第66話 私の幸せの答え
アーデルダルド湖畔についたけど、厄災の獣が少しいる。
クラリスさんの武器の試し切りくらいはしてもいいのではと思うけど……。
「ルプア、あの厄災の獣でクラリスさんの武器の試し切りはしてもいいんじゃないかな?」
「……一撃だった場合魔石になるからね、フユミヤちゃんが少し攻撃してこっちに注意を惹きつけたらクラリスちゃんが戦う、でいっかな。2人共、それでいい?」
「うん」
「はい!」
「それじゃあ、フユミヤちゃんからやっちゃって!」
光の魔力を紫色の半魚人もどきにぶつける。
半魚人もどきはこちらに気づいて走ってきた。
「それじゃあ行きますか!」
クラリスさんが魔力武器を持って半魚人もどきに向かって走っていった。
……剣ってこのくらいの距離じゃないと戦えないんだよね。
相当勇気がないとできないことだ。
「せやァ! ……一撃であっさり切れちゃうんですね! 今までと全然違いますよ〜!」
クラリスさんが半魚人もどきに注意を向けながらこちらに話しかけてくる。
試し切りも上手くいったようだ。
「それじゃあ試し切りもうまくいったことだし、湖の中央に行きましょうかね。コルドリウスくん、クラリスちゃんは飛行状態で運べる?」
「……試したことはありませんが」
「まあ、最悪アタシが往復になるけど飛べない2人を運べばいいか。フユミヤちゃん、運ばれる覚悟はできてる?」
「できてるけど……」
「ならば良し! 抱えるよ」
背中から翼を生やして飛ぶこともあり、ルプアはいつも私をお姫様抱っこで運ぶ。
もう慣れてはいるけど、体格差あるのによく運べるよね。
身体強化をかけているのかな?
「コルドリウスくん、クラリスちゃん運べそう?」
「恐らくは」
「まずは飛べるか試してみて!」
「わかりました!」
コルドリウスさんが翅を生やしてクラリスさんを抱えて飛んだ。
「行けそう?」
「長すぎなければいけるはずです!」
「ならば良し! ユーリも飛ぶ準備できてるよね?」
「わたくしは十分できてますわ!」
「出発するよ!」
その一言と共にルプアは羽ばたいた。
……封印されし大厄災の獣とついに戦ってしまうのか。
ルプアと私はともかくとして、ユーリちゃんにクラリスさんにコルドリウスさん、大丈夫なのかな?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
空を飛び続けて数分、私達は封印されし大厄災の獣、凍りついた大木の前に着地した。
「さて、これが今回アタシ達が戦う封印されし大厄災の獣になるね! 感想はどう?」
「植物系の厄災の獣はたたでさえ厄介だと言うのに、それが大厄災の獣になるとは……」
「兄上、そんなに植物系の厄災の獣って厄介でしたっけ?」
「耐性がある俺達はいいが、もし敵味方の区別がつかなくなる花粉でも放たれた場合、大変なことになる。フユミヤの魔力が俺達に飛んできたら……」
「……なら風の魔力でフユミヤが花粉を取り込まないようにしなければいいんじゃない? ユーリ、できそう?」
「……できるとは思いますが、その前に少しは吸ってしまうと思いますの。何回も防げるとは思いませんわ」
「……回数制限ありね〜。フユミヤちゃんは花粉対策でこれと距離とってもらおうか。気休め程度だけど」
そんな軽いノリで大丈夫なの?
でも敵にするべき相手はわかっているのに、敵味方の区別がつかなくなるってどういうことなんだろう?
……とりあえず花粉には注意、だよね。
「それじゃあ、全員戦闘準備! アタシが封印解き始めたら凍っていない場所に攻撃していいからね」
杖に電気の魔力を溜める。
……本当に始まってしまうのか。
「それじゃあ! いくよ!」
ルプアが封印されし大厄災の獣の封印の氷を溶かし始める。
もうためらってはいけない。
戦わなくては。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇Side【???】
悪夢から飛び起きたかのように体が跳ねる。
僕はなにも見ていないというのに。
まさか、
「アレの封印が解けた……?」
まずは今代の当主に事情を説明しなければ。
10年に1度は目を覚ましているから面識はあっていいはず、解かれてはいけない封印に関しても説明はしているからすぐにでもその場所に行けるはずだ。
知っている魔力の気配は……、執務室か。
急ごう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇Side【フユミヤ】
封印が解けた。
今回の封印されし大厄災の獣、この大樹は色とりどりの葉を持っていた。
虹色と呼べるほど、たくさんの。
「封印解けたてだから動きは鈍いよ! 攻撃できるうちに叩き込んじゃって!」
「……ルプア、武器が変わっているけど」
ルプアが使っていたの、弓じゃなかったっけ?
