第23話 戦闘できなきゃお荷物のゴミ。

 魔力の気配をそれなりに探りながらヌンエントプス森林をまだまだ歩く。

 ……行く先に3体、か。


「フユミヤ、先に火の魔力で攻撃してくれ。当たったのを合図にして俺達は行く」

「奇襲ですね。わかりました」


 すでに準備していた杖に火の魔力を込め、前に見えているカラフルな毛むくじゃらの厄災の獣3体に向けて飛ばす。

 ……なんか、光の魔力より扱いづらさを感じるのは気のせいだろうか?

 光の魔力より飛ぶ速度が遅くて広がりづらい?

 違和感があるのはどうしてだろう。


 疑問を抱きながら操った火の魔力が厄災の獣達に当たる。

 ……手応えが少ない。

 これが、光の魔力との違いってこと?


「フユミヤ! しっかりしろ! 戦闘中だ。俺達は行くからな」

「あっ……、わかりました。お気をつけて」


 とは言ったが、電気の魔力を杖に込めながら次の検証段階に移る。

 前には3体もいるんだ。

 ちょっとくらい試させてもらおう。


 ユーリちゃんの魔力が厄災の獣方向へ向かう。

 それを追いかけるように魔力を放てば……!


「……速さが違う?」


 私とユーリちゃんが狙った厄災の獣に魔力が当たったのはほぼ同時だ。

 どういうわけか遅れて撃った私の方が当たったタイミングが早い。

 さっき打った火の魔力とは全然速度も手応えも違う。

 これは一体……。


「フユミーさん、戦闘中に考えごとは良くないですわ! 行きますわよ! 厄災の獣が生き残っているようなら倒す補助に回らなくては!」

「わ、わかった」


 駆けるユーリちゃんを追って私も駆けだす。

 ユ、ユーリちゃん足早い~……。


 ……コルドリウスさんだいぶ後方にいるけど、大丈夫なのかな?








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「あら、貴女達来たのね~。厄災の獣はちょうど片付いたところよ~。フユミヤとユーリが数を減らしてくれたおかげでだいぶ楽出来たわ~」

「……というところで悪いが魔力中和を頼む」

「……?」


 魔力中和は杖を持っている人がすることなのだろうか?

 でも、最初に出くわした時のヴィクトール様、普通に魔力中和していたような……?


「当然やりますわ! 杖を扱う人の方が魔力の消費量は少ないですもの」

「……そういう理由があるんだ」

「そうなのよね~。近くで戦って魔力中和もすると魔力の消費量が多くなることには驚いたわ~。その時だけ杖を持てば違くはなるけど、今は頼れる杖使いが2人いるもの、頼らなくっちゃ~、ね?」


 セラ様に促されるまま魔力中和を進める。

 この時は光の魔力を使っているが、他の属性の方が魔力の消費が少なくなるのだろうか。

 ……でも電気の魔力は地面がカピカピになりそうだ。

 あの魔力は攻撃に特化しているのかな?


「フユミーさん、このくらいでよろしいと思いますわ」

「……そうだね」


 厄災の獣の血痕は消えて、辺りには赤黒い肉塊が2つ転がっている。

 後はこれを薄い石で包めればいいけれど、できるのだろうか?


「フユミーさん、肉の保存処理はわたくしが行いますわ」

「えっ、私、できそうだけど……」

「適性の無さすぎる魔力の属性を無理して扱うと魔力の消費量は多くなってしまいますわ。ここはわたくしに任せてくださいまし」

「そ、そうなんだ……」


 ……私にできること、戦いとその後処理の魔力中和しかないの?

 戦わなきゃ役立たずのお荷物のゴミじゃん……。


 それじゃあ、ユーリちゃんに魔力を扱わせない方がいいよね?

 こういった後処理の出来ない私はなるべく戦闘で魔力を使って厄災の獣を倒して魔力中和までしてから、お肉が出たらユーリちゃんにバトンタッチして保存処理お願いした方がいいのかも?


