第24話 謎の厄災の獣を撃退、そして野宿開始

 妙に強くて奇妙な行動する魔力の気配が弱い魔力の気配を全て消して、私達の方へ近づいてくる。

 近づく速度も、魔力の気配を消す速度もずいぶん早いような?


「……全員戦闘準備をしろ! フユミヤはデンキの魔力を準備、妙な厄災の獣が現れ次第速攻で撃て!」

「わかりました……!」


 電気の魔力を杖に貯める。

 妙な魔力の気配が視界の範囲内に入ってくるまで5、4、3、2、1、

 ……撃っていいやつ!


 思いっきり杖に貯めた魔力を、前に現れた黒い五つ首の化け物ケルベロスのパチモンに向かって放つ。

 避ける素振りを見せるが、そこは杖で放った魔力を操作して無理やり当てた。

 動きに鈍いものを感じさせるものはあるが、こちらへ近づいてこようとしている。

 ……ヌンエントプス森林の厄災の獣よりもずいぶん強そうだ。


「フユミヤはユーリの近くで魔術による攻撃を続行。セラ、コルドリウス、俺達は厄災の獣と交戦するぞ!」

「わかったわ~」

「承知いたしましたァ!」

「……はやっ」


 コルドリウスさんがものすごい勢いで駆け出してもう五つ首の化け物ケルベロスのパチモンに剣で攻撃を始めている。

 五つ首の化け物ケルベロスのパチモンは反撃したいが、うまく体を動かせないのか一方的に攻撃を受けているだけだ。


「……俺達も行こう。ユーリ! こっちに来れるか?」

「すぐ行きますわ~!」

「ならいい。じゃあ行くからな。気をつけろよフユミヤ」

「大丈夫です」


 ヴィクトール様とセラ様が前に進むのと同時にもう一発電気の魔力をコルドリウスさんを巻き込まないように魔力を回り込ませて五つ首の化け物ケルベロスのパチモンの背後へ当てる。


「結構攻撃をする必要がありそう……?」

「ですわね。ヌンエントプス森林の厄災の獣とは全然硬さも別物ですわね。当然わたくしもやりますわよ!」


 ユーリちゃんが貯めていた風の魔力を五つ首の化け物ケルベロスのパチモンに向かって放つ。

 ……結構強い魔力を当てているはずだけど、まだ五つ首の化け物ケルベロスのパチモンは倒れない。

 動きが鈍くなっている理由ははっきりとしないが、タコ殴りができる状態なのでこのまま全員無傷で倒せそうだ。








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 5回目の魔力攻撃の果てに、五つ首の化け物ケルベロスのパチモンは地に伏した。

 倒せたのだろうか?


「フユミヤ! ユーリ! こっちに来ていい! 魔力中和も頼む!」

「……これ以上にないくらいくっせぇですわね」

「そうなの?」

「こんな臭っていますのにわかりませんの!? 先に行って魔力中和を開始してくださいまし!」

「わかった」


 地に伏した五つ首の化け物ケルベロスのパチモンに近づいて化け物の体液が飛び散る地面に光の魔力で魔力中和を行う。

 ……魔力中和も結構不思議で、水だったり洗剤だったりを撒き散らしていないのにも関わらず汚れのような物が消えていく。

 傍目から見ればただ光を当てているだけなのに10秒もしないうちに汚れが落ちていくだなんて考えられないことだ。


 五つ首の化け物ケルベロスのパチモンの体が溶けていく。

 いつもは遠くにいるから見れなかったけど、倒した厄災の獣って溶けるのか。

 変な現象だな……。


「…フユミヤ、そろそろこのあたりでやめていいぞ」

「わかりました」


 光の魔力を撒くのを止めて杖に魔力を込めることも止めて小型化させる。

 周りの人達も戦闘態勢を解いていたため、それにならった。


「さて、これからだが……、ユーリ、地図は持ってきているか?」

「もちろん持ってきていますが……、ヴィクトール様の地図にしませんの?」

「あれはデカすぎる。外で広げるのには向いていない。方角が間違っていないか確認するだけだ。」

「わかりましたわ……。これですわ」


 ユーリちゃんが鞄から地図を取り出してヴィクトール様に手渡す。

 渡された地図を広げて確認するヴィクトール様の背後から地図を覗く。

 ぱっと見、問題なさそうに見えるが、この世界の地図の見方もわからない私が良しと判断するのも良くないので1回距離を取る。


「町は……すぐ近くになさそうだな。もう15時だ。野営の準備に取り掛かるとしよう。ユーリ、助かった。返すぞ」

「どういたしましてですわ〜。夜ももう近いですのね。わたくしも臨時拠点作り、お手伝いいたしますわ!」

「いや俺一人でやる。ユーリは他の部分で魔力を使ってくれ。セラ、小型の空魔石はあるか?」

「当然用意しているわ〜。ないと真っ暗な中色々なことをしないといけなくなっちゃうもの〜」

「ヴィクトール殿下、わたくしは一体なにをすればよろしいでしょうか!?」

「コルドリウスは待機だ。臨時拠点ができるまで待つんだ。フユミヤもな」

「……承知いたしました」

「わかりました」


 しばらく何もする必要はないので魔力の気配でも漁って時間を潰す。

 今のところは魔力の気配も自分達の魔力の気配しか感じられない。

 手早く済めば厄災の獣に会うことなく臨時拠点の中へ入れそうだ。








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「あとは全員がこの中に入れば、臨時拠点が完成する。全員入ってくれないか!」