でも双剣の刃は弓の物と同じだ。
弓が剣になることってあるの?
「これは変形魔力武器。弓にもなるし双剣にもなるってね! さあ! 攻撃攻撃! 厄介なことになる前に叩けば問題なしってね!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
とりあえず、電気の魔力を溜めては打ち、溜めては打ちを繰り返す。
なんかこの大厄災の獣、
「いつもより固くない?」
「気のせいじゃないの? まだ大厄災の獣に動きはないからやるだけやっちゃって!」
「う〜ん……」
……凍っている部分はほとんどなくなっているのにもかかわらず、この大厄災の獣が動く気配はない。
一応電気の魔力でぶち折れるところはぶち折っているけど、そろそろ動きがあっていいような?
「わたくしもフユミーさんみたいに電気の魔力が使えましたけど、2、3回しか使えませんのね!」
「そりゃあ1日すれば抜ける魔力で魔力の真髄の威力で使ったらそうなるに決まってるでしょ。ユーリは風の魔力で攻撃してれば?」
「悔しいですわ! この大厄災の獣を早く伐採してやりますとも!」
ユーリちゃんは癇癪を起こしながら大厄災の獣に風の魔力をぶつけている。
……動きがないのならいいのかな?
とりあえず、私以外の攻撃で脆くなってきた場所を電気の魔力で伐採しつつ、極太の幹にも電気の魔力を当てる。
大厄災の獣と呼ばれているとはいえど、木であるからにはこの攻撃方法でいいはずだ。
多分。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
攻撃されているのにも関わらず、大厄災の獣の動きが一切ないのが不気味だ。
今までの大厄災の獣にはなにかしらの動きがあったけど、この大厄災の獣はまだ動いていない。
……一体、なにをしてくるのだろうか?
「兄上、全然攻撃が効いてませんね……。これが普通の武器と魔力武器の違いなんですかね?」
「そうだろうな……。俺も魔力武器に変えたかったが……」
「できなかったことは諦めて今はとにかくこの大木を切りつけましょう。……この大厄災の獣はなにをしてくるんですかね?」
「封印されていた以上は厄介な性質を持っているはずだ。力押しで本当になんとかなるものなのか……?」
地面には大量の色とりどりの葉がついた枝が落ちている。
それらは本体から離れたら脆くなるのか踏めば亀裂が走り、バラバラになる。
幹の方は切れ目が入ってきたが、伐採できる気配はない。
まだまだ攻撃を加え続ける必要がありそうだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
虹色だった大樹が、今ではただの冬の街路樹より酷い状態だ。
葉が散って、枝が折られて、幹にも傷ができてあと少しで折れてしまいそうだ。
「……っ、足元! なにか起こる!」
「足元……」
突如、足元にある大量の色とりどりの葉がついた枝が輝き始めた。
……魔力の気配としてはあるけど、これは一体どんな魔力だろう?
「ユーリ、風の魔力! 全員鼻と口を塞いで!」
色とりどりの粉が舞うのを見て目も閉じる。
葉っぱが粉々になって虹色だった。
粉を吸わないための風の魔力なのか強い風が吹いている。
……魔力を使うには喉周りが少しでもいいから震えている必要があるけど、現在風の魔力を使っているユーリちゃんは大丈夫なのだろうか?
風の魔力が収まったので目を開ける。
……あの大木からは色とりどりの花が全面に咲いていた。
あの葉みたいな色だ。
服を叩けばまだ粉はついているけど仕方ない。
木の幹はあと少し頑張れば折ることができそうなので電気の魔力を当てよう。
「……ユーリ?」
「お師匠様! ごはんはまだですの?」
「まだに決まっているでしょう。この状況、わかってる?」
「……大きな木がありますわね。ピクニックにちょうどいいのではないのでしょうか?」
「フユミヤちゃん、治療魔術」
「わ、わかった」
ユーリちゃんの記憶がなくなっている?
やっぱりあの粉は良くない粉だ。
まずは治療魔術が先だね。
……この状態、治せるの?
