第18話 夜道の獣もタダの雑魚
エルトの町を歩きながらヴィクトールさんとセラさんの魔力の気配を探る。
町を歩いているような普通の人は魔力が少ないのか、気配としては弱めだ。
だから強い気配のような物を探せばいいんだけど……、ここからは遠そうだ。
「ここはナンドリス街道側の場所に戻りませんこと? 最終的にはヌンド村に戻りますし……」
「そうだね。ナンドリス街道側に行こうか」
「そっちは全然違う道ですわ! こっちですわ!」
適当に選んだ道は違かったようだ。
残念……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
あと数歩歩けばナンドリス街道、というところでボケーっと突っ立って待っているとセラさんが来た。
「……フユミヤとユーリはここにいたのね〜。時計屋は見つかった?」
「飲食店で聞いたところこの町にはない、とのことでしたわ〜」
「あら、そうなの? それじゃあお兄様には言っておかないとね〜。すぐ連れて戻るから待っているのよ〜」
「わかりましたわ〜」
ユーリちゃんの返事と同時にセラさんは人混みの中に溶け込んでいった。
それにしても、町の中へ行く人が多いな……。
「もう夜が近いですわね……」
「そうなの?」
「この世界、太陽が存在しないのでわかりにくいですが、夕方に近しい時間がしっかり存在しますわ」
「そうなんだ……、わかりにくいね」
「徐々に暗くなっていっていますのに、それがわからないなんて不思議な体質ですわね……」
「光の魔力が悪い方向に働いてるからだと思うよ。実は夜だけ目が光っている、なんてことはないか……」
「光ってますわよ?」
「嘘でしょ……」
適当に言った冗談が本当に起こっているなんて……。
光の魔力があるから……?
「真面目に光っていますわ。今も若干……」
「エッ」
「お前達待たせたな。どうした?」
「フユミーさんの目が夜になってくると光っているといったことを話していましたの」
「事実を話してどうしたんだ?」
「エッ」
「フユミーさんは知らなかったみたいでこのように驚かれていますわ」
「知らなかったのね〜。そんなに驚いていないでそろそろヌンド村に戻りましょうか。戦う準備をして、ね?」
杖をすでに持っている私と装身具が武器のセラさん以外は、携帯用に小型化している武器を大きくして戦う準備を整える。
この技術、どうなっているんだろうなー……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ナンドリス街道に足を踏み入れてしばらくして、大量の魔力の気配がして立ち止まる。
「フユミヤ、どうした?」
「結構細かい魔力の気配が数え切れないくらいあるけど、これが夜の厄介なところ?」
「そうだ。怖いと感じたり不安を感じたりするか?」
「全然、そういうのはないけど……」
「なら問題なく戦えるな。行くぞ」
「うん……」
こっちに向かってきているような気がするからいつでも魔力を出せる状態にしておかないと。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……厄災の獣、数体見えたけど」
「もう見えたのか? まだ攻撃するのは待ってくれ。せめて俺達の誰かが一撃でも加えたらやってくれ。食料を増やしたい」
「わかった」
独りよがりで戦うと魔石が出るとはいえ、囲まれかけている中でこういう調整、余裕がないと難しいような気がするけど……。
「フユミーさん、ここはわたくしの後に攻撃してくださいまし、なるべく全部に魔術を当てるつもりでいますが、討ち漏らしはお願いいたしますわ」
「わかった」
「焦らないでいいのよ〜。ここら辺の厄災の獣は明るいうちのヌンエントプス森林の厄災の獣の強さと変わりはないわ〜」
それがたくさんいるの、結構問題なような……。
「セラ、行くぞ」
「わかりました、お兄様! 2人共、気を付けるのよ〜!」
「気をつけますわ〜!」
ず、ずいぶんと気が抜ける会話だけど、良いのかな?
