第94話 記念硬貨とはなんだろうか
今ので全身とはいかないが、頭の部分が丸出しの状態になった。
墨とかかけられたらまずそうだよね。
次弾、溜めないと。
「それじゃあヴィクトール、クラリスちゃん、ゴルドルフくん! 氷から出ている頭の部分を攻撃してみて!」
青いタコのような見た目をしているが、体はだいぶ大きい。
2階建ての建物の高さは余裕で超えていそうだ。
なので3人がかりで攻撃しても問題ないくらいだが、凍った触手の部分はどう攻撃するのだろうか?
「それじゃあ試すか。魔力の真髄の力が大厄災の獣に効くか、っと!」
ヴィクトールの剣から衝撃波のような魔力の塊が出てきた。
これで攻撃できるんだ。
同じようにクラリスさんや魔力武器の製作が間に合ったゴルドルフ様が剣から出てくる衝撃波で攻撃する。
「……通りが違うわね! 今までは弾かれているような感じがしていたけれど……、同じかどうかヴェルドリスくんとネタローくんとコルドリウスくんに変わってもらおうかしら」
「……僕が行くんですか? 効かないと分かりきっているのに?」
「わからないわよ。少なくとも大厄災の獣と戦えば魔力の真髄に目覚めているか確認できるということはわかったわ。これからはこの訓練は魔術士団と騎士団合同でやった方が良さそうね」
「本気で変えるんです? 現状維持のほうが良いのでは?」
「騎士の方が魔力の真髄に辿り着きやすいもの。成果の確認も兼ねて合同の方がいいでしょう? というわけで、ネタローくんもいってらっしゃい」
すでに攻撃を始めているヴェルドリス様とコルドリウスさんとは別の場所にネタロー様は行き、渋々攻撃をしている。
「…………ネタローくん、なにか違うわね。エル、なにか覚えはあるかしら? エルとネタローくん、幼馴染でしょう?」
「……昔の話になりますが、ネタローが普通の厄災の獣の魔力攻撃にやられかけたことがあります。もしかするとネタローも魔力の真髄に辿り着いているのかもしれません」
……つまりネタロー様はルプアと似たような方法で魔力の真髄に辿り着いたということなのだろうか?
ネタロー様は、とてもやる気がなさそうに見えるのは実力を隠すためなのか、本当に面倒くさくてそうしているだけなのか、どちらなんだろう?
「それは頼もしいけれど、もう少し頑張ってほしいわね……。ヴェルドリスくん達、手応えはどう!?」
「俺は全然ダメだ!」
「わたくしはほんの少し効いている感じがします!」
「僕は普通に攻撃できていますがそれにしたって硬いです」
「なるほどね……。じゃあ魔術士の攻撃の検証と入れ替わろうかしら。ハリネルトくんとユーリちゃんはとりあえずやってみて」
「ユーリちゃんとハリネルト様だけなんですか?」
私、一応次の攻撃用の魔力を杖に溜めているけど……。
「フユミヤちゃんは結果はわかっての通りだし、私とエルとセラは火の魔力で攻撃するつもりだけど、そうすると封印が解けちゃうから攻撃するわけにはいかないの」
「なるほど……」
それならしばらく溜めた状態を維持しておこう。
検証が終わったら倒しに行きそうだ。
「それではいきますわよ!」
「……どうして戦場、しかも大厄災の獣との戦いに未就学児を連れてくるかはわかりませんが、やってみせましょう。魔力の真髄とやらがなにかは知りませんがこのハリネルト=リドルマン=シャルタール! 今度こそ大厄災の獣を倒してみせましょうとも!」
ハリネルト様の名乗りが長い。
その間にユーリちゃんはたくさん攻撃していたが……。
ハリネルト様から放たれた魔力はユーリちゃんとあまり変わらないような強さだ。
「なるほどね……、ユーリちゃん化けるわね。まるでアキュルロッテを魔術士にしたみたいだわ。このままフユミヤちゃんの養子でいてもらって魔術士団に取り込みたいわね……」
「お母様もそう思う? ユーリは本当に平民の子かと疑うくらい魔力量が多いのよ〜」
「そうね。まだまだ伸びる可能性が見えるのは恐ろしいわといったところで、本格的に封印を解きましょう。セラとエルは準備はいい?」
「私は問題ないわ〜。それじゃあ行くわねお母様〜」
セラ様は近接でないと戦えないので大厄災の獣の方へ走っていった。
「私も問題ないです」
エルリナさんは……、杖じゃなくて拳銃だ。
しかも2丁。
なぜそのようなものを……?