とりあえずユーリちゃんに治療魔術をかける。
今あるべき状態に戻るように。
「…………あの木の粉、ヤベェやつですわよ。戦意を削がれますわ」
「……燃やせないのかな?」
「植物系の厄災の獣にそれは有効かもしれないけど、周りの被害も考えると勧められないね。全員燃えそう」
「……普通に攻撃するしかないのかな」
「ま、それしかないでしょう。虹色の粉に関しては風の魔力持ちが1人犠牲になるけど治療魔術かければ問題ないし。この大厄災の獣は簡単に倒せそうだね!」
「本当なんですかね……」
楽観的なルプアと冷静なコルドリウスさん。
……でも封印を解いてしまった以上は倒すしかない。
今はとにかくやるしかない。
電気の魔力を再び杖に溜め始めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
花を電気の魔力で灰にし続けること数十分。
まだこの大厄災の獣は倒れそうにない。
真ん中のところに中々魔力が届かないからだろうか。
ここは私が近づいて直接魔力を当ててみようかな……。
「……フユミヤちゃん、なに考えてるの?」
「幹の部分、後少しで折れそうなところで止まっているからこうなったら直接当てに行こうかなって」
「……まあ魔力を直接当てた方が有効ではあるけど、大丈夫なの? 倒す方向とか……」
「なんとかしてみる」
「……うーん、とりあえずクラリスちゃんとコルドリウスくんの攻撃止めさせないとね」
「じゃないと危ないか」
クラリスさんもコルドリウスさんも懸命に攻撃している。
その中になにも言わず入ってしまうと切りつけられてしまいそうだ。
「クラリスちゃん! コルドリウスくん! 1回攻撃を中断! ユーリも! 今からフユミヤちゃんがあの大厄災の獣に直接魔力当てるから1回下がって!」
「……主様にそんなことさせるんですか!? 危ないですよ!」
「とりあえずやるだけだから1回下がって。うまくいかないこともあるわけ。ダメだったらひたすら攻撃する。これで良くない?」
「そうですが……」
「まあ、攻撃止まってるし……、フユミヤちゃん! やるならやっちゃって!」
「うん」
傷つけた幹の方へ駆け出す。
ここに直接魔力を流せば少しは楽になるのではないだろうか?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目的の場所へ辿り着いた。
後は電気の魔力を流した杖を思いっきりこの傷に刺せば……。
「えいっ」
杖を傷つけた幹に刺し込み、電気の魔力を思いっきり流す。
「こ、粉々になってますわ!」
「っ、風の魔力! フユミヤちゃんに飛ばさなきゃ!」
ルプアの風の魔力で作られた強風が私の方に吹いてくる。
……この大厄災の獣の粉は気をつけないとか。
目を閉じると共に、粉のついた左手でこれ以上粉を吸い込まないように鼻と口を押さえる。
ルプアの風の魔力を浴びながら大厄災の獣に電気の魔力を流し続ける。
粉々になっているとのことなので効いてはいると信じて。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…………あれ? …………終わったの?」
杖を動かしても空を切るばかりでおかしいと思って、目を開ける。
記念硬貨を残して大厄災の獣は消えていた。
「ルプア、倒せたけど……」
「うん、記念硬貨落ちているから大丈夫だね。……フユミヤちゃん、大丈夫?」
「大丈夫だけど……、粉、私には効かなかったのかな? 粉のついた手で鼻と口押さえたりとかしたけど」
「念の為、洗浄魔術と治療魔術かけよっか」
「うん、お願いします」
ルプアが強風で飛ばしてくれたとはいえ、細かいところに粉はついている。
洗浄魔術ならまとめて流せるはず。
「じゃあやるよ。外側だけ」
「うん」
目を閉じてルプアの洗浄魔術を受け止める。
すぐに水は離れたので目を開けた。
視界は特に問題はない。
…………でもなんだろう、この違和感?
「フユミヤちゃん、どうしたの?」
「……いや、私の幸せってなんだろうねって、思って」
「……治療魔術」
「……? ルプア、治療魔術なんてかけてどうしたの?」
「ユーリにやったこと覚えてる?」
「粉の影響があるってこと? ……でも問題なかったよ? ……お金を得ても、力を得ても、なにかで人気になっても死んだら全部なくなっちゃうわけで」
「……誰か! フユミヤちゃんに治療魔術使える!? 粉のせいでフユミヤちゃんの様子がおかしい!」
「……そう、死んだら全部意味がなくなるって思ってたの。ありとあらゆるもの全て、なのに」
「仕方ないですわね! 使いますわ!」
「これはなに? 私、死にたいから死んだんだよ? 死んだら終わって幸せになれるって思っていたの」
そっか。
私の、私の幸せって、
「……そうだよね。死ぬことが私の幸せなんだ」
「フユミヤちゃん!!」
私の幸せの正体に気づいた途端、体の機能が止まって、膝から崩れ落ちる。
今度こそ本当に私の人生は終わり、続きなんて絶対ない。
そう信じられるの。
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