第28話 ドカ盛りごはんと捜索隊の結成

 食事場所は十数人ぐらいの人たちで賑わっている。

 内装はこの場所でよく見る青とは違って茶色系の色が多い。

 青色が食欲を悪くする感覚は異世界でも同じなのだろうか?


「来たか。100万リーフの部屋はどうだった?」

「あぁ、よかったぞ。変わった仕掛けでな……」

「仕掛けがあるのか?」

「入るまでにな。それはさておき、俺達はどこに座ればいい?」

「この机を使ってくれて構わない。品書き持ってくるから待っててくれ」


 そう言いながらロキサイドさんは人が集まるカウンター席の方へ向かった。

 ……この4人ずつ座れそうな長椅子が2つある席にどう座るんだろう?

 男女で分けた方がキリが良さそうだけど……。


「フユミーさん、早く座りましょう!」

「のわわっ」


 先に動いたのはユーリちゃんで私の腕を引っ張って座らせにかかった。


「じゃあ私はフユミヤの隣ね〜」


 ユーリちゃんとセラ様に挟まれた。

 ……これはもう男女で分ける流れだ。


「俺達はこっちに座るか」


 ブンブンと首を縦に振るコルドリウスさん。

 ……人が周りにいるからね。

 意思疎通の手段は封印されたままだ。


「品書き取ってきたぞ。2枚で構わないか?」


 お品書き、ペラペラだけど紙なんだ。

 インクが裏に滲んでいて、知らない文字の裏写りが少し見えた。


「あぁ助かる。……お前も座るのか?」

「捜索隊の話があってな。説明させてくれるか?」

「構わない。それなら位置を交代するぞコルドリウス。お前が端だ」


 席を入れ替わるコルドリウスさんとヴィクトール様。

 結果としてヴィクトール様と向かい合う形になった。


「味にうるさいやつらというのは誰なんだ? 先に品書きを渡して決めておいた方がいいだろう」

「俺の向かい側とその隣の小さい方だ」

「……小さいと味にうるさいのは同じなのか?」

「今アタシのことを言った!?」

「言ってない言ってない! レーシアは食事を続けてろ!」


 カウンターの方からレーシアさんが怒鳴り込んで来ようとしたのをなんとか止めるロキサイドさん。

 ユーリちゃんは4歳だからとはいえ、レーシアさんの年齢はどうなんだろう?

 身長を気にするほどの年齢なのかな?


「はぁ……、あいつは身長を気にしているからな。というわけでおふたりさん、品書きだ。これを見て決めてくれ」

「感謝しますわ〜」


 私もお礼を言ってお品書きを受け取る。

 …………読め、る?

 文字を見たときには全くわからないけど脳が無理矢理認識させているような奇妙な感覚がする。

 な、なにこれ?

 目では明らかに違う情報なのに、塩味えんみソースがけ獣肉の串焼きだとかドカ盛り!! 獣肉ダイスカットステーキフォルトゥリア山盛さんも旨味うまあじソースがけといった情報を頭が勝手に認識してしまう。

 困らないんだけど、なんだろう、この原理ってやつは?

 私はこの文字を習った覚えはないのになんで認識できるんだ?


「フユミーさん、どうしましたの?」

「いや、大丈夫、私は塩味えんみソースがけ獣肉の串焼きでいいよ」

「ならわたくしはドカ盛り!! 獣肉ダイスカットステーキフォルトゥリア山盛さんも旨味うまあじソースがけを食べますわ。お品書き、他の方に渡しますわね」

「いや、俺達はフユミヤと同じ物でいい」

「まあ! 甘味橙あまみだいだいの実クリームエルドレシア塔盛りですとか、暴発寸前ぼうはつすんぜんドデカ爆弾獣肉焼きといったものがありますのに食べませんの!?」

「……名前からして量が多そうだが?」

「量が多いことはいいことですわ! わたくし、今言ったもの全部頼みたいですわ!」

「ひ、1人で食べるの……?」


 そんな名前の料理を食べてしまったらユーリちゃんの胃袋は破裂してしまうのでは……?

