第31話 捜索隊は珍道中

 レーシアさんの後を追い続けて向かった先はフォルトゥリア山道に続く外壁のある場所だ。

 ここにいかないことには捜索もできないけれどどうして立ち止まっているんだろう?


「さて、銀髪モサモサ、あなたが前に出なさい! アタシとアルゴスに前衛は無理よ! 殿しんがりは黒毛女ね! あの5つ首の厄災の獣を倒したんだから十分戦えるわよね?」

「……多分?」

「多分ってなによ!」

「離れた距離から奇襲したくらいで、正攻法かというと……」

「正攻法がなによ! 奇襲でなんとかなるくらい強いんでしょう!? せいぜい背後の厄災の獣に気をつけてなさい!」

「……わかりました」


 納得はいかないけど、殿しんがりか……。

 はぐれないようにしないとな。


「真ん中はアタシとアルゴスよ! この並びでいいわよね!?」

「は、はい……」

「じゃあ決まりね! とっととアタシ達の大切なものを取り戻すわよ!! 銀髪モサモサ! 前を行きなさい!」

「はいはい……」


 ……捜索隊のリーダーはレーシアさんのようだ。

 ヴィクトール様がこの国の王様の弟と知ってしまったら彼女はどういう反応をするのだろうか。

 ……私からは言うつもりはないけど。








◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 フォルトゥリア山道に入った。

 今のところは厄災の獣の気配は感じないけど、ちょっとヴィクトール様の歩く速度が速いような……?

 レーシアさんとアルゴスさんはついていくのでやっとなのか小走り気味になっている。

 アルゴスさんはふらついているけど……。


「ちょっと! 銀髪モサモサ! 足早すぎるんだけど!? もう少しゆっくり歩いてくれる?」

「もう少しゆっくりって……、お前ら追いつけているじゃないか?」

「追いつくのに必死なの〜! 見なさい! アルゴスの今にも倒れそうな歩き方!」

「ぼ、ぼくは大丈夫ですから……」

「……これはゆっくり歩かないと、だな。悪かった。少し気をつける」


 ヴィクトール様は事態を把握したのか、ゆっくり歩き始めた。

 このくらいならちょうどいいのかも……?








◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 しばらくしてヴィクトール様の歩く速度が元のスピードに戻ってしまった。

 歩く速度って簡単には変えられないよね……。


「銀髪モサモサと黒毛女! 交代しなさい! モサモサの歩きは早すぎる!」

「おいおい、前衛が前を歩かなくてどうする?」

「黒毛女が奇襲すればいいじゃない? 数が多ければ私達も戦うの!」

「……フユミヤ、魔力の気配に注意を払っておけ。気配を感じたらすぐに報告しろ。奇襲をかけるかどうかは俺が判断する」

「……わかりました」


 そんな悠長でいいのだろうか?

 厄災の獣が見えたらすぐに攻撃でいいような気もするけど、指示は聞いておこう。

 危なかったら指示は無視して攻撃、かな。


 ヴィクトール様がこちらに来たので交代する形で前に出る。

 この世界に来てから1番前に出るのは初めてだけど、うまくいくのだろうか……?








◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 しばらく歩いたけど、今のところは特になにも文句は言われていない。

 ……あっ!

 魔力の気配がする。

 ずいぶん弱いけど、いるからには報告した方が良さそうだ。

 振り返ると、思ったより近くにヴィクトール様がいた。

 そのすぐ前にはレーシアさんとアルゴスさんがいる。


「黒毛女、急に振り返ってどうしたわけ?」

「厄災の獣の気配だろう? 見えるまで進んでくれ」

「弱い反応が2体くらいいますが、奇襲はしますか?」

「見えたらすぐにやってくれて構わない。とりあえず進むんだ」

「……わかりました」


 一応、魔力を当てようとすれば当てられる。

 そんな位置にいるけど、そういうことをしようとすると止められる。

 人間の可能性もあるからかな?


「は? 厄災の獣の気配ってどこに? アルゴス、わかる?」

「レーシアがわからないならぼくもわかりません……」

「もう少し近づいたらわかるさ。フユミヤ、レーシアかアルゴスのどちらかがその魔力の気配を感じられるくらいの距離まで近づいてくれ! 見えていてもだ!」

「わかりました」


 下手すれば相当近づく可能性もありそうだ。

 大丈夫なのかな?








◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 結構近づいたし、魔力の気配も増えてきた。

 大丈夫なの? これ……?

 振り向いて報告しようとしてもまだ2人はわかっていないらしく、ヴィクトール様は首を横に振る。

 最初の2つの気配に近づける余裕はまだあるけど、そろそろ見えてもおかしくないはず。

 とりあえずいつでも撃てるように杖に魔力は溜めておこう。

 とりあえず光で。








◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 そろそろ気づかれてもおかしくない距離にまで近づいた。

 さすがに見えてるしそろそろ2人も気づいていいんじゃ……?