「エル、杖じゃなくてそっちを使うの?」
「こちらの方が大厄災の獣との戦いに向いていると思いましたので。封印が解けたら杖に切り替えます。誤射の危険性は十分ありますので」
「そうね。それは強力だけれど、大人数での戦いには向いていないわ。わかっているようでなによりよ」
もしかしてその2丁拳銃って、撃ったら魔力のコントロールができないのかな……?
だとしたらだいぶ怖い武器がなぜ生み出されて……?
「さて、フユミヤちゃん、貴女が溜めている魔力が当たった時に一斉に攻撃をかけたいから、お願いできるかしら?」
「わ、わかりました」
この溜めに溜めた魔力を放つためには……、
セラさんの位置、大丈夫そう。
ミルリーナ様とエルリナさん、武器に魔力を溜めている。
他の人達、誤射しない場所にいる。
撃つ分には問題なさそう。
「それでは、行きます!」
電気の魔力を空に打ち上げる。
打ち上がった魔力をコントロールして大厄災の獣の頭に思いっきり電気の魔力をぶち当てた。
セラさんの炎をまとった蹴りが飛び、銃声が鳴る。
エルリナさんの2丁拳銃だろう。
セラさんには当たらないような場所に当てている。
そして、ミルリーナ様の火の魔術が出た。
複雑ではあるけれど、そこまで魔力の強さは感じられない。
……衰え、かな。
いや、全体を焼いている。
封印の氷を溶かしているんだ。
「さあ、全員好きに戦いなさい! 人数が多いから周囲に気をつけるのよ!」
ここからは特に指示はないらしい。
さて、どうしよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「この大厄災の獣! 体が再生しています! どうしますか、ミルリーナ総長!」
「関係ないわ! とにかく攻撃よ!」
結局、昨晩ヴィクトールに言われた通り程々の電気の魔力で戦うことにした。
手抜きなのを指摘されたら、今日は1体以上の大厄災の獣を倒すとのことなので次に備えて魔力を節約したとでも言えば良いだろう。
この大厄災の獣、再生するけれど、どんどん脆くなっている気がする。
とにかく攻撃していけば倒せるだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
大厄災の獣の触手が再生しなくなった。
もうすぐ倒せそうな気配もする。
治療魔術もそれなりに使ったけれど、もう使わなくてよさそうだ。
全体を見渡すと墨で汚れて洗い落としたりしてびしょ濡れになっている人や魔力が残り少なくなってしまったのか退避している人がいる。
退避しているのはセラ様だ。
なにがあったのか聞いてみよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
セラ様は別に魔力切れでもなんでもなく、悩んでいるようだ。
戦闘中に、とは思わなくはないけれど、格闘で戦うには剣が当たる危険性がある以上、セラ様は近づけないのだろう。
「……フユミヤ、どうしたの? 私はなんともないわよ?」
「いえ、悩んでいそうな風に見えたので、武器、ですかね?」
「そうよ〜。装身具での戦いあのように戦うの中々難しいのよね〜。杖に切り替えようかしら?」
「装身具は近接で戦う武器だからこうやって大人数でで戦うことになると、手出しがしづらいのよね〜」
「セラ様は杖、持っていないのですか?」
「そうね〜、昔使っていた杖なら王城にあるけれど、今は、ね」
「なるほど……」
そういえばヴィクトールとセラ様は魔術士をしていた頃があるんだっけ?