 全部大盛り系だし、大丈夫なの?


「1人で全て食べ切れるほどの胃袋は多分持っておりませんわ! 食べきれなかったら皆様を巻き込みますわ! 覚悟してくださいまし!」

「え、えぇ……、嘘でしょ……」

「明日の夜食べるとかはできないのか?」

「いいえ、できませんわ! 日替わりとここに書かれていますわ! 今日食べられなければもう食べられなくなるのかもしれません! だからこそ食べたいのですわ!」

「日替わりって確かに書かれているわね……」


 セラ様がお品書きを覗き込みながら話す。

 た、確かによくわからない文字でそう書かれている。


「わかった。俺達も付き合う。ロキサルド、俺達が今頼もうとしている串焼きは常識の範囲内の大きさか?」

「一番小さいぞ。これは一度に何本も頼んで食べることが想定されていて少ないんだ。山盛り系はこれだけ人数がいれば食べ切れると思うが……」

「ならいけるのか……?」

「まあ、頼んでみましょう。あまりにも大きかったらその時はユーリを叱るしかないわ〜」

「いいんだな? じゃあ店主に伝えてくるぞ?」

「お願いいたしますわ〜。……楽しみですわね〜」


 ロキサイドさんが店主に伝えに行ってくるのを見て、私はもう一度お品書きを見る。

 ……なんで読めるんだろう?


「フユミヤ、どうしたんだ? ずいぶん険しい顔でその紙を見ているが……」

「文字を習った記憶がないのに、読めるのはなぜかと思いまして……」

「それは魔力を豊富に含んだインクで文字を書いているからだな。どんなに汚い文字でもそのインクで文字を書けば頭に意味を叩きつけてくるんだ」

「これも魔力なんですね……」

「そうだな。ただ、文字を習っていない状態でそのインクで書かれた文字を読もうとすると頭が痛くなってくるから気をつけるんだ。無理して読みすぎると気絶する」

「気絶……!? それは流通してはいけないのでは……?」


 それは最早呪物と言ってもいいものではないのか?

 なんで文字読んで気絶するの……?


「インクは自分で作るんだ。基本的に流通はしていない」

「その気になれば気絶するような物を自作できるんですか……?」

「とは言っても読んだヒトを気絶させるには魔力が相当強くないと難しいな。普通は気絶するほど魔力が込められた文章はないからな。そこのところは安心してくれ」

「……」


 それは、本当に安心していいものなのだろうか?

 全然全然大丈夫じゃないような……?


「会話中悪いな。持ってきたぞ、ドカ盛り!! 獣肉ダイスカットステーキフォルトゥリア山盛さんも旨味うまあじソースがけ」

「まあ! 本当にドカ盛りですわ〜」


 料理を運んで来たロキサイドさんの顔が見えないくらいに山盛りに積まれた拳一つ大はあるダイスカットステーキの山が現れた。

 今日はこれを5人で分ければ十分じゃないかな……?

 ユーリちゃんの前にお盆ごとスッと置かれる。

 や、山が崩れていない……。


「食器は5人分持ってきたが……、まずはそこのお嬢さんからだな」

「フユミーさんの分もくださいまし。わたくし達、旨味うまあじとはなにか気になっていますの」

「……そんなもの探求してるっけ?」

旨味うまあじとはなにか気になりませんの?」

「気にはなるけど……」


 なんで旨味うまみをうまあじと呼ばせているのかも気になる。

 うまみが正しいのになんであじなんだろう?


「さあ、探求の旅の始まりですわよ〜! テッペンから取っていきますわ〜!」


 食器を受け取ったユーリちゃんが頂点にある肉から取って少し食べた。

 ……おいしいのかな?


「……これは、とても柔らかいですわね。食べやすいですわ〜! 旨味うまあじソースもとってもおいしいですわ! フユミーさんも食べてくださいまし!」

「わ、わかった……」


 底の方のソースがべちゃべちゃにかかっている肉を取って食べる。

 ……これ、ローストビーフ!?