 臨時拠点、とても単純な青い巨大な直方体ができかけていた。

 ……なるほど、これはたしかに臨時。

 ヴィクトール様に言われるがまま中に入って辺りを見回したが、床も壁も天井も全部同じ色って大丈夫なのだろうか?

 まあ、1日くらいなら大丈夫なはずだろう。

 多分。


「これで全員入ったな。じゃあ最後の壁を作るぞ」


 ガラ空きの空間が塞がる。

 開放感が一気に無くなって閉塞感溢れる部屋になった。

 地球だったら二酸化炭素が充満して窒息して死んでしまいそうだ。

 でもこの世界、どういうわけか息が苦しくなるといった現象がない。

 そのため窓や空気穴のない建築物が普通にある。

 現に拠点も各自の部屋には窓がなかった。

 廊下には光を確認するための穴のようなものはあったけど、それだけで空気の入れ替えができるかというと疑問が残る部分が多い。

 一体この体はなにを吸ってなにを吐いているのやら。


「それじゃあ明かりを設置していくわよ〜」


 セラ様が光っている魔石を壁に埋め込んでいく。

 そこまで光量があるわけではないけれど、全員の様子をある程度見れるくらいまでは視界がはっきりしてきた。


「これで臨時拠点はほぼ完成ね〜。後は寝る前に仕切りを設けるくらいかしら〜」

「今日はここで夜を明かすぞ。まずは17時までに夕食を取り、いつでも寝袋を広げられる状態にしておこう」

「夕食の肉は一人何枚ですの?」

「1人1塊までなら好きに食べていい。補給はできるだけしといて損はないだろう」

「いつもと全然違いますのね……」

「次は町まで夜通し歩く可能性もあるからな。食事で少しでも魔力を補給しておくんだ」


 ……徹夜で町に向かって歩くことがあるのか。

 体力、持つかな……。


「というわけで夕食ね〜。各自好きな肉を食べるのよ〜」

「フユミーさんはわたくしの蓄えを分けますのでそれを焼いて食べますわよ」

「焼いて食べるとは一体どういうことだ? 別にそのままでもいいだろう?」

「わたくし達は焼いて食べる派ですの。そのままでも食べれなくはないでしょうけど、とにかく焼きたいのですわ」


 この世界には肉を焼いて食べる習慣がないのか、コルドリウスさんに突っ込まれる。

 お腹を壊さないとわかっていても魚の刺身以外の生肉を食べたいとは思わないかな。


「……変な習慣だな」

些細ささいなことを気にするな、コルドリウス。お前は肉を持っているか? なかったらこれを渡すが……」

「……よろしいのですか!? ヴィクトール殿下からこのようにいただけることなんてわたくしは幸せ者です。喜んで受け取りますとも」


 ヴィクトール様が黒い石に包まれた肉を渡す。

 ……こんな肉見たことあったっけ?

 首を傾げているうちに肩を軽く叩かれる。

 ユーリちゃんだ。

 どうしたんだろう?


「フユミーさん、せっかくですし、とりのからあげの味がするお肉を食べませんこと? 量も十分ありますし、どうでしょうか」


 こそこそと囁いてきたのでとりあえず頷く。

 鶏のからあげといってもいろいろな味があると思うけど、どういうからあげの味なのだろうか?