「……さて、戦闘開始、ですわね。今回の厄災の獣は推定20体ほど、空を飛んでいるのもいますわね。」
「それって結構問題なような?」
「ですので空の厄災の獣からまずは仕留めますわっ」
ユーリちゃんが風の魔力を空を飛んでいる哺乳類様の厄災の獣数体に飛ばす。
あっ、落ちた。
まだ、生きているように思えるけど……。
「あれらは放置でいいですわ。飛べなければ対して動けませんもの。次は今のやつ以外全てに当てますわ。フユミーさんはわたくしの後に続いてくださいまし」
「わかった」
ユーリちゃんが魔力を放つのに遅れて私も魔力を飛ばす。
遅らせたけど、私の方が着弾が若干早い。
放置していいとは言われたけど、飛べなくなった厄災の獣にも魔力を当てとこう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
発声なり、息を吐くなりしないと飛ばせない魔力をユーリちゃんの魔力の気配がする場所に遅れて飛ばして早数分。
魔力の気配が私達以外していないような、そんな感覚がする。
これで、厄災の獣は無事に仕留められたのだろうか?
「さあフユミーさん、次は魔力中和をしますわ!」
「わかった」
魔力中和をしつつ、ボテボテと落ちている塊肉を拾っていく。
見事に塊肉ばかりだけど、これいつかは全部食べるのだろうか……?
「お待ちになってフユミーさん! 肉はわたくしが保存魔術をかけますので、完了次第、その鞄に入れてくださいまし」
「……うん、お願い」
保存魔術には土の魔力が使われるから、今はユーリちゃんを頼るしかない。
こんなに量があるなら時間がかかりそうだけど、残念ながら私は何もできないのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「フユミヤ~、ユーリ~、そっちは片付いたかしら~?」
「厄災の獣は片付きましたわ。魔力中和は完了しましたので後はお肉を保存するだけですわ~」
「ならよかったわ~。私もお肉回収してくるから、また後でね~」
「助かりますわ~」
……せめて、肉を保存することも自分でできたらいいのに。
借り物の杖で土の魔力を使っていいとは言われていないので試すこともできない。
明日杖が手に入ったら、試して変化があるかがわかったらいいんだけど……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「さあ、終わりましたわ! フユミーさん、早く行きましょう! ヴィクトール様はあちらにいますわ!」
「うん」
ボーっとしているうちに肉の回収が終わったらしい。
ユーリちゃんの後に従って慌てて着いて行く。
慌てて着いて行った先にはヴィクトールさんとセラさんがすでにいた。
……すべての後処理は終わっていそうだ。
「おっ、お前達も来たか。これで全員そろったな。拠点に戻るぞ」
ヴィクトールさんが黄色い草むらをかき分ける。
……それにしてもこの方法、か。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「よし、着いたな。……夜も更けたが、飯は食うか? それともそのまま寝たいか? どっちにする?」
……そのまま寝てもいいんだ。
生活リズム的にどっちが最適なんだろう?
「わたくしは寝たいですわ~。魔力は眠っても戻りますもの。このまま寝て朝にたくさん食べればいいと思いますわ~」
「だそうだが、セラ、フユミヤ、お前達はどうしたい?」
「私も寝ようかしら~。そんなに魔力は使っていないもの~」
「じゃ、じゃあ寝る……。昼くらいに結構食べたし」
「ん? 食べた?」
「まあまあまあまあまあ!! ここは3人揃って寝たいとのことですし、ここはとっとと眠ることにいたしますわ~! 行きましょう! フユミーさん」
「ワーッ」
ラーメンを食べたことはそんなに言っちゃいけないことなのだろうか。
これ以上にないくらいの力で私はユーリちゃんに引きずられていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あ、危なかったですわ……、ラーメンの話は内密にする予定でしたのに……」
「……食べたこと? ラーメンの存在?」
「両方ですわ! 食い意地が張っているとからかわれたくないですし、ラーメン自体の説明が面倒ですわ! そもそもこっちで呼ばれている名前とは違うとのことでしたのでここは誤魔化さなくては……」
「……そういうことか。じゃあ隠してよかったね」
「ですわね。……今日はとっとと寝ますので全身洗浄かけますわよ」
「ぼぼぼががび……、いつもありがとう、ユーリちゃん」
「いいえ、お気になさらず。おやすみなさいませフユミーさん」
「うん、おやすみー」
部屋から出ていくユーリちゃんを見送って、ブーツを脱いでベッドの上に横になる。
今日はもう寝よう。
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