 味も食感もローストビーフだ。

 こんなに分厚いローストビーフなんて食べたことがない。

 ぜ、贅沢だ……!

 柔らかいから次の一口まで行きやすいし、こ、これをこんな大量に食べてしまってもいいのか?

 そのうちなにかに罰されそう……。








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 1つ目の分厚いローストビーフを食べ切った。

 ……これだけで十分なような?

 だけど、山盛り飯がこの先にも控えているだろうし、満腹の限界を越えるくらい食べないとね。


 ……なんだか肉の山がだいぶ減っているような?

 もう半分くらいまで高さが減っている。

 ヴィクトール様とセラ様とコルドリウスさんは肉の山に手を付けていない。

 そうなるとユーリちゃんしか食べている人はいない……?


 ゆ、ユーリちゃん、あの拳大のローストビーフをほぼ一口で食べている……。

 だから早いんだ。

 私も速度上げた方がいいのかな?


「塩味ソースがけ獣肉の串焼き、3本持ってきたぞ。まだ食べていない3人の分でいいか?」

「まあ!? 随分そちらのお肉も大きいですわね……!」

「店主の趣味でな。ついでにその肉の山用の味変あじへん用の塩味えんみソースもあるぞ」

「まあまあまあまあ! 味変もあるのですね! 店主様のご厚意に甘えてぜひ味変もしましょう! ね、フユミーさん」

「うん、そうだね……」


 ユーリちゃんは全然余裕そうだ。

 味変前にもう1つ、このお肉食べておこうかな……。

 先割れスプーンで山が崩れなさそうな場所の肉を刺し、そのまま口に含む。

 これでも十分美味しいと思うけど、味変したらどうなるんだろう?


「フユミーさん! わたくし味変! 味変行きたいですわ!!」


 別に構わないという意を込めて首を縦に振る。


「それでは行きますわよ! とりゃ〜ッ!」


 コップ1杯はあるかと思われる味変の透明なソースが土砂降りのごとく肉の山に降りかかる。

 い、勢いが、凄い。


「それじゃあ食べますわ〜! …………! こ、これは……、やはり旨味には塩、ですわね……」


 追加でかけたソースとの相性は悪くないようだ。

 これは期待してもよさそう。








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 私が5つ目の肉を食べ切る頃には、肉の山は更地と化していた。

 ……確かに塩味が効いていていい味変になっていたとは思うけど、ユーリちゃん、私の4倍は肉を食べていたような?


「……ユーリちゃん、お腹大丈夫?」

「秘策の魔術を使っていますので全然問題ありませんわ!」

「秘策の魔術?」

「ちょっとした魔術の応用ですの。なんの魔術を応用しているかは秘密ですわ」

「なら良かったけど……」


 もしかして私はそこまで食べるべきではなかったのかもしれない。

 秘策の魔術を使って食べ過ぎによって起こる問題を防げるのなら私は食べなくてよかったのでは?

 と思っているうちにロキサイドさんが別の料理を持ってきた。

 ボウリング玉くらいはありそうな巨大なたこ焼きの見た目をした物が1つ乗っているが……。


「これは暴発寸前ドデカ爆弾獣肉焼きですの?」

「そうだ。ずいぶん肉の山を食べる速さがすごいから慌てて作ったとのことだ。とても熱いから気をつけて食べてくれ」

「わかりましたわ」


 注意事項を述べた後、ロキサイドさんがヴィクトール様側の席に座る。

 捜索隊の話をするのだろうか?