「フユミヤ~? もうお肉は鞄にしまったわよ~。考えごとはおしまいにしましょう?」

「ご、ごめんなさい」

「謝ることじゃないわ~。なにを考えていたの?」

「私はもう少し戦いに参加するべきかと思いまして……」

「どうしてかしら?」

「……ユーリさんの魔力消費量が気になったんです」

「わたくし?」


 ユーリちゃんが首を傾げる。

 彼女はまだ4歳で、確か魔力が成長しきっていないとかそんなこと言っていなかっただろうか。

 無理をして魔力を消費させてその結果、成長を阻害してしまうなんてことはあってはならない。

 地球換算で何歳かはすぐには出せないけれど、彼女はまだ児童と呼べる年齢かそれ以下の年齢だ。

 その年齢にしては体はずいぶん大きくても、大人として生きた記憶があったとしても無理をさせてはいけない。


「ユーリさんはまだ4歳です。魔力が十分に成長しきっていない中で多くの魔力を消費させ、……い、いふぁい」


 突然ユーリちゃんに思いっきり頬を引っ張られる。

 ……どうしてこのようなことを?


「魔力の扱い方がドド下手くそで出力が不安定で戦闘経験がわたくしよりもないフユミーさんに言われたくありませんわ! わたくしの限界はわたくしが一番わかっていますから余計な心配などせず、自分がすべきことに集中してくださいまし!」

「フユミヤのほっぺ、よく伸びるわね~。私も引っ張っちゃおうかしら~」

「……な、なんれ」


 両頬が引っ張られる。

 今ってこんなことしていいんだっけ……?

 ヴィクトール様の方を見ると思いっきりよそを見ている。

 じゃあ、コルドリウスさんは……、不機嫌そうに腕を組んで真顔でガン見している。

 睨みつけないのはヴィクトール様の視界に映る可能性があるからだろうか?

 ……色々と怖い人だ。

 そのうちヴィクトール様がいないところでなにかを言われそうな気がする。

 今から心の覚悟を固めておこう。








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ……満足したのか、両頬が解放される。

 ちょっと痛い……。


「フユミーさん、わたくしが先ほど言ったこと、覚えていますわよね?」

「自分がすべきことに集中する……、でいいんだよね?」

「最後の方のことしか言ってませんが……、まあいいでしょう。まだまだ先は長いですし、行きましょうか」

「並び順はどうするのかしら、お兄様?」

「先ほどと同じでいいだろう。コルドリウスは最初ので魔力の消費量が多い。まだ休ませる」

「ヴィクトール殿下、わたくしはやれます!」

「厄災の獣の数が多かったら出ていい。片手で数え切れる数なら下がっておけ。そのくらいは俺達がやる。先は長いんだ。余力は残せ」

「……承知いたしました」


 すごすごとコルドリウスさんが後ろに下がる。

 ……そんなに最初の戦闘での魔力の消費量が多いのだろうか。


「フユミヤはセラの隣じゃなくて先頭を歩く俺の隣を歩くんだ。どうせ奇襲をかけるんだ。前にいた方がいいだろう」

「……わかりました」


 先ほどの並び順とは違うような……。

 とりあえず、前にいるヴィクトール様の隣に出る。


「よし、それじゃあ出発、だな。行くぞ!」








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ……歩いている道が、急に上り坂になってきたような。

 地面を見てみると、湿った土の色から薄青の砂利のようなものが混ざったものに変わってきている。

 木の葉っぱも、濃い緑色じゃなくて遠い場所から見るような青っぽい色になっている。

 葉っぱの色って赤、オレンジ、黄色、黄緑、緑くらいだと思うけど、葉っぱにしては青すぎないかな?