「それではさっそく焼きますわよ! 今回は私がすべて用意しますので、フユミーさんは適当にくつろいでいただいてよろしいですわ!」

「焼くなら広いスペースを取ったほうがいいような……」

「ならあそこの角で用意しますわよ!」


 そそくさと角の方へ移動する。

 おいしいと確定しているお肉を食べるのだ。

 多少の後ろめたさはあるけれど、からあげ味の肉とはなにかを調べるためには地球の日本出身でないと意味がない。

 ユーリちゃんが全部やるけど、料理のできない私はただただそれが焼き上がるまで待つことだけしかできない。


「さて、まずは土の魔力で調理器具と皿を用意いたしますわ」

「……フライパン?」


 調理器具と言いながら土の魔力で出したのは色こそ焦げ茶といえどフライパンそのものだ。

 フライパン、出せるのか……。


「浅いほうが揚げ焼きができますもの。鉄板よりもおいしくできますわよ?」

「いつも鉄板なのは……」

「なんだかんだでアレが楽ではありますの。厄災の獣と大して戦わない日は食べる量も少ないですし……。でも今回は特別ですもの。油だって入れられますわ〜」


 そう言いながらユーリちゃんはフライパンに油と称した液体を投入した。

 ……本当に油なのだろうか


「……油ってなんの魔力で出してるの?」

「水ですわ。お師匠様が水の魔力で出せるとそう仰っていましたもの」

「油って、水?」

「深く考えてはいけませんわ。出すことができたのであれば問題ないですのよ。ここで肉を出しまして……」

「なんかずいぶんカラフルだけど……」

「ウルトラスーパーレアの虹色ですわ。とてもおいしいとわかっている物はこのくらいしなくては……! さて、石の膜も解きまして……。フユミーさん、肉は切ります?」

「からあげサイズでいいんじゃないかな?」

「そうですわね。からあげですもの……」


 風の魔力で肉を手のひら大に切っていく。

 ……焼いたら縮むとはいえ、なんかでかいような?


「食べれるお肉が大体8個ですわね。4、4で分けることにしますわ。それでいいですわよね?」

「うん」

「さて、とっとと焼きますわよ〜!」


 ユーリちゃんが肉を1つ、土の魔力製トングでフライパンにいれる。

 肉が揚がる音がフライパンから鳴り出す。

 本当に揚げられるんだ……。


「どんどん突っ込みますわよ〜」


 2、3、4つ目の肉が投入された。

 ジュワジュワと油の泡が肉に寄せ集まってくる。

 その隙に1つ目の肉がひっくり返された。

 ……一見もう食べられそうに見えるけど高温で揚げているからまだ表面だけしか加熱されてないんだよね。

 陸上生物の肉は中までしっかり火は通さないと。

 フライパンみっちみちに肉が詰まっているので後3つの肉は後になりそうだ。


「……さて、1つ目は完成ですわね。フユミーさん先に食べてくださいまし。私は次に揚がる肉を食べますわ」


 小さい小皿に乗ったどデカいサイズの肉の素揚げを受け取る。

 見た目とかは違うけど、匂いとかはなんか近いかも?


「……ありがとう。……匂いとかは本当にからあげっぽいかも?」

「ふっふっふっ……、これを使って食べてくださいまし」

「箸? わかった……」


 箸で肉の素揚げを掴んでほんの少しだけ口に含んでみる。

 歯触りの良いサクサク感、かじったところから滴る肉汁、全然見た目は違うのに、完全にからあげだ!

 熱いけど、息を吹きかけながら食べていく。

 うん、おいしい!


「フユミーさん、どうですの? ご感想の方は……?」

「とてもからあげの味でおいしい〜」

「知能が退化してしまうほどうめぇんですわよね、久々のからあげの味ってものは……。わたくしも食べませんと……!」


 サクッと小気味の良い音が辺りに響き渡る。

 正直、米が欲しい。

 米があったらもっと美味しく食べられるはずなのに!








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「さて、フユミーさん、わたくし達は2つ目のからあげを食べました。……そろそろ味変と洒落込みませんこと?」

「あ、味変? レモンとかマヨネーズとかは別に……」

「そんな邪道な調味料ではありませんわ。……油淋鶏ユーリンチーのたれ、かけませんこと?」

「ゆ、油淋鶏!? そのたれがどこに……?」

「なんと、水の魔力で作れますのよ!」

「み、水の魔力って、なに? 水とは、一体……?」

「深く考えたら深淵に飲まれますわ……。とにかく作れるものは作れるのです。辛味は全く無いので安心してくださいまし」


 辛味、人によって感受性は違うよね……。

 外食のカレーの中辛を食べたらピッチャーの水を枯らすくらい飲んでしまうくらい辛味耐性は皆無だけど、油淋鶏は美味しいから唐辛子マーク1つくらいなら頼んで食べていた。

 辛いタレが別添えで出てくることもあるのでそれを避ければあの酸味の効いたたれだけで行けるのだ。

 ああ、でも……、


「米が欲しい……」

「わかりますが、ないものはないのですわ……。さて、最後の4枚、揚げますわよ〜」


 ドカドカと投入される肉4枚が揚がっていく。

 揚がったらこれに油淋鶏のたれかけて食べるんだ……。








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「さて、全部揚がりましたのでたれをかけますわ」

「……杖を使うの?」

「手から出たらなんだか不衛生だと思いまして……、ということであえて杖を使いますわ」


 確かに手から飲食物が出てきたら 汚いかも……。

 杖は杖でコントロールとかどうするんだろうとか思いはするけど、なんとかしてみせそうだ。


「このくらいの魔力で……、それっ!」


 茶色い液体が肉の素揚げに降りかかる。

 こんな少量で出せるのか……。


「さて、これでたれがかかりましたので食べますわよ〜!。 フユミーさんも食べましょう!」

「うん」


 油淋鶏のたれらしきものがかかったお肉を食べる。

 ……えっこれ本当に油淋鶏じゃん。


 このたれが水の魔力で出せてしまうとは……?

 魔力って本当に不思議だな。

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