにが待ち受けていますの!? 昨日と同じ量が多いものがいいですわ〜」
「流石にそれはないんじゃないか? 朝から量が多いのは良くはないと思うぞ……」
ドカ盛り飯を期待しているユーリちゃんに周りは呆れている。
秘策の魔術だったり、この世界の人体が地球の物とは違ったりするとはいえ10000カロリー越えているような物を1人で食べようとするのはさすがにどうかと少しは思う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
宿の食事場所はパンが焼けたかのような香ばしい匂いが漂っている。
でもこの世界、パンがないんじゃ……?
「こ、これは……」
「知っているの、ユーリちゃん?」
「ガチャ芋のカオリイモの一種がこんがり焼けている匂いですわ!」
「ガチャ芋……?」
ガチャ芋のガチャってあのガチャガチャの、ガチャ?
それにしても芋でどうやってガチャをするんだ……?
「ガチャ芋は変わった芋でして、芋に土の魔力を込めますと様々な芋が出てくる変わった芋ですわ〜」
「大本の芋は一体どこに……?」
「ガチャ芋から生まれた芋でしたら、どれでもガチャ芋になりますわよ?」
「なんでなの?」
「それはわかりませんけど、なるものはなりますの」
よくわからない芋だ。
食べられるの、これ?
疑問に思っていたらロキサイドさんがカウンターの方から現れた。
「お前達、よく来たな。せっかくだし捜索隊で組むやつらで食卓を囲まないか?」
「そうだな。これから厄災の獣が現れる場所に行くんだ。親睦は深めておいた方が良いだろう。席は決まっているのか?」
「席はあらかじめ見繕って座らせてある。後は一部の捜索隊の奴を起こすだけだ。まだ寝ている奴がいてな……」
「席は決まっているのか。どう座ればいい?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ロキサイドさんの案内に従って4人が座れる席を見つける。
4人が座れる席の片側の長椅子には短めの水色の髪をした少年が座っていた。
彼がアルゴスと呼ばれていた人なのだろうか?
レーシアさんがいないのは……、寝てるのかな?
「あなた達がヴィクトールとフユミヤ、ですか?」
「あぁ、そうだ。お前はアルゴスか? よろしく頼む」
「は、はい、ぼくがアルゴスです。対して役に立てないかもしれませんが、よ、よろしくお願いします」
「あぁよろしく。俺がヴィクトールでこっちがフユミヤだ。それで、レーシアは……」
「多分まだ寝ていると思います。あの人、寝起きは不機嫌なので……」
「ロキサイドが起こしに行っているのは彼女か。レーシアが起きるまで朝食を食べるのは待つか?」
「いえ、先に食べてしまってもいいと思います。ぼくはおなかが空いているので……、食べたいです」
なかなか食い意地がすごい。
まあ、こんなおいしそうな匂いが漂っていたらそうなっちゃうのも仕方ないか。
「どうする? フユミヤ、お前も食べるか」
「……食べる」
なんだかんだで私もこの匂いでおなかが空いている。
寝ているレーシアさんには申し訳ないが、食べてしまおう!
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