第64話 魔石集めは続く
爽やかな味のする肉を食べ、私とルプアが最初に止まった不思議な宿の通りを通った先にアーデルダルド湖畔はあった。
湖自体はずいぶん先の方に広がっているようで、所々に深緑色の葉をした木々が密集している。
……この世界の湖の水の色って地球の常識的な範囲の色をしているのかな?
少し怖いけど、進むしかない。
コルドリウスさんとクラリスさんを前にして私達はアーデルダルド湖畔を歩いている。
湖の水の色は普通だった。
少し濁りはあるが、至って普通の湖だ。
「……魔力の気配、水の中からしますわね」
「湖の水、相当穢れているんじゃないの? 臭いよね」
「まあ、臭かったですよ。戦うのも嫌だったので走ってクレニリアの町まで駆け抜けましたが……」
「クラリスちゃんはこの湖畔の厄災の獣とは戦ってないってこと?」
「森になっているところでは戦いましたが、湖の方では戦っていませんね」
「もしかすると相当強いんじゃない? 楽しみだね、コルドリウスくん」
「……魔石の効率としては良くないのでは?」
「そこはね、頑張ってね。アタシとしては闇の魔石がたくさん手に入れられればいいからさ。フユミヤちゃんも今回は一撃撃破厳しそうじゃない?」
「……どうなんだろう? まだ試したことないし、あっ、厄災の獣が出てきたよ。半魚人……?」
上半分がピンク色の魚で、下半分から鱗のついた人間のような足が5本生えた厄災の獣が現れた。
「ここはフユミヤちゃんが試し打ちかな。やってみて」
「わかった」
いつも通り闇の魔力を放つ。
「一撃は少し厳しそうだね」
「何発でも打っちゃって! 今なら場所変えられるよ!」
「うん」
魔石の採取が目的なので、魔石の元となる魔力で攻撃できる人しか攻撃はできない。
他の属性の魔力が混ざったら肉になってしまうからね。
仕方ないね。
とりあえず、様子を見ながら闇の魔力をピンク色の半魚人に打つ。
「もう動かなさそう?」
「だね。このくらいか〜。モラグドルス森林よりかは強い厄災の獣になってるね。コルドリウスくん、いけそう?」
「……なんとかしてみせます」
「フユミヤちゃんは基本的にコルドリウスくんが戦っていない厄災の獣を狩っていればよさそうだね」
「……その数、すごい多かったりしない?」
「フユミヤちゃんの魔力がなくなっちゃうくらい頑張ろうね♡ 頑張れ♡ 頑張れ♡ フユミヤちゃん♡」
「……ルプアはどれだけ闇の魔石が欲しいの?」
「あればあるほど!」
「実質無限ってことではないですか……。お師匠様、フユミーさんの魔力がなくなってきたらわたくし達も援護に回っても構いませんよね?」
「まあそうなったら魔石集めて撤退だけど……、そうはなるよね。フユミヤちゃん、魔力の減り具合については適宜報告ね!」
「わかった」
ここでロトスの町の大厄災の獣との戦いみたいに考えなしに戦ってはダメだ。
自分の体調を見ながら戦っていこう。
「さて、次も来たよ。コルドリウスくんも戦おうか」
「承知しました」
「フユミヤちゃんはコルドリウスくんと戦っていない厄災の獣に攻撃。細かいことはアタシが指示するからまずはそれでよろしく!」
「わかった」
ルプアの指示をあてにして私とコルドリウスさんは戦闘を始める。
今回はいつもの戦闘よりも厄災の獣との距離は近くする。
近ければ近いほど、魔力攻撃の威力は上がっていくため、危険を侵してでも前に出るのだ。
私が治療魔術を使えるとはいえ、コルドリウスさんがタコ殴りにされるのは避けたいしね。
コルドリウスさんが1番近くの厄災の獣に攻撃したから、私はそれ以外の厄災の獣に攻撃かな。
「主様! 湖には落ちないように気をつけてくださいね!」
「わかった!」
確かに湖は近い。
ここから厄災の獣は湧いてきているしなにかありそうだ。
クラリスさんに言われた通り、気をつけよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……これで俺が倒したのは1体か」
やっとコルドリウスさんが1体目の厄災の獣を倒したようだ。
私はもう10体以上は倒している。
……これ、コルドリウスさんには厳しいんじゃないかな。
「フユミヤちゃん、あえて1体見逃してこっち側に寄せてね! それ以外は闇の魔力でやっていいけど、今の調子は?」
「普通!」
倦怠感も眠気もない。
全然正常だ。
まだまだ自分、やれる。