「ここからがフォルトゥリア山道か……」


 ヴィクトール様も場所が変わってきたことに気づいたらしい。

 後ろのセラ様たちに話があるのか後ろを向いた。


「ヌンエントプス森林を抜けたぞ! これからは俺たち全員はフォルトゥリア山道へ突入する! 厄災の獣の強さは未知のため、各自油断するなよ!」

「承知いたしました!」


 元気よく返事をするコルドリウスさん、うなづくセラ様とユーリちゃん、私もとりあえず頷いておいた。

 ……魔力の気配、弱めだけどある。

 杖の準備をしないと。


「早速魔力の気配か。もう少し近づいて厄災の獣かどうか確認するぞ。来い、フユミヤ」


 素早く先を進むヴィクトール様に遅れて駆けだす私。

 歩幅とかそもそもの素早さが違うから小走りじゃないと追いつかないのだ。


 ……これ、普通の厄災の獣の魔力の気配じゃないような。

 前へ行けば行くほど、ある一つの魔力の気配が強くなっていく。

 他の十数もの魔力の気配は弱いけど、強い魔力の気配に取り込まれていってるような……。


「……ただの厄災の獣の気配ではなさそうだな。……コルドリウス! セラの近くに来るんだ!」

「拝命いたしました!! すぐ参ります!」


 勢いよくセラ様の近くにダッシュしてきたコルドリウスさん。

 声に弾みもあるし、嬉しそうだ。


 ……大声で厄災の獣は反応しないらしい。

 強い魔力の気配は、弱い魔力の気配を取り込んでいっているのか、それを追っている。


「……ずいぶん変わった気配ね~。魔力を取り込む厄災の獣なんて聞いたことないけれど、どういうことかしら~?」

「これは気を付けて進みつつ、迎撃の準備をしなくてはな。全員いつでも戦える準備はしておけ」

「承知いたしました!」


 私はもうすでに準備は完了しているので、ユーリちゃんの様子を見る。

 うん、ユーリちゃんも杖を構えているね。

 なら、大丈夫か。








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 角度のきつい上り坂が続く。

 厄災の獣とはまだ出くわしていないけれど、相変わらず強い魔力の気配を感じる。


「……魔力中和がされていないな。ずいぶんにおう」

「……におい?」


 特ににおいのようなものは感じない。

 無臭だ。

 ……夜がわかりにくいみたいな現象のように私だけに起こっているおかしい状態なのだろうか。


「このくささ、わからないのか?」

「無臭、ですね……」

「セラ、コルドリウス、ユーリ、どうだ? この場所はにおうか?」

におってはいるわよね……」

「……正直すぐにでも上空に上がりたいくらいです」

「また、フユミーさんの変わっているところが出ていますわね……。わたくしもにおいの方は感じています」


 4対1で私の負け。

 なんで私は臭いがわからないの?

 ……でも、この世界のラーメンの匂いとか、厄災の獣の肉とかにも多少の風味はあるし、嗅覚は正常なはずなんだけどな。

 一体なんなんだろう、この体質。


「……この様子だとフユミヤの魔力中和には終わりの合図が必要そうだな」

「道理で魔力中和を終わらせるタイミングがいつも遅いと思っていましたけれど、そういう理由がございましたのね……。他のにおいはわかりますの?」

「食べている時とかはわかるけど……、他はまだ……」

「……香水の類があれば嗅覚が正常かどうか試せますが、今試すわけにもいきませんわね。今晩にでも試せればよいのですが……」

「私、持っているわよ~? 今晩試してみましょう。……試してみて普通だったらこの臭いをフユミヤが感じない理由を考えないといけないのよね~」

「魔力中和はできているのに、その原因がわからないというのも難儀なものだな……。今は魔力中和を行おう。フユミヤ、試しにやってみてくれるか?」

「わかりました」


 試しに、とは言われたもののいつものように光の魔力を地面にく。

 ……今回は血痕の類が見られないからわかりづらいから、もう少し散らせないかな?

 意味があるかはわからないが適当に薄い光を撒き散らしておく。


「……この辺りの臭いは消えたな。フユミヤ、もういいぞ」

「……?」


 このくらいの量の魔力でいいのか……?

 とは思わなくはないけど、魔力の消費がいつもより少なく済んだのもなにかしら理由かあるかもしれない。

 とりあえず光の魔力の撒き散らしを終わらせよう。

 ……ただ、まだまだ臭いの発生源はありそうだ。

 最終的な結果として普段の魔力中和とそこまで変わらない魔力の消費をしそうな気がする。

 夜がわかりにくい視界といい、今回のこの魔力中和が必要そうな場所の臭いがわからない嗅覚といい、妙に役立たない体質が他にも存在しているだなんて思いもしなかった。

 わかっていないだけで他にもなにか変な体質でもあるのだろうか?


「妙な厄災の獣はまだ他の魔力の気配を取り込んでいるようだな。……引き続き警戒しつつ臭う場所には魔力中和を行うぞ。先へ進もう」


 ヴィクトール様が歩き始めたので慌ててその後に続く。

 だいぶキツい上り坂なのに、よくもまあ早く進めるものだ。

 今は魔力による補正でもあるのか今の私はへばってはいないけれど、地球の私だったらずいぶん前にへばって歩けなくなっていたはずだ。

 通勤以外で体を動かす習慣なんてなかったし、こんな傾斜けいしゃの急な山道を歩いた経験なんて全くない。

 ……地球で生きていた過去の記憶だけがこの体にはある。

 どういうわけか私がこの体を動かしているけれど、どうして私が動かしているのだろうか。

 転生するべき人はもっと他にいるとは思うのだけれど……。

 文句を言ったところでなにかが変わるわけではない。

 今はとりあえず、辺りの魔力の気配を探りながら歩こう。

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