「さて、十分な腹ごしらえはできたか? できていないなら追加でなにか頼んでも構わないぞ」

「ユーリ以外は大丈夫、なはずだ。……だよな?」


 私もセラ様もコルドリウスさんも首を縦に振る。

 正直、あの肉の山で結構おなかは満たされてしまった。

 頑張って食べようとすれば食べれなくはないけど、一旦休憩したい。


「ならいいが……。それじゃあ捜索隊の話をさせてもらうぞ。問題ないか?」

「大丈夫だ。問題ないぞ」

「……始めるか。まず、なにを捜索するかについてだが、1つ目、5つ首の厄災の獣の捜索だ。お前達が倒してくれたというが、納得できていないやつもいる。探してもいないことがわかればいい」

「……その厄災の獣って1体だけ存在していた、でいいのよね? 複数体いるなんてことはないかしら〜?」

「少なくともそれはないと信じたい。複数体もいたら今頃この町は滅んでいてもおかしくはないだろう」


 ……あの5つ首の化け物ケルベロスのパチモン、そんなに強かったんだ。

 あれを無傷で倒せたのは結構良かったのではないだろうか?


「次に2つ目、厄災狩りの遺品探しだ。こちらに関してはあの5つ首の厄災の獣が現れてから中々進捗がなくてな。まだ残っているのをこの街の厄災狩りが拾っていく流れだ」

「……そうなると俺達がすることは遺品探しの護衛か?」

「その認識で構わない。生き残った厄災狩りは基本的に後衛を務めているヒトが多いからな……。前衛が少ない、というのが不安点だ」

「そうか……、前衛がなるべくそばにいたほうがいいな。……今回の捜索隊に参加する後衛は何人いる? こっちは前衛が3人だ」

「合計7人だ。なら後衛の魔術士達は2、3人に分けて組ませた方がよさそうだな……。」


 ロキサイドさんとヴィクトール様は迷ったのか無言になった。

 ……これ、私とユーリちゃんは後ろで戦っているから今回は捜索隊として出る幕がなさそうだ。

 その場合ってどうするんだろう。

 町を守るのかな?


 私は捜索隊に出ない予感がするので、ユーリちゃんが食べ進めている暴発寸前ぼうはつすんぜんドデカ爆弾獣肉焼きの様子をうかがう。

 ……それスープ系の料理なんだ。

 カリカリのたこ焼き状の外側を殻として、中に液状のなにかが入っている。

 ユーリちゃんはその中のものをすくって食べているようだ。


「フユミーさん、食べます?」

「いや、見るだけでいいかな」

「そうですの? こちらも美味しいですわよ。カリカリした外の皮に反して中のとろとろした物と様々な大きさに切られた歯ごたえのするお肉がいい組み合わせですわ」

「うーん……、じゃあちょっとだけもらおうかな?」

「構いませんわ。食べてみてくださいまし」


 スプーンでひとすくいした物食べようとするも中々湯気がすごい。

 冷めるまで少し待とう。


「……後衛の魔術士、3人ずつにしないか? こっちからも後衛を2人出せる。そっちの前衛は何人いる?」

「……俺含めて2人だ。万が一の事態に備えて戦力が多いことに越したことはないが、後衛3人庇えるほどの能力は流石にない」

「前衛が合わせて5人か……。なら、俺が1人のところに行こう」


 コルドリウスさんが驚いた表情をして震えている。

 なにも言えないけど、やめろとは言いたいんだろうな……。

 ……これで決まったら私達も捜索隊に回ることになるけど、大丈夫なのかな?


 ヴィクトール様とロキサイドさんが話している間に爆弾焼きからすくったものから湯気が消えたので口に含む。

 ……歯応えはあるけど、タコではないな。

 全体的にトロトロした食感で歯ごたえはあるけれど、もう一味欲しいというのが感想だ。


「………………ずいぶん自信があるんだな。ならそれを信じよう。人員はどう分ける?」

「そうだな……」








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ヴィクトール様とロキサイドさんの話し合いでメンバーの割り振りが完了した。

 メンバーのまとめとしては、

 コルドリウスさんが前衛を務めるチームにコルドリウスさん、ユーリちゃんと知らない人が3人。

 セラ様が前衛を務めるチームにセラ様、ロキサイドさんと知らない人が3人。

 ヴィクトール様が前衛を務めるチームにヴィクトール様、私、レーシアさん、アルゴスと呼ばれていた知らない人が1人。

 といった組み合わせだ。


 いきなり知らない人と組んで上手くいくのだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る