「ならいいかな! それじゃあそういうことで! フユミヤちゃんは湖から上がりかけの厄災の獣には攻撃しないようにね! 効率いいのはわかるけど湖に魔石落ちたらアタシが拾えないから!」
「……わかった」
だいぶ湖に近づいてしまったようだから5歩くらい下がってみる。
効果があるかは知らないけど、とりあえず落ちにくくはなっただろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「2体目を倒したぞ! フユミヤ、俺に3体目の厄災の獣を回してくれ!」
「わかった!」
今近くにいる厄災の獣は私が闇の魔力で攻撃したので、こちらに寄ってこない厄災の獣を見逃す。
……最初に攻撃した厄災の獣の遺体が魔石になったからルプアが飛行魔術を使いながら闇の魔石を回収している。
そんな泥棒みたいなことをしなくてもいいのに……。
それはそれとしてまだまだ厄災の獣は湧いてきているのでそれらを闇の魔力で攻撃する。
私の体調の方に特に問題はないのでまだまだやれそうだけど、コルドリウスさんの消耗が気になる。
そろそろこの魔石狩りも終わりも近いのかもしれない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「アキュルロッテ様! 兄上が限界です」
「うるさいぞクラリス! 俺はまだやれる!」
やはり、コルドリウスさんの消耗は大きかったようだ。
クラリスさんに反論しているコルドリウスさんの声に疲れはある。
「身体強化となるとこれが限界か。フユミヤちゃん、厄災の獣は湧かなくなるまで攻撃を続けてて。コルドリウスくんは魔石の合体。3体分でもモラグドルス森林の物よりは質は良さそうに見えるよ」
「なら私もアーデルダルド湖畔で戦ったほうがよかったんですかね?」
「うーん、モラグドルス森林では数は稼げたからね……。結果としてはどっちもどっちじゃない? 魔力が多すぎても魔力武器にするには作りづらいとかもあったりするし」
「できる武器に変わりはないってことですか?」
「そそそ。なんならスペアとかできるくらい魔石を集められても困らせるんだよね。練習にはなるけどさ」
「なるほど……」
「そろそろ魔力中和を始めてもよろしいのではなくって? 臭いが強くなってますわ」
「ちょっと待って。フユミヤちゃんの闇の魔石急いで集めてくる」
「……お師匠様はすぐにこれですわ」
ルプアがまたどさくさに紛れて闇の魔石を集めに来るようだ。
戦況が落ち着いたらでいいのに……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
湖から厄災の獣が湧かなくなった。
魔力中和をしたのがやはり大きいのだろうか?
「ここは町に戻りたいところだけど、少し気になる魔力の気配を感じているからそっちに寄ってからでいい?」
「それって封印の……、今手は出さないよね?」
「フユミヤちゃん働かせたばかりなのにそれはさすがにしないよ。夜になっちゃうし」
「……なにを言っていますの? とりあえず寄ってきたら良いのではなくって?」
「それじゃ遠慮なく……、フユミヤちゃん、飛ぶよ」
「飛ぶの!?」
「飛ばないと見れないからね」
「お師匠様! お待ちくださいまし! わたくしも行きますわ!」
「逃げるつもりはないから。クラリスちゃんとコルドリウスくんはそこで待ってて。確認次第すぐ戻るから」
そう言ってルプアは私を抱き上げて低めに空を飛んだ。
……低空飛行なのには理由があるのだろうか?
「お師匠様、この気配はなんですの? なんだか変わった気配がしていますが……」
「封印されし大厄災の獣の気配」
「まっ! そうなんですの!? そんなものがどうしてここに!?」
「大厄災の獣は色々な場所に存在するからね。固まって存在している方が怪しいの」
「そういうものですか……」
「ちょうどいいところに陸地があるね。そこに降りてみよっか」
「……あの大木、凍っていますわ」
「ならあの木自体が封印されし大厄災の獣だね」
「一体どうしてこの木が封印されているのでしょうか……」
「厄介な性質でもあるんじゃない? とりあえず、クラリスちゃんの大厄災の獣戦の初陣の相手にしてみましょうか」
「エッ、いきなり大厄災の獣と戦わせるの!?」
クラリスさん、厄災の獣との戦いが苦手とかって言ってなかったっけ。
それなのに大厄災の獣と戦わせてしまっても良いのだろうか?