どうして前衛を選んだかはわからないけれど、今はバランスが悪いのは事実だ。
攻撃できていない以上は武器は変えてもらった方がいいだろう。
「そろそろあの大厄災の獣が倒されそうね〜。倒される瞬間を近くで見てみましょうか」
「そうですね」
セラ様と一緒に大厄災の獣の下へ向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
大厄災の獣はもう動かない。
わずかな身動ぎさえもしないので、念のため電気の魔力を当てておく。
「終わったか……?」
「大厄災の本体の獣の魔力の気配が感じられないのでおそらく倒せたかと思います。こんなに早く終わってしまうとは思いませんでした」
「で、こいつはどうなんだ? 再生すればするほど魔力壁膜が弱くなって魔力の真髄にたどり着いていないやつでも攻撃が普通に通ったぞ」
「大厄災の獣にも様々な性質がある、ということなんですかね?」
「大厄災の獣、戦っていないのもあって不思議な部分が多いわね……。今回は倒しやすい部類であったのではないかしら? フユミヤちゃんからしたらどう?」
「…………今までの大厄災の獣との戦いでは電気の魔力を当てていただけなのであまり違いとかはわからないです。ごめんなさい」
こういうのは魔力の真髄に目覚めていない人達に聞いた方が良いと思うけど……。
「俺は倒しやすかったと思います。攻撃を与えれば与えるほど、再生能力と魔力壁膜も弱くなっていったので、おそらく魔力の真髄に辿り着いていない者でも戦いやすかったかと思います」
「なるほどね……。大厄災の獣が硬貨に変わったわ。リーフ硬貨と違うのかしら?」
「はい、違います。基本的に1番攻撃を加えられた人がその硬貨を得られます。いつもは飛んでくるはずなんですけど、今回は多くの人達が戦ったので、2人か3人、その硬貨を得る資格があるはずです」
試しに私が今回倒したタコもどきが描かれている記念硬貨に触れる。
……反発する感覚がない。
これでも手を抜いたんだけれど……。
「フユミヤちゃん、それを私に渡してくれるかしら?」
「はい。…………渡せませんね」
「反発があるのね。得る資格がないとこういったことになるのは変わった性質ね。それじゃあヴィクトールに渡してみてくれる?」
「わかりました」
ヴィクトールに近づいて記念硬貨を渡す。
ヴィクトールには渡せたようだ。
「ヴィクトールにはあるのね。他の人にも渡せるかしら? とりあえず、全員試したいから戦闘に参加した子はヴィクトールの前に並んで!」
……ルルエルド様とシェリラ様はあくまで万が一の事態があった時の封印を担当しているので戦闘には参加していない。
といっても試しに触った私とミルリーナ様とヴィクトール以外の9人は触れていないのでその9人が律儀に並んでくれた。
……長いな。
セラ様、触れない。
ヴェルドリス様、触れない。
ネタロー様、触る気がない。
ユーリちゃん、触れない。
ハリネルト様、触れない。
コルドリウスさん、触れない。
ゴルドルフ様、触れない。
エルリナさん、触れない。
クラリスさん、触れない。
……ネタロー様はどうかは知らないけれど、少なくともこの記念硬貨は私とヴィクトールにしか触ることができなさそうだ。
「フユミヤ、これはどうする?」
「私は複数持っているからヴィクトールが持ってて欲しいな」
「そうか。それじゃあ俺が持つからな。それにしてもこれの使い道は一体なんだろうな?」
「それはわからないかな……、なにに使えるんだろう?」
「錬金術に使えそうですね」
「錬金術か……」
この世界の錬金術はお金を魔力に変えることで様々な物を作ることができるといったものだけれど、それに使えるのかな?
……なにができるんだろう?
「試しに使ったらどうなるのでしょうか? 大厄災の獣を一撃で倒せる程の力を一時的に得られるほどの魔力に変えられませんかね?」
「待ってエル、錬金術に使えるかどうかは定かではないわ。ヴィクトールはお金を魔力に変える技は学園で学んできた?」
「学びましたが、これを変えるよりも複数持っているフユミヤに実験させてみるか、もう1体大厄災の獣を狩って予備の硬貨が欲しいところですね」
「と言ってもフユミヤちゃんはお金を魔力に変える技を知らないからもう1体狩るしかないわね……。この時間だと今日は3体狩れそうだけれど……、みんなまだ元気そうね。ヴェルドリスくん、問題ないわよね」
「あぁ! 問題ないぞ! 次はどこの大厄災の獣を狩るんだ?」
「ルルエルドくん、地図お願いできる?」
「はい、かしこまりました」
ルルエルド様は地図を広げた。
全員で見るのも良くないので、離れた場所にいることにした。
「ねぇフユミヤ、少しいいかしら?」
セラ様が声をかけてきた。
どうしたのだろうか?
とりあえず頷いた。
「私も魔力の真髄に辿り着きたいのだけれど、いいかしら?」
「……今ですか?」
「今でいいの。急いでやってくれればそれでいいわ」
「…………」
地図を囲んでいる人達の方を見る。
少し時間がかかりそうな気がするけれど、なるべく時間を無駄にしないようにするには今すぐにやらなければならない。
「わかりました。急ぎます」
「ありがとうフユミヤ。それじゃあお願いできるかしら?」
セラ様の両手に振れて魔力を急いで流す。
装身具の方は付けていても問題はないので、そのままにする。
ただ急ぐ分、セラ様はとても苦しくなってしまうのではないだろうか。
それだけが心配だ。
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