「……2体分の魔力の気配はしたけど、普通に強めの気配じゃない! この気配でいいの!?」

「だ、ダメですって大声は……! 気づかれますよ……!」


 ……厄災の獣が現れた。

 岩に擬態しているけど青い色だったり緑色だったりで全然擬態できてない2体。

 転がりながら近づいてくるけど、このくらいの速度なら余裕!


 魔力を近くの青い方に撃って、余ったのは緑色に飛ばす。

 緑色は鈍い動きながらもまだこちらに近づいて来る気はあるらしい。


 ……属性を変えるか他の人に変わらないと肉にならないんだっけ。

 火の魔力、やってみようかな……。


「そこの2人驚くな。厄災の獣はまだ生きているぞ」

「わ、わかってるわよ! とっととこうすりゃいいんでしょう!?」


 レーシアさんが火の魔力で緑色の岩もどきを攻撃する。

 レーシアさんから出てくる火、赤紫色なんだ。


「アルゴスもやりなさいよ! 2体ともまだ倒せてないわ!」

「わ、わかってます! これでいいですか!?」


 アルゴスさんが杖から出したのは尖った岩のようなものだ。

 その尖った岩は分散して青いやつと燃えている緑色のやつにぶつかる。

 この厄災の獣、倒したと判断するにはどうしたらいいんだろう?


「……やったな。それじゃあフユミヤ、魔力中和を頼む」

「……倒したこと、どうしたらわかるんですか?」

「臭いだな。結構するが……、わからないのか?」

「全然わからないです」

「……その妙な体質にも困ったものだな。なんとかなればいいんだが」


 でも臭いんだよね。

 嗅がなくていいのならそれはそれでいいのかもしれない。

 頭痛くなりそうだし……。


「黒毛女、厄災の獣を倒した後の臭いもわからないわけ? どうやって今まで生きてこれたのよ!」

「どうしてですかね……?」

「わからない以上は仕方ないと思います。……ところで“魔力中和”というものはなんでしょうか?」

「聞いたこと、ないのか?」

「はい、ないです。レーシアもないですよね?」

「そんな単語、全ッ然聞いたことないわ。他の魔術士もしていないんじゃあないの?」

「……そうか。これは大事な後処理だから覚えておいたほうがいいぞ。今回は俺もやる。フユミヤ、火の魔力での魔力中和はできそうか?」

「……光の魔力でしか魔力中和をしたことがないです」


 火の魔力で魔力中和ってどうすればいいんだろう?

 焼畑農業みたいに地面を焼けばいいのかな?


「とりあえず、地面を焼いてみてくれ」

「わかりました」


 ……焼畑農業形式でいいんだ。

 この場所に草なんて1本も生えていないから山火事にならなくて良さそうだけど。

 火の魔力で地面を焼く。

 特に反応もなさそうだけど……、これでいいのだろうか?

 光の魔力をばらまく時よりかは抑えめの早さで火の魔力を厄災の獣の死骸周囲にばらまいてみる。

 いつもは厄災の獣が肉とか魔石とかになってから魔力中和をしているけど、今回は手本を見せる意味合いもあってこのタイミングでやっているのかな?


「あっ」


 厄災の獣の死骸が跳ねて一瞬で肉塊に化けた。

 種も仕掛けもないのに死骸がこんな風になるの?

 ……怖くない?


「フユミヤ1度魔力を止めてくれ。このままだと肉が焼ける。その前に保存できるようにしたい」

「わかりました」


 杖から魔力をばらまくのを終わらせる。

 火の魔力だと肉、焼けちゃうんだ……。

 狩り立てホヤホヤ肉っておいしいのかな?

 ……味が毎回違うからそんなはずはないか。

 まずい味だってあるもんね。


「肉の保存ですか? ぼくも手伝います!」

「ああ頼む。俺はこっちをやるからアルゴスはそっちをやってくれ」


 肉の保存を始めたヴィクトール様とアルゴスさん。

 ……まだ厄災の獣らしき魔力の気配は結構するけど、大丈夫なのだろうか?

 ……というより進んでいる方角、なにも突っ込まれてないけど、どんどん魔力の気配が増えていっているような?

 こんなゆるくやっていて大丈夫?


「さて、保存が終わったな。肉は誰が持つ?」

「保存した人が持つ、で大丈夫だと思います。さすがに鞄いっぱいにお肉が入ったら頼りますけど、“ものがそれなりに入る”鞄でも結構入りますから!」

「アルゴス、当然宿の食事場所に寄付するのよね?」

「当然ですよ! ただ焼いただけの肉なんて当たり外れが多いんですから……」

「まっず〜い肉の味をなんとかできるチョドフがいるから毎食食事が楽しみなのよね~!」


 ……宿の食事、おいしいお肉を厳選しているのかと思ったら、味をなんとかする方法があるらしい。

 それは驚きだ。

 その方法を是非教えていただきたいところだけど、きっと企業秘密なんだろうな。


 それはそれとして、魔力の気配がだいぶ近い。

 そろそろ魔力の気配を狙って攻撃してもいいのだろうか。

 コルドリウスさんのような例外でなければ、空を飛んでいるのなんて鳥か厄災の獣くらいだろう。

 鳥なんてこの世界で1度もみたことないけどね……。

 殺さない程度に一撃くらいはやってしまおう。

 人間だったら詫びて治療魔術をかければいい。

 ……それは人道的に良くないか。

 大人しく見えるまで杖に光の魔力を溜めて待っていよう。


「うん、厄災の獣」


 遠慮なく魔力を翼にぶち当てて厄災の獣を地面に這いずらせる。

 付け根の部分を狙ったから飛ぶことは叶わないだろう。

 とどめを刺したいところだけど……。


「残り、4、5、……6? 群れだったのかな?」

「戦う準備をしてくれ! 結構来てるぞ!」

「ど、どこからですか」

「相手は空を飛んでいる! 上を見ろ!」

「ふ、ふーん……、結構強い気配じゃない……」


 ここにいる人間は4人しかいないので不利な要素を潰すために3体にあらかじめ攻撃する。

 別に全ての厄災の獣に攻撃してもいいけど、魔力の節約とまだまだこの先にいる魔力の気配を相手することを考えると全力で戦うのは良くないだろう。

 ポテポテと地面に押していくコウモリのような翼がやけにでかくてどこに感覚を受け取る器官があるかわからない厄災の獣達は放置して、ヴィクトール様含めた3人の様子をうかがう。

 ダメそうなら横槍を入れさせてもらおうかな。


「飛んでいる厄災の獣とは戦ったことはあるか?」

「あ、あるけどこんなに強くはないわよ! どうなっているのよ! 今までは全然別物になっているじゃない!」


 ……どうやらこれは通常のフォルトゥリア山道に出てくるような強さの厄災の獣ではないらしい。

 なぜかヴィクトール様達の上空周辺をぐるぐる回っている残り3体の厄災の獣に電気の魔力を軽く当てる。

 どれくらい魔力を込めれば痺れるのかといった検証も兼ねて。


「い、1体落ちました。飛ぼうとしてますけどこれって……」

「今は無視でいい、とりあえず落ち着いて2体の相手はできるか?」

「できるに決まっているでしょう!? モサモサも適当言っていないで戦えるところ見せなさいよね!」

「味方に当たることが怖いですけど、がんばります!」


 動揺も収まっているし、多分大丈夫だろう。

 私は落ちた厄災の獣にとどめを刺しに行くか。

 陸上歩行の生き物のような魔力の気配が近づいてきているような感じはするし、まだまだ油断はできないね。








◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 厄災の獣達へのとどめを刺し終わり、ヴィクトール様達の様子をうかがっている最中、最初にとどめを刺した厄災の獣の死骸がボロボロの金色の腕輪に変わった。

 これは一体なんだろうか?


「やっ、やったわ! 強い魔物相手でもなんとかなるものなのね!」

「いえ、フユミヤやヴィクトールがいなかったらぼく達、死んでましたよ……? 本来は7体いましたよね、……こんなにしぶといのが来られたら一方的にやられてましたよ」

「そんな弱音を吐いてどうなるの! 今は黒毛女と銀髪モサモサがいるからいいでしょう!?」

「……フユミヤ、どうした?」

「これ、腕輪のように見えるけど、厄災の獣が装飾品のような物を落とすことってあるの?」

「どれどれ……?」

「腕輪、ですって……!? 見せなさい!」

「ぼくにも見せてください!」


 腕輪に心当たりがあるのか全員が腕輪発見現場に近づいてくる。


「これ、テスリカかキルクトの腕輪です……。どうしてこれが厄災の獣から……?」

「待て、触るな! 魔力中和で綺麗にしてから触れるんだ。厄災の獣から出てきた以上、触るのは危険だ。フユミヤ、光の魔力で魔力中和を頼む」

「わかりました」


 どうして厄災の獣から腕輪が出たのか納得がいかないまま、とりあえず光の魔力を腕輪に当て続ける。

 ただ光の魔力を当てるだけでいいのだろうか?

 水でよく洗った方が……、というのは地球でのことだった。

 魔力を当てればなんとかなるのだろう。

 ……たぶん。

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