「え〜、フユミヤの騎士っていうくらいならさ〜。大厄災の獣との戦いはできてもいいじゃない。せっかく魔力の真髄に辿り着いたんだから自信つけてもらわないと!」
「そんな理由で大厄災の獣と戦わせますの!? わたくしとコルドリウスさんの攻撃は大して効きませんのに!?」
「……ユーリに関してはフユミヤちゃんの光の魔力を分ければなんとかなるんじゃない? 記念硬貨欲しいから私にもやってもらうけど」
「……あの方法で分けるの?」
「なんですの? その方法って」
「サクラ直伝、魔力の分け方。人を抱きしめて魔力を送ればその人の属性の魔力が使えるとのこと。アタシは持っておく方で試したけど、1日くらいで抜けていくから使ったほうがいいよ」
「わたくしはフユミーさんに抱かれますの?」
言い方に語弊がある……。
私が抱きしめて魔力を送らないことにはユーリちゃんは光の魔力を持てないのは事実だけど。
「まあ、フユミヤちゃんが自分から抱きしめないことには魔力は分けられないよ。とりあえず、それは明日の朝宿の部屋でやるとして戻ろっか」
「……そうですわね。魔力が抜ける以上仕方ないですわ。……フユミーさん、やってくれますのよね?」
「やるから……、でもその方法広めていいの? クラリスさんにも見られるんじゃ」
「クラリスちゃんも抱けばいいじゃない」
「……魔力の真髄にたどり着いてるのにいるのかな?」
「3人抱くくらい問題ないでしょ。フユミヤちゃんが分ける魔力くらいは失うけど、失うものはほとんどないし。さて、戻りますか」
再び浮遊感。
明日の朝はルプア、ユーリちゃん、クラリスさん、3人に魔力を分けることになりそうだ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……逃げなかったのですか?」
「一応口約束とはいえユーリにごはんを作ったら出ていくとは言ったからね。作るまでは逃げるつもりはないよ。で、明日のことなんだけど……」
「……明日って私の魔力武器を取りに行く日ですよね? なにをするんです?」
「クラリスちゃんの魔力武器を受け取ったらすぐ、このアーデルダルド湖畔に来て封印されし大厄災の獣と戦うよ」
沈黙が走る。
コルドリウスさんとクラリスさんは信じられないとでも言うように目を見開いている。
「……え? なんでそんなことをするんですか!? 酷いですよ、アキュルロッテ様」
「………………正気でいらっしゃいますか?」
「大丈夫だって。もしもの時にはフユミヤちゃんがいるし、倒せるに決まってるってわけ。フユミヤちゃんの電気の魔力は大厄災の獣によく効くしね」
「その、封印されし大厄災の獣ってどこに……?」
「湖の中央辺り。陸地があって大木があるんだけど、それが封印されし大厄災の獣ってわけ」
「……植物系の厄災の獣は危険ではないでしょうか? それが大厄災の獣となると……」
「なんとかなるなる! とりあえずビビらず戦ってみようってことで! 花粉が出るような花とか咲いてなかったし!」
ルプア、そこまで見てたんだ……。
私はただ凍っている大きな木だなって思っていたけど……。
「……フユミヤには植物系の厄災の獣が出すような花粉や香りの耐性がないように見受けられます。それでもその封印を解くおつもりでしょうか?」
「……フユミヤちゃんにそれらの耐性がないの? うーん……、まあ、なんとかなるでしょう! アタシの攻撃も大厄災の獣に有効だからさ!」
「…………わかりました。戦うしかないのですね。」
諦めたかのようにコルドリウスさんは言う。
……はて、私は植物系の厄災の獣が出すような花粉や香りを嗅いだことがあったっけな?
でも1度だけ匂いを嗅いで意識が怪しくなったような……、あっ、催眠香の時か。
もしかしてそれのこと……?
たしかにそれだと耐性がないと言えるような……。
それでもし混乱して人に魔力を当てたらどうするの……?
本当に大丈夫?
「いきなり大厄災の獣で魔力武器を試すんですか〜? せめてここの厄災の獣で試してから行きません!? 死んじゃいますって!」
「治療魔術でなんとかなるでしょ? 大丈夫、フユミヤちゃん以外でも使えるのいるからね!」
「主様は自分から使ってくださりますが、他の方は隠しますよ!? 主様が動けなくなったらどうするんですか!?」
「そんなことあるわけないでしょ。なんとかなるって! フユミヤちゃんの強さならね!」
「お師匠様、フユミーさんの力を過信しすぎではなくって……?」
「だって〜、フユミヤちゃん、アタシが朝から戦って夜前に倒せるような大厄災の獣をあっけなく倒せちゃうんだもん! 1日で2体倒せた時なんてびっくりしちゃったんだから!」
「……お師匠様でさえそのくらいかかりますの!? ならなおさら戦い慣れていない方を混ぜるべきではないのでは?」
「封印だけしてたって限界は出るよ? それが来ないように戦える人は増やさないとね!」
「……それはそうですが。……フユミーさん明日はわたくしに魔力、分けてくださいね」
「うん」
魔力の分け方を気持ち悪がられるかもしれないけど、とりあえず明日やってみよう。
……倒せるよね?
ルプアと2人なら安心して倒せていたけど、戦い慣れていない人を増やすとなるとだいぶ不安だ。
明日の私達は無事でいられるのだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます