第67話 失策【Sideアキュルロッテ→ユーリ】重要な昼寝
◇Side【アキュルロッテ】
早口で自分の幸せとはなにかをまくし立てた後、フユミヤちゃんが体を輝かせながら倒れた。
……この状態は一体なに?
死ぬことがフユミヤちゃんの幸せ?
…………魔力を放出しながら倒れているということはこれが続けばいずれフユミヤちゃんは、死ぬの?
あの木の粉のせい?
……アタシの失策か。
コルドリウスくんの忠告を聞いていれば良かったってこと?
フユミヤちゃんのこの異常って治療魔術をかけ続ければ治るんじゃないの?
「な、なにが起こってますの? なんでフユミーさんは倒れましたの?」
「……ユーリ、あの粉吸った時違和感はあった?」
「違和感ですか? お師匠様の料理を急に食べたくなったりたくさんのドカ盛りを食べたくなったりしましたが……」
「……ユーリにとって幸せとは食べること?」
「まあそうですが、それ以外になにがありますの?」
「……あの粉は浴びた人間にとっての幸せに辿り着くための行動を起こさせる粉ってこと?」
だとしたらユーリの行動にも、フユミヤちゃんがこうなったのにも納得できるけど、意識を失ってまで行動させるなんておかしい。
フユミヤちゃんは一体どうしてこうなっているわけ?
「……アキュルロッテ様! 主様はどうなっていますか!? 治療魔術、効かないんですか」
「……効きすぎたか」
「コルドリウスくん、心当たりあるの?」
「フユミヤには魔力による攻撃、また、それによって引き起こされる精神異常への耐性が備わっていないとわたくしは考えています。以前、セラフィーナ殿下がフユミヤに催眠香を嗅がせた際、異様なほど効きすぎていましたから」
「……催眠香って普通は抵抗すればなにも問題はないくらい薄いはずですよね? そもそもなんでそのようなものを主様に……?」
催眠香の件はユーリにしかけた印経由で実際の様子を聞いてはいるけど、たしかにフユミヤちゃん抵抗していなかったっけ。
あれは単純に抵抗の仕方がわかっていなかったからではなくて?
……いや、市販の催眠香は濃度が薄くてあえて受け入れても演技でなければあんなに
それじゃあ、フユミヤちゃんは状態がおかしくなるような攻撃が極端に効いてしまうってことなの?
「フユミヤさんの輝きを止めることはできませんの? このままだといつか魔力が枯渇してしまいますわ!」
「……無理だね。自分の魔力で発光しているし、起こさないことには」
「なら起こしますわ!! フユミーさーーーーーん!!!! 起きてくださいましーーーーーー!!!!!」
ユーリがバカでかい声で叫んでもフユミヤちゃんは起きない。
……ただ寝ているわけじゃない。
死ぬために意識を失ってこんなことになっている。
……自分の幸せが死ぬこと、だなんてどんな人生をフユミヤちゃんが送ってきたかなんてわからないけど、こうなってしまった以上アタシからできることはなにもない。
フユミヤちゃんの心の中、とかに入ることができればなにか変えられるのかもしれないけれど、私は精神に関することは詳しくないし、簡単に足を踏み入れて良い場所ではないだろう。
……アタシはフユミヤちゃんを諦めないといけないわけ?
今この世界で闇の魔力を持っているのはフユミヤちゃんだけなのに?
「お師匠様、いくら叫んでもフユミーさんが起きませんわ! ここはイーゲン亭に戻りましょう! まだ明るいですからそこまで目立ちませんわ!」
「……そうだね。戻ろうか」
戻る前に記念硬貨を拾う。
こんなもののためにフユミヤちゃんが……。
だからこそ、アタシは古代魔術を実現させなければいけないんだ。
犠牲者を出してしまったからにはもう戻れない。
今までもらったフユミヤちゃんの闇の魔力、使わせてもらうから。
足りない闇の魔力は少しでも残っていれば錬金術でなんとかできるのはわかっているから記念硬貨もまだまだ必要だ。
大厄災の獣との戦いもまた1人でやらないと。
「お師匠様?」
「なんでもない。行こうか」
光が収まらないフユミヤちゃんを抱える。
後どれくらい保つのかな?
フユミヤちゃんの魔力量、だいぶあるから数日は保つのかもしれないけど長くはない。
……できることは宿屋の中で考えよう。
今はフユミヤちゃんを運ばないと。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
イーゲン亭のレイアさんは意識を失いながら光っているフユミヤちゃんに驚きながらも予約している部屋の鍵を渡してくれた。
まだ昼と言っても良い時間だけどこの時間に宿に入れたのは
宿屋の他の客に見られることなく、泊まっている部屋にフユミヤちゃんを運ぶことができた。
光り輝いているところを変に声かけられても邪魔なだけだし。
とりあえず、フユミヤちゃんを1番左のベッドに寝かせる。
掛け布団を掛ければ光は隠れた。
魔力が籠もった光って布とか貫通するのに、変な配慮でもしているのかな。
……なら目を覚ましてほしいのに。
治療魔術を特化して鍛えていたらフユミヤちゃんの目は覚めたのかもしれないけど、アタシとユーリじゃダメだしそれが普通の治療魔術士でもダメだ。
昔の、しかも光の魔力を持った魔術士ならこういった状態も無理やり治せるかもしれないけど、その光の魔力も今生きていて持っているのはフユミヤちゃんだけだ。
どうしようもない。
「主様、起きませんね……。どうやったら起きるのでしょうか?」
「……治せる手段がない以上、もうダメかもしれないね」
「お師匠様!?」
「アタシ、治療魔術を専門的に扱えるわけじゃないから。ただわかるのはフユミヤちゃんがこのまま魔力を放出しながら寝ていれば死ぬってこと」
「……なんともできませんの?」
「魔力を分け続けていれば延命はできるかもしれないけど、あくまで延命ってだけ。自分に必要な分まで分けても自分が衰弱する。……諦めるしかないね」
「なら私、主様に魔力を分けます! 目が覚めるまでずっと!」
「……フユミヤちゃん、外からなにしても起きないからね。やってもムダだよ」
「それでも目を覚ます可能性はあるかもしれないじゃないですか!」
フユミヤちゃんはただ寝ているわけではないのに。
説明していないアタシが悪いけど、フユミヤちゃんにとって死ぬことが幸せでそのせいで魔力を放出しながら意識を失っているだなんて一体どう説明したら理解してくれるのやら。
……だって死ぬことが幸せって普通はないのに。
「そうですわね。フユミーさんの目が覚めるまで魔力を分け続けたらいつかは目を覚ましますわね!」
「……本当にそうか?」
「兄上、どうしてそんなことを言うんです? 私の主様の危機ですよ!」
「ま、フセルックの人間がなにか知っていそうだけど、治せるかはわからないかな。……ユーリ、ご飯食べる?」
「……お師匠様、それは」
「アタシ、今日ここを出ていこうかと思うんだ」
だって闇の魔力を持っているフユミヤちゃんはそのうち死んじゃうし、そうなってしまった以上もう群れて行動する必要ないし。
「なんですぐに諦めてしまいますの? お師匠様は切り替えが早すぎますわ!」
「……もうアタシにはフユミヤちゃんにやれることはないの。せめて寝ている間の夢の世界にでも入れればなにか違うのかもしれないけど、そんな場所、存在するかも怪しいし」
「……なにかの文献でその存在を見ましたの?」
「まあね。でも、その人の記憶の中で印象に残っていることだったり、願望だったりが見えちゃうらしいからやめておいたほうがいいと思うけどね」
「ならわたくし、フユミーさんの夢の中に入ってみますわ!」
「なら私も入りますよ! 主様はどんな夢を見ているのでしょうか?」
「…………やめておいた方がいいと思うけどな」
フユミヤちゃんが見ている夢は良いものではないだろう。
死ぬために見ている夢、普通の人にとっては悪夢に近しいと思うけど……。
「でも、そうしなければどうにもならないのでしょう? でしたら成し遂げなければ!」
「…………そう。なにが起こるかわからないのにやるつもりなんだ。なにがあっても知らないからね。アタシの料理が食べられなくなるかもしれないよ」
「わたくし、今はフユミーさんを助けたいですわ! 私利私欲に従うのはその後ですわ!」
「……料理、作らないで出て行くけど、いいんだね?」
「ええ! 今はそれよりも大切なことがありますもの!」
まさかユーリが食欲よりも助からないであろう人命を優先するとは。
…………出ていくと行った以上、出ていくか。
「それじゃあ、アタシはもう出るから。フセルック家のヒトがなにか良い情報を持っていればいいけどね」
「……フユミーさんを見捨てるお師匠様なんて知りませんわ」
ドスの聞いた声で絶縁宣言をされる。
ま、別にいいんだけど。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
イーゲン亭のレイアさんには自分だけ急遽別の場所に行く必要が出た、と説明して外に出る。
さて、アタシは大厄災の獣と戦わなければ。
大厄災の獣が出てきているということは4年前までのアタシがあえて行かなかった領ってことだ。
つまりまだまだ封印されし大厄災の獣はそれなりに存在しているはず。
フユミヤちゃんがいる時よりだいぶ時間はかかると思うけど、古代魔術の実現のためなら戦うしかない。
この国中の大厄災の獣を狩る勢いで狩るか!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇Side【ユーリ】
お師匠様が、いやアキュルロッテがフユミーさんを見捨てた。
切り替えの早い人だと思っていたが、フユミーさんから闇の魔力を入手できないとなればあっけなく見捨てるだなんて……。
「……アキュルロッテ様が出ていきましたが、これからどうするおつもりですか?」
「ヴィクトール様達を待ちながら、フユミーさんを生かしてみせますわ。もしかするとなにか知っている可能性がありますもの」
「ヴィクトール殿下がフセルック侯爵家の方と行動していればなにか変わるかもしれませんが、賭けに近いかもしれませんね」
「その前に解決できてしまえば問題ないですわよね!」
「……そう簡単にうまくいくものでしょうか?」
「最後まであがけばいいのですわ! なにもしないより全然マシでしょう?」
「そうですよ! 兄上もどうして弱腰なんですか? もし、今こうなっているのがヴィクトール殿下だったらどうするんです? 今と同じなんですか?」
「そんなことをするはずがないだろう! そもそもそのようなことを起こさないようにすることが1番ではあるが、このような事態になったらなんとしてでも回復の術を探すに決まっている!」
「なら、まずはやるべきことは決まってますよね。ユーリちゃん」
「フユミーさんの夢の中に入りますわ!」
体の外側からなにをしても無駄だというのなら夢といった内側に干渉すればいい。
他の人の夢の見方なんてわたしはとっくのとうに知っている。
対象の人にしがみついて多少の魔力を流し込み続ければ入ることができるのだ。
……フユミーさんは真っ暗だったけど、今なら違うのかもしれない。
「2人同時に同じ人の夢なんて見れるんですかね?」
「やるしかありませんわ! クラリスさん、他の方の夢の見方はご存知で?」
「おっ、ユーリちゃんその様子だと知っていそうですね。ぜひ、教えてください」
「寝ている人に触れて多少の魔力を流し込み続ければ入れますわ」
「……それって寝ている間もです?」
「そうなりますわね!」
「……少し、私には厳しそうですね」
「やるだけやってみましょう。それでフユミーさんを起こしましょう!」
「そうですね! 1度やるだけやってみましょうか! 洗浄魔術をかけてから!」
「……粉が残っているかもしれませんものね」
私達は自分自身に洗浄魔術をかけた。
これで、フユミーさんと一緒に寝て夢を見れる状態は整った。
「……わたくしはいつも通り1番右側のベッドにいますので」
「わかりましたわ! それではフユミーさん! 一緒に眠りますわよ!」
白く輝いているフユミーさんを挟んでわたしとクラリスさんは同じベッドに乗った。
「無断で主様と同衾は本来いけないことですが、今は緊急事態ですからね! それではユーリちゃん、寝ましょう!」
「そうですわね!」
フユミーさんの右手を握って魔力を流し込む。
「……ぅっ」
「反応はありますわね。これなら……」
目を閉じて睡魔がやってくるのを待つ。
不思議なことに目を閉じてもフユミーさんの光は瞼越しには見えなかった。
目を開ければフユミーさんが光っていることに変わりないけど、なんだ不思議な状態だ。
後は、フユミーさんの夢のなかに入れればいい。
やってきた眠気に従って、重要な昼寝が始まりを告げた。
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